電子情報材料とケミカルズ【ケミカルズの基礎知識 第9回】
2021/06/01
今回は「電子情報材料とケミカルズ」を取り上げます。
第8回はこちら:印刷材料とケミカルズ
電子情報材料は新しいケミカルズです。半導体材料から始まり、記録材料、表示材料、電池材料、新光源材料へと発展し、現在のさまざまな電子情報機器を支えています。ここでは、情報技術を代表する液晶表示材料を取り上げます。液晶表示機器は1970年代に始まり、計算機、パソコン、テレビ、スマートフォンへと発展しました。以下に、液晶テレビに着目して関連するケミカルズの特徴を述べます。
1)液晶表示機器の歩み

表1 液晶表示装置の進歩と液晶材料
液晶は、液体でありながら結晶構造を持ちます。つまり、棒状の分子が同じ方向に配列した状態で存在するということです。液晶が表示材料に使われる契機は1968年に、RCA社のハイルマイヤーらのグループが、ネマティック液晶に電圧を加えると液晶を透過する光の散乱方向が変わることを見いだしたことに始まります。1970年代に、時計、電卓の表示として登場しました。最初はTNモード(ねじれネマティック:twisted nematic)が採用されましたが、1980年代に入り、応答性の良いSBEモード(超ねじれネマティック)が開発され、ワードプロセッサーに使用されるようになりました。1980年代後半にはa-Si TFT-LCD(アクティブマトリクス型薄膜トランジスタ)が開発され、表示品位が格段に向上しました。2000年以降は、液晶テレビの大型化に伴い周辺技術が急速に進歩しています。表1に液晶表示装置の変遷と液晶材料の進歩を示します。液晶材料の主流は初期のシアノビフェニル系から、ポリフッ素系に変化しました。また、現在液晶テレビに採用されている技術は、ノート型パソコンの技術が基本ですが、駆動方法や視野角などのさまざまな改善が採り入れられています。
2)液晶テレビの基本原理

図1 液晶テレビの基本構造と主要材料
液晶テレビ(ディスプレイ)の構造を図1に示します。バックライトから照射された光は、「偏光板A」→「液晶素子部」→「カラーフィルター」→「偏光板B」という順に通過し、色彩画像が映し出されます。ディスプレイは細分化された画素から構成されていますが、スイッチ機能を持つ電極がそれぞれの画素に取り付けられており、画素ごとにフィルター機能とシャッター機能を持っています。
偏光板は縞状の遮蔽物を内在する高分子膜で、照射光のうち縞模様に平行な波だけを透過させます。偏光板AとBは、透過面が直交して配置されます。液晶素子部は、液晶本体を2枚の配向膜で挟んだ構造です。液晶本体は棒状の高分子から構成され、両端に配置された2枚の配向膜の分子配向状態に追随して配列されます。さらに、電圧印加の有無で液晶素子の配列が変わり、光の透過が変化します。その結果、印加電圧の有無により画素ごとの光の透過性を制御でき、鮮明な画像を作り出すことができるのです。
アクティブマトリクス方式では電極が細分化された画素に対応するので、電気信号により画素の透過光を応答性良く制御できます。ディスプレイの色特性はカラーフィルターで左右されますが、独自の染料技術を生かしたカラーレジストは、カラーフィルターの高輝度、色再現性を実現しています。
3)液晶素子とスイッチ機能

図2 液晶素子の分子配列方法と光透過の原理(TN方式)
液晶表示機器のスイッチ機能をもう少し詳しく述べます。図2はTN方式のスイッチ機能を示した図です。液晶素子部の上下面には2枚の偏光板が取り付けられ、偏光面が直交(x方向、y方向)するように配置します。初期状態では、液晶本体の配列は2枚の配向膜の配向状態に追随します。2枚の配向膜は互いに平行な位置を保ちながら、90度または270度捻じれた配置です。液晶分子は配向膜と平行性を保ったまま、配向膜の捻じれに追随して配列されます。
液晶は印加電圧の有無で分子の並び方向が変化します。印加電圧がない場合には、液晶分子の向きには変化がなく、偏光板Aを透過したy偏光は液晶分子の捻じれ方向に沿って進み、x偏光として出ていきます。x偏光を透過する偏光板Bに到達した光はそのまま透過できます。しかし電圧が印加されると、液晶は電位方向(配向膜に垂直)に配列します。液晶が配向膜に垂直に並んだ状態では、y偏光はそのまま進むので、x偏光のみを透過する偏光板Bには遮られてしまいます。したがって、電気信号がONの場合には光が透過しません。図2で、緑色のカラーフィルター部の液晶は電気信号がOFFの状態にあるので光が透過し、その結果緑色を発色している様子を表しています。
液晶の配列状態を決める副部材として配向膜は重要です。配向膜はポリイミド製の膜ですが、表面を擦る(ラビング)ことで分子が配向されます。液晶分子は配向膜と接する部分で配向膜の配列に追随するので、液晶本体を配向方向の異なる2枚の配向膜で挟むと、配向膜の捻じれ状態に応じて液晶の配向状態を作ることができます。ポリイミドが配向膜として最適な素材である理由は、分子鎖の配向性が高く、ラビングの応力により表面の分子鎖が強く配向して元に戻らないこと等が理由として考えられています。
4)偏光板(I-PVA偏光膜、TACフィルム)

図3 ポリヨウ化物による偏光フィルムの作成原理
偏光板は、入射光のうち特定の方向の光だけを取り出すための膜です。I-PVA偏光膜(ヨウ素で染色されたポリビニルアルコール高分子膜)を中心に、保護膜である2枚のTACフィルム(酢酸セルロース樹脂膜)で挟み込んだ複層構造を有しています。I-PVA膜は、ポリヨウ素イオンで染色したPVAフィルムをホウ酸溶液中で加熱延伸処理して作成します。作成工程を図3に示します。この工程を経て、ポリヨウ素イオンがPVA膜の内部に縞状に整列配置されます。
TACフィルムは偏光膜の保護膜です。偏光膜は薄くて弱いため保護膜が必要です。しかし、保護膜に曇りや凸凹があると偏光板を通る光が屈折してしまい、画像に影響が出てしまいます。偏光膜を補強しながら、光を直進させる素材がTACフィルムです。原料のセルロースは天然素材であるために異物が混入しやすく、透明性や平滑性を実現するのが課題でしたが、クリアで均一なフィルムを製造することで解決されました。
5)カラーフィルター
液晶テレビの色彩はカラーフィルターの組み合わせで作られます。カラーフィルターは、薄いガラス基板とカラーレジストで構成されています。ガラス基板上に、赤(R)、緑(G)、青(B)の3原色のカラーレジストで構成されるパターンが形成されており、さらに隣接するカラーレジストの境界はブラックマトリクス(BM)によって格子状に区切ることで、RGBの混色を防止しています。カラーフィルターの製造方法は複数ありますが、多くは、カラーレジストをガラス基板上に塗布し、露光や現像によって定着させる「フォトリソグラフィ」という方法で作られています。
中尾 眞(Makoto Nakao)/ SCE・Net
1948年生まれ。東京大学大学院化学工学修了。旭硝子(株)にて研究開発部、化学品営業部などに在籍し、イオン交換膜法食塩電解技術関連の開発・営業およびPEM燃料電池開発に従事。2006年より(公社)化学工学会SCE・Netの活動に参加し、現在代表幹事を務める。
