ケミカルズの管理と法規制【ケミカルズの基礎知識 第3回】

2020/11/09


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前回はケミカルズの歴史について紹介致しました。今回はケミカルズの管理体制や法規制について解説します。

 第2回はこちら:ケミカルズの歩み

ケミカルズの管理と法規制

ケミカルズは優れた性質や作用を有する反面、毒性や可燃性があります。また、一部のケミカルズは環境へ放出されると難分解性という欠点も持っています。さらに、新規に合成された物質は、健康や生態系への影響が解明されていない場合があります。従って、ケミカルズを製造・販売する場合には、これらの欠点や不安要素を十分考慮して、取り扱いに注意することが必要となります。ここでは、ケミカルズの管理体制や法規制について概要を述べます。

1)安全管理に関する法規制

ケミカルズの法的な管理制度を表1にまとめました。日常生活での使用、工場での生産活動、農業・医薬分野での使用、さらに環境への放出などの場面で、ケミカルズはそれぞれの使用目的に応じて規制があることが分かります。


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それぞれの法律を目的で再分類したものを図1に示します。「健康被害の防止」「環境の保全」「危険性の防止」「輸出入管理」の4つの概念にまとめています。


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「健康被害」は最も広い範囲をカバーする概念です。これには危険性の防止や環境の保全さらに輸出入管理といった概念を併せ持つ場合も含まれています。“狭義の”健康被害はケミカルズを取り扱う本人の安全に関わる法律ですが、さらに「消費者での使用」と「労働環境」に分かれます。消費者関連の法律では「薬事法」「食品衛生法」「建築基準法」などが該当し、労働環境では労働安全衛生法や作業環境測定法が該当します。

「危険性の防止」という概念は生産活動で外部にもたらされる漏洩(ろうえい)事故や商品の不具合事故に関わるもので、「消防法」や「高圧ガス保安法」の他に、「家庭用品品質表示法」や「製造物責任法」なども含まれます。

「環境の保全」という概念は、生産活動により環境に放出される化学物質が引き起こす災害の防止に関わるもので、「大気汚染防止法」「水質汚濁防止法」「土壌汚染防止法」「廃棄物処理法」の他に、「オゾン層保護法」も含まれます。

「輸出入管理」の観点では、「化学兵器禁止法」が該当します。さらに健康被害との関連性を持つ「化学物質審査規制法(化審法)」もこの分類に入ります。

2)安全管理規制の歴史

ケミカルズの管理と法規制の歴史を図2にまとめます。


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1912年に国内で初めて、「毒物劇物営業取締規則(毒劇法)」が制定されました。毒物には、シアン化合物類、リン及び化合物、ウラニウム塩類、フッ化水素、ヒ素及び含有物、水銀化合物の6品目が指定され、劇物は37品目でした。

戦後の復興期、ジクロロジフェニルトリクロロエタン(DDT:Dichlorodiphenyltrichloroethane)が殺虫剤として広く使われました。DDTはヒトの体内に蓄積し、母乳汚染の問題を起こしました。この問題を背景に「有害性が顕在化した残留農薬」への対策として、「農薬取締法」が制定されました。

1960年代に入り高度成長期を迎えましたが、大気汚染や、水質汚濁の問題が深刻化しました。四日市コンビナート周辺では、燃焼排ガス中のイオウ酸化物などがぜんそくの原因となることが分かりました。また、工場からの水銀排出による公害も発生しました。それらを受けて、国は「大気汚染防止法(大防法)」や「水質汚濁防止法(水濁法)」を制定しました。

1970年以降、「新規化学物質への対応」が重要なテーマとなりました。1973年に、ポリ塩化ビフェニル(PCB:Poly Chlorinated Biphenyl)の問題を契機に「化審法(化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律)」が制定され、各国の事前審査制度などを考慮して、3回改正されました。当初は新規物質を取り扱っていましたが、現在は既存物質を含む包括的管理制度として2009年に整えられました。

2000年以降、環境への化学物質の排出について厳しい管理が要求されることになり、特定化学物質の環境への排出量の把握を目的として「化管法(特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律、化学物質排出把握管理促進法)」が制定されました。化管法では企業の自主的管理を促進するため、「PRTR制度」や「MSDS制度(2012年度からはSDS制度)」が義務付けられました。その結果、企業にとっては化学物質についての情報開示がより重要となりました。

3)法規制の解説

1.化審法(化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律)

化審法は新規化学物質の審査から始まりましたが、現在は既存化学物質も含めて包括的に取り扱っています。表2に化学物質審査規制法の仕組みを示します。新たに製造・輸入される新規化学物質には事前審査制度を設けており、上市後も継続的な管理措置として製造・輸入数量の把握や、有害性情報の報告等に基づくリスク評価が求められます。既存化学物質については、自然界での分解性や、生物体内の蓄積性などに基づいてランク付けを行い、製造、輸入、販売、使用について規制を行っています。


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2.化管法(化学物質排出把握管理促進法)におけるPRTR制度

ケミカルズが使用・廃棄されていく過程で、大気や土壌、川や海などの環境中に排出され、最終的に我々の体に取り込まれる可能性があります。ケミカルズの種類によっては環境リスクがあると捉え、そのリスクを低減する目的で1999年に制定されました。

PRTR制度では、「どの物質が、どこから、どこへ、どのくらいの量が動いているのか」を事業者に届けさせることを義務付けています。集計されるデータを基にして、「全国的に排出量の多い物質は何か」「業種別や地域別にどのような特徴があるか」などを把握することにより、削減すべき化学物質における優先順位の判断が容易になります。

次回からは、業界別で使用されているケミカルズを紹介いたします。初回は自動車業界についてです。

中尾 眞(Makoto Nakao)/ SCE・Net

1948年生まれ。東京大学大学院化学工学修了。旭硝子(株)にて研究開発部、化学品営業部などに在籍し、イオン交換膜法食塩電解技術関連の開発・営業およびPEM燃料電池開発に従事。2006年より(公社)化学工学会SCE・Netの活動に参加し、現在代表幹事を務める。