生活を支えるケミカルズ【ケミカルズの基礎知識 第1回】
2020/08/24

「ケミカルズ」という言葉は化学製品を意味します。化学品や化成品と呼ばれることもあります。化学製品は「原料物質を化学反応や加工処理によって、新しい機能を持たせたもの」と定義されます。最終製品というより、中間素材として多くは利用されています。例えば、石油化学工業では、粗原料からポリエチレンなどの中間素材を合成した後、化学会社間での素材取引を経て、成形加工品として最終製品が作られています。
近年、グローバル化と共に、化学会社の多くはケミカルという社名を用いるようになりました。また、新規の高機能化学素材が開発されるようになり、「ファインケミカルズ」や「スペシャリティーケミカルズ」という言葉が広く浸透するようにもなりました。「化学製品」よりも「ケミカルズ」の方が現代的な響きがあるので、ここではケミカルズという言葉を使って化学製品を取り上げ、「ケミカルズの基礎知識」というタイトルでその特徴を概説します。
1)身の回りのケミカルズ
我々の日常生活はさまざまなケミカルズに取り囲まれています。身の回りのものですぐ思い浮かぶのは、衣料品や医薬品、洗剤、化粧品などの消費財です。電気製品にも部品として、ケミカルズが多く使われています。冷蔵庫やテレビ、洗濯機やパソコンなどには絶縁性や強度を保つためにプラスチック製品が使われます。さらに住宅には、床材や壁材、断熱材、カーテンやサッシなどの内装材(建築物内部に使用する下地材)や、屋根材、外壁材などの外装材(建築物外部に使用する仕上げ材)にも機能性を付与するためにケミカルズが使われています。自動車でもケミカルズが部品に多用されていています。例えばバンパーにはポリプロピレン、シートやハンドルなどにもウレタンや高機能なエンジニアリングプラスチック、ボディ表面には耐候性塗料、タイヤには合成ゴムが用いられています。
2)コロナ対策とケミカルズ
現在、世界は新型コロナウィルスの脅威にさらされています。テレビなどの報道で流れるニュースでは新型コロナ関連が目立ち、そこではさまざまな形の感染対策も耳にします。代表的な感染対策は「マスク」「アルコール消毒」「手洗い」で、それらが全てケミカルズに直結しています。
マスクは3層構造の不織布から構成され、素材はポリプロピレンです(図1)

図1 ウィルス対策用マスク(3層構造)
外側の第1層は撥水性で通常の不織布であり、真中の第2層は0.1μm程度の花粉や細菌をカットするためのフィルター層で、メルトブローン不織布が用いられています。この不織布は繊維径の細い繊維を用いており、微細な孔径によりウィルスの飛沫などの微細粒子を99%以上カットすることができるとしています。口元の第3層は通常の不織布ですが、肌触りの良い感触に加工されています。
アルコール消毒剤は手の消毒を素早く行う目的で使われます。主成分はエタノールから成るスプレー用混合液であり、殺菌性と速乾性が求められます。成分としては、塩化ベンザルコニウム、グリセリン、無水エタノールが含まれています。塩化ベンザルコニウムは陽イオン界面活性剤で、逆性石鹸としても知られています。
手洗いには殺菌・消毒効果を高めるためにせっけんやハンドソープが使用されます。ハンドソープの成分はサリチル酸、高重合ポリエチレングリコール、ラウリルエーテル硫酸アンモニウム、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン液、ヒアルロン酸などの混合物です。サリチル酸には消炎鎮痛作用があり、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン液は両性界面活性剤であり、洗剤としての作用があります。
3)原料から最終製品までの流れ
ケミカルズは原料から製品まで中間素材を作りながら、粗原料→第一次素材(基礎化学品)→第二次素材(化学誘導品)→最終化学製品(又は最終素材)と、何段階もの工程を経て作られます。図2を用いて原料から最終化学製品までの流れを説明します。

図2 ケミカルズの原料から製品の流れ
粗原料は石油、リン鉱石、食塩、空気といった天然資源です。この粗原料を基に、反応によりエチレン、リン酸、塩素、苛性ソーダ、アンモニアなどの単純な構造を持つ第一次素材を作ります。次に、第一次素材同士を反応させて、有機化学品やプラスチックなどの第二次素材が作られます。第二次素材のうち、プラスチックは成形加工されて、容器、フィルム、タイヤといった製品が作られます。基礎化学品や有機化学品を原料にして反応や混合により、化粧品、医薬品、洗剤、塗料などのさまざまな最終化学製品が作られます。
さらに、最終化学製品は電気・電子産業や自動車産業などの他の産業での部品素材としても利用されます。この一連の工程の中で、特に石油からエチレンなどの基礎化学品を作る工程では大掛かりな分業体制が必要で、「コンビナート」と言われる分業生産形態が一般的です。基礎化学品を作る石油精製会社に隣接して二次素材を作る別の化学工場が配置され、パイプラインで原料のやり取りが行なわれますので、流通に無駄がありません。
4)産業としての位置付け
2018年の工業統計(経済産業省工業統計産業編)を使って、ケミカルズがどのような位置にあるか調べてみました。なお、ケミカルズは化学工業、プラスチック製品製造業、ゴム製品製造業の合計を示しており、石油製品・石炭製品製造業や窯業は含まれていません。
「自動車産業に次ぐ製品出荷額」は、ケミカルズ製品出荷額は約46兆円で、自動車を中心とする輸送用機械に次いで第2位を占めています。エレクトロニクスと比べてもほぼ同じレベルにあります(表1)。

表1 ケミカルズの位置づけ(2018年製品出荷額)
「トップクラスの付加価値額」の「付加価値」とは、企業あるいは産業が生産活動により新たに生んだ価値を示します。その額とは、具体的には、製品出荷額から原材料投入額、減価償却費などを差し引いた額です。国内の産業の付加価値額の総計を「GDP(国内総生産)」と呼びます。付加価値額で見ると、ケミカルズは17.6兆円で、自動車やエレクトロニクス産業と1、2を争う大きな産業であることが分かります(表2)。

表2 ケミカルズの位置づけ(2018年付加価値額)
今回はケミカルズの概要について解説いたしました。次回は、ケミカルズの歴史を振り返りたいと思います。
参考文献:
1.「化学製品が一番わかる」 田島慶三著 2012年 技術評論社刊行
2.「化学業界の動向とカラクリがよーくわかる本」 田島慶三著 2018年 秀和システム社刊行
中尾 眞(Makoto Nakao)/ SCE・Net
1948年生まれ。東京大学大学院化学工学修了。旭硝子(株)にて研究開発部、化学品営業部などに在籍し、イオン交換膜法食塩電解技術関連の開発・営業およびPEM燃料電池開発に従事。2006年より(公社)化学工学会SCE・Netの活動に参加し、現在代表幹事を務める。
