建築材料とケミカルズ【ケミカルズの基礎知識 第7回】
2021/04/13
第7回は「建築材料とケミカルズ」について紹介していきます。
第6回はこちら:食品とケミカルズ
住宅は雨風をしのぎ、安全で快適な居住空間を提供するものです。住宅に用いられる材料は生活レベルの向上と共に進歩し、より安全で機能的な材料が使われるようになりました。ここでは、無機ケミカルズの代表であるコンクリート系建材と、有機ケミカルズの代表であるプラスチック建材について概説します。
1)住宅の機能と建材の分類
図1に住宅の機能と建築部材を纏めました。住宅は地震などの外力に耐えるための構造材(柱、壁、基礎)、風雨や火災から身を守る屋根材や外壁材、さらに居住空間の生活環境を快適に保つための内装材(床、内壁、天井)、採光や防犯を確保する開口部材(窓、扉)から構成されます。

図1 住宅の構成部材と機能
こうして材料の面からみると、住宅一つをみても、実に多様な材料が使われていることが分かります。構造材には鉄鋼や木材、コンクリートが使われ、屋根材には瓦などの窯業品が多く用いられ、防水性を確保するためにシーリング材が併用されます。外壁材にはサイディング材やモルタルなどの窯業系の建材が用いられます。居住部分では、内壁や天井には木材やプラスチック材料が用いられるとともに、断熱性や遮音性を確保するためにガラス繊維などが併用されます。床材にはフローリングと言われる複合木材や畳などが用いられます。浴室や洗面所などでは、FRP(繊維強化プラスチック)や人工大理石などのプラスチック材料が用いられます。窓部にはガラスと塩ビ枠を組み合わせたサッシが用いられます。さらに、水道、ガスなどのインフラを導入するために、金属や樹脂の配管が設置されています。
2)コンクリート系建材
コンクリートは、セメント、砂、砂利を混ぜ合わせた後、水を加えることで反応・固化させて得られる無機系複合材です(図2)。堅牢性と耐火性を備え、施工性にも優れるため、住宅には欠かせない材料です。

1. コンクリートの基本的な性質
コンクリートの必須原料であるセメントは石灰石、粘土、珪石、酸化鉄を高温焼成して作ります。組成的には酸化カルシウム(CaO)、二酸化ケイ素(SiO2)、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化鉄(Fe2O3)から構成されます。セメントは下記の反応で水と反応し、固化・凝固します。
3CaO・SiO2 + 2.17 H2O → 2CaO・SiO2・1.17 H2O + Ca (OH)2
コンクリートの特性は配合比で変化します。標準的なコンクリートは、図2に示すように、セメントペースト(水+セメント):砂:砂利 = 1:3:6の重量比率で混ぜ合わせます。このうち、セメントペースト中の水分とセメントの比率は強度に影響し、水の比率が高くなれば強度が低下します。
2. コンクリートの添加剤(減水剤、硬化遅延剤)
コンクリートの特性を調整するために加えられるのが、添加剤です。強度を増大するためには水の添加量を減らす必要がありますが、そのために減水剤が用いられます。減水剤の効果を図3に示します。減水剤はアニオン界面活性剤を含んでおり、セメント粒子が凝集することを防ぐことで水の添加量を減らしています。また、生コン(あらかじめ工場で配合し、施工現場でそのまま使用できるコンクリート)の場合には、輸送中にコンクリートが硬化しないように、ケイフッ化物などの硬化遅延剤が用いられています。

図3 コンクリートに用いられる分散剤(減水剤)の効果
3. 軽量気泡コンクリート(ALC)
気泡コンクリート(ALC)はサイディング材(外壁に貼り付ける板材)などに用いられるもので、工場で板状成形させる際にコンクリート中に気泡を発生させたものです。石灰質材料とケイ酸質材料の粉末を水と混合させた状態で発泡剤を添加し、固まった後に高温・高圧のオートクレーブ(圧力釜)で加熱硬化させて作ります。ALCは気泡などの空隙部分が全容積の80%を占めるため、比重が0.5と非常に軽い材料になります。さらに、断熱性にも優れており、熱伝導率は普通コンクリートの約2分の1となり、冷暖房費の節約に繋がります。
3)プラスチック製建材
現代住宅ではさまざまな形でプラスチックが利用されています。図4に利用状況をまとめます。屋根材、シーリング材、床材、サッシ、浴槽、配管、透明板には汎用樹脂が用いられますが、塗料、接着剤などの形でも使用されています。以下では市場規模の大きい塗料、接着剤についてさらに詳しく説明します。

図4 住宅に用いられるプラスチック製建材
1. 機能性塗料(親水性塗料、長寿命塗料)
塗料は外壁などの美観を保ちながら、腐食を防ぐうえで重要です。最近、防汚性塗料や長寿命塗料が注目されています。防汚性塗料は塗料樹脂に親水性を持たせたもので、水に濡れやすくすることで表面に付着した汚れを雨水で洗い落とすことができます。
通常の塗料はアクリル樹脂ですが、長寿命塗料にはフッ素樹脂系塗料が用いられます。フッ素系樹脂は耐候性に優れているため、通常のアクリル系塗料の5倍程度の塗り替え寿命を持っており、長期で見ると塗装工事費用の低減に繋がります。
2. 接着剤(接着工法、フローリング)
住宅用接着剤はフェノール樹脂、ユリア樹脂、酢酸ビニル、エポキシなどが主流です。接着剤は各種内装材を製造する段階だけでなく、建設現場での「接着工法」にも活用されています。接着工法は、仕上げられた内装材が現場に搬入されるため、接着取り付けという作業者の熟練度を必要としない工法です。
最近の住宅では仕上がりの良さや遮音性を重視して、床材に複合木質フローリングが使われるようになりました。複合フローリングは接着剤で貼り合わせた合板を中心に、下面に防湿クッション材、上面に突板材や樹脂シートを貼り合わせた構造です。このフローリング設置工事では、従来は2液混合型のエポキシ系接着剤を使っていましたが、有機溶剤による健康への影響が懸念されたため、現在では1液型のポリウレタン接着剤に変わりつつあります。
3. シックハウス症候群(ホルムアルデヒドなどの影響)
シックハウス症候群は建材などから発生する化学物質や、カビ・ダニなどでの室内空気汚染に原因する健康障害の総称です。住宅の高気密化などが進んだため、化学物質による空気汚染が起こりやすくなっていることが背景にありますが、カビやダニ、石油ストーブの排気や、たばこの煙なども原因物質として指摘されており、どのようなメカニズムで起こるのかまだ十分には解明されていません。
しかし、合板やクロス張りの接着剤に使用されるホルムアルデヒドや、揮発性有機化合物(VOCS)については有害性が確認されているため、使用が規制されています。厚生労働省が2002年に定め、2019年に改定した室内空気中化学物質13物質のうち、代表される5物質の室内濃度指針値を表1に纏めます。

表1 シックハウス問題に関する「室内濃度指針値
以上、今回は「建築材料とケミカルズ」について解説しました。次回は「印刷関連用途とケミカルズ」について紹介します。お楽しみに!
中尾 眞(Makoto Nakao)/ SCE・Net
1948年生まれ。東京大学大学院化学工学修了。旭硝子(株)にて研究開発部、化学品営業部などに在籍し、イオン交換膜法食塩電解技術関連の開発・営業およびPEM燃料電池開発に従事。2006年より(公社)化学工学会SCE・Netの活動に参加し、現在代表幹事を務める。
