自動車とケミカルズ【ケミカルズの基礎知識 第4回】
2021/01/18
前回はケミカルズの管理と法規制について解説しました。今回より、業界別に使用されているケミカルズを紹介していきます。
第3回はこちら:ケミカルズの管理と法規制
初回は自動車業界についてです。自動車は多くの機能を備えており、自動車の機能の裏には新しいケミカルズの開発があります。ここでは、部品として使われる代表的なケミカルズを概説します。
1)ケミカルズが鍵を握る自動車の特性
自動車には運転性能、安全性・堅牢性、運転快適性、美しさ、環境保全性などさまざまな特性が求められます。これらの特性の多くはケミカルズ部材と関連付けられます。
・運転性能:燃料油(オクタン価向上剤)、タイヤの抵抗(低摩擦抵抗ゴムの使用)、ボディー軽量化(プラスチック材料の使用)、回生エネルギー利用(蓄電池)
・安全性・堅牢性:ボディーの堅牢化(高強度材料の使用と複合化)、タイヤのスリップ防止(ゴムコンパウンド)、ガラスの改良(合わせガラスの採用)
・運転快適性・美しさ:シート(座り心地の良い樹脂素材)、外装塗装(耐候性塗料)
・環境保全性:排ガス処理(NOx対策の尿素水)、電気自動車の導入
それぞれのケミカルズ部材については、自動車メーカーからの厳しいコスト要求に加えて、特性改良の要求があり、部材メーカーはそれに応える形で新商品を提供しています。自動車メーカーと部材メーカーの信頼的緊張関係が新しい技術を生み出しているとも言えます。
2)部品の観点から見たケミカルズ
自動車は数多くの部品から成り立っています。主要な部品は大別すると、エンジン回り、ドライブトレイン、タイヤ回り、車体・外装部材、内装部品・空調、運転支援・情報通信、電子・電装部品、環境保全などに分類されますが、部品点数は約3万点です。金属が中心ですが、汎用プラスチック、エンジニアリングプラスチック、ゴム、ガラス、塗料、触媒などさまざまなケミカルズも使用されています。主要な部品を図1に示します。

※ピンクの背景色の部分はケミカルズを使用した部品
3)軽量化の主役はポリプロピレン
今、自動車部品にとって、最重要ともいえるテーマは「車体の軽量化」です。軽量化の主役は、プラスチックです。中でも、ポリプロピレン(PP)は融点が165℃と高く、比重も0.9であるので、車体の軽量化を達成する上で鍵となる素材です。2010年において、国内では294万トンのPPが生産されていますが、そのうち69万トンが自動車用途に使われています。PP単独の材料だけでなく、ゴム、フィラー、添加剤などと複合化したコンパウンド材も使われています。日本では、乗用車一台に平均で50kgのPPが使われていると推定されます。 図2にPPが使われている部材をまとめました。

ポリプロピレン(PP)はプロピレン(CH2=CH2-CH3)を重合させた汎用プラスチックですが、自動車に用いられるポリプロピレンはPP自体の剛性を高めるために、高分子の立体規則性を制御3))の配置が主鎖の片側に規則的に配置したアイソタクチック型PPが用いられています。アイソタクチック型PPはメチル基(-CH3)による立体規則性を有しています。図3にアイソタクチックPPとアタクチックPPの分子構造を示します。

耐衝撃性を特に要求されるバンパーなどにはICP(Impact Copolymer)といわれる共重合体が用いられます。ICPは前段反応でホモPPを、後段反応でエチレン・プロピレンゴム(EPR)を重合することにより、ホモPPマトリックス中にEPRゴムをミクロンオーダで分散させたポリマーアロイとも言えます。ホモポリマーのPP部分が剛性を、EPR部分が耐衝撃特性を担うことになります。ICPはEPRの添加量や分散形態を変えることにより、剛性、耐衝撃性、加工流動性、透明性、寸法安定性などの特性を制御することもできます。
さらに、素材ポリマーの特性改良に加えて、フィラーを混ぜた複合材としての特性改良も可能です。射出成形品の場合、タルクをフィラーとして用いると流動性が改善され薄肉化が可能となります。バンパーなど耐衝撃性と剛性のバランスが要求される部品にはフィラー・エラストマー併用複合材料が用いられ、フロントエンド・ドアモジュールなどの高剛性が求められる構造部材には長繊維ガラス強化PPが用いられます。
4)安全と低燃費の二役を担うタイヤ
タイヤは路面からの衝撃を吸収し、ブレーキを確実に効かせる機能が要求されます。最近では基本機能に加えて、燃費改善にも寄与する重要な部材となっています。
自動車用タイヤは「チューブレスタイヤ」と呼ばれるタイヤで、ゴムの輪をロードホイールにはめ込む構造を持っています。図4にタイヤの断面図を示します。タイヤ本体は「トレッド部」(接地面でゴム本体に溝切加工したもの)、「カーカス部」(骨組みとなる繊維で補強されたゴム複合材)、「ビードワイヤー部」(ゴムで被覆された鉄線)で構成されています。カーカス部をホイールリムに締め付けることで中空部を作り、圧縮空気を中空部に貯めてタイヤの弾力性を持たせています。カーカスにはナイロン繊維、ポリエステル繊維、アラミド繊維、スチール線が使われています。ゴムはスチレン・ブタジエンゴム(SBR)に代表される合成ゴムや天然ゴム(イソプレンゴム)が用いられます。

最近の特筆すべき技術としては、低燃費タイヤが挙げられます。低燃費タイヤは配合剤にシリカを用いており、ゴム中に分散されたシリカ粒子が「転がり抵抗の減少」と「グリップ力の確保」の両立を実現させています。シリカを適切に分散させる必要があるため、ゴム素材へのシランカップリング剤の導入や分散方法の改良を行っています。その結果、グリップ力を左右するゴムの特性自体は変えることなく、ゴムの分子と補強材の分子同士の親和性を高めることができ、転がり抵抗を低く抑えることが可能となりました。
以上、今回は「自動車とケミカルズ」と題して解説しました。次回は「洗浄剤とケミカルズ」について解説致します。お楽しみに!
中尾 眞(Makoto Nakao)/ SCE・Net
1948年生まれ。東京大学大学院化学工学修了。旭硝子(株)にて研究開発部、化学品営業部などに在籍し、イオン交換膜法食塩電解技術関連の開発・営業およびPEM燃料電池開発に従事。2006年より(公社)化学工学会SCE・Netの活動に参加し、現在代表幹事を務める。
