食品とケミカルズ【ケミカルズの基礎知識 第6回】
2021/03/25
「ケミカルズの基礎知識」第6回は、食品とケミカルズの関わりについてご紹介していきます。
第5回はこちら:洗浄剤とケミカルズ
ケミカルズは食品関連でも様々な分野で使われています。大別すると、食品保存(包装、容器)と食品添加物(食品加工、調味料など)の2つです。
1)食品保存の歴史
戦前までは、生鮮食品を遠隔地に運搬したり、長期に保存したりするという考えは普及しておらず、食品の保存には干物や漬物が一般的でした。戦後、冷蔵庫が普及し、プラスチックが大量に製造されるようになると大きな変化が起こりました。さらに、スーパーマーケットの出現で食料品の包装技術が進歩しました。包装材料には主にプラスチックが採用され、袋、トレイ、カップ、ボトルなど様々な形の容器が製品化されました。さらに、耐熱性、酸素バリア性などに優れた素材が開発されるとともに、包装技法も確立されました。しかし、高度成長末期、資材高騰の問題だけでなく、安全性や過剰包装などの問題が発生し、包装の適正化や安全化などの社会的要望が起こります。その結果、内容物の保護、品質保全、包装材料および容器の安全性、適切な表示・説明、などをまとめた「商業包装適正判断基準」が作成されました。
2)包装材の分類
食品保存に使われる包装材には様々な機能が要求されます。最も重要な機能は食品保護性で、酸素バリア性、水蒸気バリア性、遮光性、耐熱性、耐酸性、耐油性、強度、シール性などが求められます。次に、開封性、再封性、取り出しやすさ、持ちやすさ、表示の見 やすさなどの使用性が重要になります。
食品包装には主に5種類のプラスチックが使われています。ポリスチレン(PS)、ポリプロピレン(PP)、フィラー入りポリプロピレン(PPF)、非晶質ポリエチレンテレフタレート(A-PET)、ポリ乳酸(PLA)です。表1に、食品包装に用いられるプラスチックをまとめます。PSのなかでも発泡スチレンシート(PSP、発泡スチロールでできている薄い食品トレーなど)は軽くて丈夫で、熱を伝えにくい特徴があり、現在の食品量販システムを支えています。ポリプロピレンに無機材を配合したPPFは耐熱性に優れていますので、弁当や総菜など電子レンジ対応容器に使われています。A-PET容器は透明性が高く、耐油性、成形加工性に優れており、ペットボトルやサラダなどの汎用カップに使われております。プラスチックシートに製造段階で発泡剤を入れてプラスチックを泡状にした発泡プラスチックは、水産物の輸送や、アイスクリームの保冷容器に使われます。近年、環境保護の観点から生分解性ポリマーが注目を集めていますが、植物由来のプラスチックもサラダパックなどに使われ始めております。

表1 食品包装用プラスチック容器
3)マヨネーズの容器と賞味期限
食品保存で問題となる酸化劣化防止について、マヨネーズ容器を例に詳しく説明します。マヨネーズは成分に油脂を含み、酸素により油脂劣化が発生します。劣化を防ぐために、マヨネーズの容器には酸素バリア性の高い素材が用いられています。
戦前にはガラス瓶が用いられ、賞味期間はおよそ12か月でした。戦後、加工性の良いポリエチレン(PE)の容器が使用されるようになりましたが、PEは酸素を透過しやすい素材のため、賞味期間は7か月に縮減されました。酸素バリア性の高い材料が検討された結果、EVOH(エチレン・ビニルアルコール共重合体)が開発されました。 EVOHは水に弱いという弱点がありますが、安価で加工しやすいポリエチレンと組み合わせることでこれを補うことが可能となります。その結果、賞味期間が12か月である製品が増えています。現在のマヨネーズ容器の構造を図1に示します。

図1 マヨネーズ容器の構造
4)食品添加物
食品には食品加工、食品保存、風味改善などの食品添加物が使用されています。表2に食品添加物の分類を示します。食品加工については、加工後に添加物が残るもの(乳化剤、膨張剤、増粘剤など)、加工後はほとんど除去されるもの(反応剤、漂白、凝固剤)、食品保存のために使われるもの(保存剤、防カビ剤、酸化防止剤、乳化安定剤)、食品の風味や色合いを改善するもの(調味料、着色料、甘味料)などに分類されます。食品添加物は食品衛生法で規制され、厚生省告示の約800種類のみが使用できます。

表2 食品添加物の分類
5)うま味調味料と人工甘味料(アスパルテーム)
うま味調味料では、昆布のうま味成分であるL-グルタミン酸ナトリウムが良く知られています。当初は小麦を原料とした化学的な合成方法でしたが、現在では発酵培養法が採用されています。この方法は廃糖蜜(サトウキビの搾りかす)を栄養源としてグルタミン酸生産菌を培養する方法で、得られたグルタミン酸を水酸化ナトリウムと反応させて、目的のグルタミン酸ナトリウムを製造しています。ちなみに、頭文字の“L-”は光学異性体を意味しており、異性体の”d-“体ではうま味は発現しません。
甘味料については、低カロリー指向という健康意識を受けて、砂糖の代替品であるアスパルテームが開発されました。アスパルテームは、砂糖の約200倍の甘みを持つ人工甘味料ですが、アスパラギン酸とフェニルアラニンという二つのアミノ酸を結合させて製造されます。図2にアスパルテームの構造式を示します。体内に取り込まれたアスパルテームは消化過程で分解され、アミノ酸やメタノールが生じます。これについては、FDA(アメリカ食品医薬品局)の審査で急性毒性や慢性毒性の問題は起こらないと結論づけられ、1983年に厚生省から食品添加物として認可されています。

図2 アスパルテーム
次回のテーマは「建築材料とケミカルズ」です。お楽しみに!
中尾 眞(Makoto Nakao)/ SCE・Net
1948年生まれ。東京大学大学院化学工学修了。旭硝子(株)にて研究開発部、化学品営業部などに在籍し、イオン交換膜法食塩電解技術関連の開発・営業およびPEM燃料電池開発に従事。2006年より(公社)化学工学会SCE・Netの活動に参加し、現在代表幹事を務める。
