洗浄剤とケミカルズ【ケミカルズの基礎知識 第5回】
2021/03/01
「ケミカルズの基礎知識」第5回は洗浄剤というテーマを取り上げていきます。
第4回はこちら:自動車とケミカルズ
家庭では石鹸、洗剤、シャンプー、歯磨き粉などの様々な洗浄のための日用品が使われています。これらの日用品はトイレタリー(Toiletry)という用語でまとめられます。英語での本来の意味は「化粧品、洗面用具」で、身だしなみのために身体を手入れするときに使うものですが、日本の小売業では衣料用洗剤、ボディケア用品、消臭剤など多様な製品群がトイレタリーに分類されます。今回は、トイレタリー用品の中でも洗浄剤の特徴を概説します。
1)界面活性剤の洗浄機構
まず、衣料用洗剤を例にして界面活性剤の洗浄作用を説明します。図1に示すように、界面活性剤は直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム[分子式:CnH2n-1O3SNa(n=16~20)]の分子であり、片方が親水性、もう一方が親油性(疎水性)の性質を持っています。汚れた衣料品を洗濯する場合、界面活性剤は汚れ物質と布に対して、湿潤、浸透、乳化・分散、再付着防止の順に作用していきます。
湿潤作用は、乾いた洗濯物に界面活性剤が含まれた洗剤と水を加えることで、汚れの表面にある界面を濡らします。浸透作用は、界面活性剤が汚れと洗濯物とのあいだに浸み込み、お互いを引き剥がそうとします。乳化・分散作用は、汚れの間に浸み込んだ界面活性剤がそれぞれの周囲に吸着しお互いを引き離した結果、水中に取り出されます。この際、洗濯機の攪拌操作に伴い洗剤に含まれる他の成分と洗濯物を動かすことによって、汚れは早く布地から離れます。再付着防止作用は、取り出された汚れを界面活性剤の分子が包み込みます。その結果、汚れを包み込んだ界面活性剤の分子が布地への再付着を防止しています。

2)家庭用洗剤の分類
家庭用洗剤は衣料用、台所用、住宅用、身体用に分類され、それぞれの 用途に合わせて、合成洗剤や石鹸(*1)が使われます。表1に家庭衣料用洗剤の配合成分を示します。衣料用洗剤は、アニオン系やノニオン系の界面活性剤が主成分として使われ、ビルダー(助剤)として炭酸ナトリウム、ゼオライトが使われます。さらに、漂白剤や酵素なども配合されています。

3)日本における合成洗剤
表2に、日本における合成洗剤の歴史をまとめました。我が国で石鹸が工業的に製造されるようになったのは明治時代です。しかし、技術が未熟で、欧米の技術からは大きく遅れをとっていました。戦中から戦後にかけて合成洗剤が生まれ、衣料用洗剤として高級アルコール系界面活性剤が製造されるようになりました。高度成長期には合成洗剤が急速に普及しました。鉱油系の衣料用合成洗剤が開発され、ビルダーなどの添加物を加えることで洗浄力が改善されるとともに、電気洗濯機の普及と相まって合成洗剤の消費量は急激に増大していきました。
消費量の増大に伴い、合成洗剤の分野でも環境問題が顕在化しました。河川や下水処理場での発泡、湖沼や閉鎖海域での富栄養化などの社会問題が起こり、ソフト化、無リン化の対応が必要となりました。上記背景もあり、20世紀末には省資源の流れが定着し、従来と比べ、重量が1.6分の1、容量が4分の1にコンパクト化された洗剤が発売されました。これはアルカリセルラーゼという繊維分解酵素を用いて、繊維を分解させることより汚れを落とす新しい洗浄原理に基づいています。

4)シャンプーとリンス
シャンプーとリンスは、髪の毛を清浄し、潤いのある状態を保つためになくてはならないものです。シャンプーは頭髪用化粧品に分類され、薬事法が適用されます。シャンプーの主な成分はアニオン性を主とする界面活性剤などの洗浄成分と、カチオン化セルロースやシリコーン油などのコンディショニング成分です。汚れを落としながら、コンディショニング成分を毛髪に吸着させています。一方、リンスは、カチオン界面活性剤と保湿剤などで構成されています。毛髪に吸着して滑らかにするとともに、静電気を防止する働きがあります。
ところで、「リンスインシャンプー」という製品がありますが、ただシャンプーとリンスを混ぜればいいというものではありません。シャンプーの主成分であるアニオン界面活性剤はマイナス電荷をもち、リンスの主成分であるカチオン界面活性剤はプラスの電荷を帯びています。そのため、両者を混ぜると不溶化してしまいます。ところが、アミノ酸系のアニオン活性剤を特定の比率で混合すると、水に溶ける複合体を形成することが見出されました。その結果、生み出された製品が、リンスとシャンプーを一体化させたリンスインシャンプーというわけです。
5)コロナウイルスに対する界面活性剤の除菌作用
コロナウイルスに対しては様々な除菌対策が取られていますが、洗剤自体が除菌効果をもつことはあまり知られていません。手洗いの励行は感染防止の基本でありますが、石鹸を構成する界面活性剤は汚れを取り除くだけでなく、ウイルスそのものを不活性化させる作用をもっています。
コロナウイルスは図2に示すような構造を持っています。遺伝情報を持つRNAという核の周りに、エンベロープという脂質が取り囲んでおり、RNAを保護しています。界面活性剤はエンベロープを破壊する作用があり、その結果、RNAがむき出しとなって感染能が失われ、不活性化することになります。なお、アルコールもエンベロープを溶かして破壊する作用を持っています。

次回は「食品とケミカルズ」を解説します。次回も是非ご一読ください!
*1 石鹸と合成洗剤
石鹸と合成洗剤は「洗浄剤」という意味では同じですが、原料・製法・成分などが異なる別物です。
中尾 眞(Makoto Nakao)/ SCE・Net
1948年生まれ。東京大学大学院化学工学修了。旭硝子(株)にて研究開発部、化学品営業部などに在籍し、イオン交換膜法食塩電解技術関連の開発・営業およびPEM燃料電池開発に従事。2006年より(公社)化学工学会SCE・Netの活動に参加し、現在代表幹事を務める。
