ポリウレタンの臭気改善! CO2回収にも利用できる触媒アミン開発―第57回日化協技術賞 環境技術賞 東ソー【受賞技術から見える未来】
2025/12/23優れた化学技術の開発や工業化によって化学産業ならびに経済社会の発展に寄与した事業者に送られる日化協技術賞。第57回日化協技術賞「環境技術賞」を受賞した企業の一つが東ソーです。同社が開発した機能性3級アミン「RZETA」は、ポリウレタンから発生する臭気を低減する環境対応型のポリウレタン製造触媒として国内外で採用が進んでいます。また、発電所や工場などの排ガスから二酸化炭素(CO2)を分離・回収することにも活用できるとして実証試験中とのことです。
触媒アミンの揮散がポリウレタン製造における長年の課題に
アミンは、アンモニア(NH3)の水素原子を炭化水素の残基で置換した塩基性化合物の総称で、置換した基の数により1級、2級、3級に分類されます。このうち3級アミンは軟質ポリウレタンフォームを製造する際の触媒として使用されています。軟質ポリウレタンフォームはソファやマットレス、さらには自動車向けのシートクッションやアームレストなどに使われており、非常に身近な材料です。
軟質ポリウレタンフォームは、ポリオールとイソシアネートを原料とし、触媒として3級アミン、そして水や整泡剤などを加え、発泡反応やウレア結合、ウレタン結合を生じさせることで独特のクッション性を得ます(図1)。

図1:軟質ポリウレタンフォームの製造
(画像提供:東ソー)
軟質ポリウレタンフォーム製造時の触媒の代表例はトリエチレンジアミン(TEDA:Triethylenediamine)です。しかし、TEDAのような従来の3級アミンは軟質ポリウレタンフォーム内に残存してしまい、徐々に揮散する「アミンエミッション」という現象を避けられませんでした。
例えば、1立方メートルのチャンバーに65℃、4時間放置する揮発性有機化合物(VOC:Volatile Organic Compounds)測定試験では、検出されたVOCの約80%がアミンという報告があります。アミン類は、わずかな揮発量でも悪臭を感じやすい性質をもつとともに、他の樹脂部材を劣化させるなどの影響ももたらし、これらは軟質ポリウレタンフォーム製造の長年の課題でした。
これらの課題を解決する手段の一つとして、「反応型触媒」があります。TEDAなどの従来の3級アミンは高分子網目の空間に残存するためアミンエミッションを引き起こします。一方、反応型触媒はヒドロキシル基(OH基)を有したもので、イソシアネートと反応、結合して固定化されることでアミンエミッションを低減します(図2)。

図2:TEDAと反応型触媒の比較。(上)TEDAは揮散してアミンエミッションの発生源に(下)反応型触媒はポリウレタン分子に固定され、アミンエミッションが生じにくい
(画像提供:東ソー)
ところが、既存の反応型触媒ではポリウレタン分子への固定が不十分で、アミンエミッションはゼロになっていません。また、反応型触媒は、触媒製造時の原料や反応に由来するとみられるアルデヒド類を多く含んでいます。アセトアルデヒドやホルムアルデヒドといったアルデヒド類をめぐっては悪臭だけでなく、発がん性といった健康被害のリスクが懸念されており、反応型触媒の課題となっています。
アミンの揮発もアルデヒド揮発も解決する「RZETA」を開発
アミンエミッションを軽減しつつ、触媒製造にアルデヒド類を使わないアミンを実現できないだろうか。東ソー機能材料研究センター有機材料研究所の分野長である徳本勝美さんは、「弊社はエチレンアミンの製造を1967年に開始して以来、ニーズを調べてさまざまな川下誘導品を開発しています。アミンエミッションの課題も認知しており、課題解決に取り組んできました」と話します。
こうした課題をきっかけに開発されたのが「RZETA」です。RZETAは、TEDAの主構造はそのままにOH基を付加したもの(図3)。RZETA製造時にはアルデヒドを使用せず、OH基によってウレタンに固定化させることでアミンエミッションを防止するのが狙いです。

図3:TEDAとRZETAの分子構造
(画像提供:東ソー)
まず、基本的な性質を調べたところ、RZETAはTEDAと比較して沸点が高く、蒸気圧が低いことが分かりました。これは揮発性が低いことを意味します。実際に、ドイツ自動車工業会規格VDA278に基づいてアミン揮発量を測定すると、RZETAでは検出下限以下という結果が得られ、アミンエミッションがほぼ完全に抑制されていることが分かりました(図4)。

図4:各触媒のポリウレタンからのアミンエミッション
(画像提供:東ソー)
反応型触媒で課題となったアルデヒド類の揮発についても、日本自動車技術会規格JASO M902にて測定したところ、反応型触媒と比較してアルデヒド類の揮発を大幅に抑制することができ、TEDAとほぼ同等という結果が得られました(図5)。

図5:各触媒のポリウレタンからのアルデヒド揮発量
(画像提供:東ソー)
また、従来の反応型触媒で製造した軟質ポリウレタンフォームでは耐久物性が弱く、へたりやすいという弱点がありました。米国ASTMインターナショナル発行の規格ASTM D3574による圧縮残留歪を測定すると、RZETAを触媒としたときのへたりやすさは従来の反応型触媒よりもはるかに低く、TEDAとほぼ同等だったことから、十分な耐久物性を有していると考えられました。
悪臭についても、反応型触媒よりも臭気が弱く、臭いの質の点も不快度を抑えられていることが分かりました。また、高純度化して溶剤を含まないRZETA-50Wが製品化され、臭気をさらに抑えています(図6)。

図6:RZETA-50Wなどの臭気の質と強度
(画像提供:東ソー)
RZETAは現在までに18カ国、60社以上で採用されているとのこと。徳本さんは、「RZETAの認知度は上がっており、販売実績も毎年上がっています。欧州ではアミンエミッションに対する関心が高く、一方で中国では臭気ゼロの需要があるようです」とし、地域によってニーズの内容は異なるものの、RZETAの需要は確実に伸びているという印象を伝えます。
排ガス中CO2回収の用途に向け実証試験中
RZETAは、発電所や工場の排ガスからCO2を選択的に分離して回収する「アミン吸収法」にも活用できると考えられています。アミン吸収法とは、吸収塔でCO2をアミンに吸収させ、その後、放散塔で加熱してCO2を分離させ、回収する技術です。CO2を放出したアミンは再度、吸収塔に送られて再利用されます。
しかし、排ガスに含まれる窒素酸化物(NOx)とアミンが反応してしまい、CO2回収能が落ちるという課題がありました。これに対し、RZETAは分子構造の性質上NOxと反応しないためCO2回収能を維持でき、エネルギーやコストの抑制が期待されています。この成果が評価され、東ソーは2022年に第21回グリーン・サステイナブル ケミストリー賞の奨励賞を受賞しており、Chematelsでも「NOx耐性のあるアミンでCO₂を分離・回収」という記事で紹介しました。
その後、東ソー社内のベンチプラントで検証が行われ、120日連続運転においてRZETA残存量はほぼ100%を維持し、CO2回収率は目標である90%を維持していました。同社機能材料研究センター有機材料研究所CO2利用技術開発グループのグループリーダー藤原裕志さんは、「現在は社内での実証を進めるとともに、一部のお客さまでもご評価をいただいています」と話し、プラントへの実装に向けて着実に歩みを進めていることを伝えます。
この構造にピンときたらお問い合わせを…応用拡大に期待
徳本さんは、「RZETAの構造を見て、こんな用途に使えるかもしれないというアイデアがありましたらサンプルを提供できるので、ぜひお声がけいただければと思います」と、さらなるRZETAの応用拡大に期待を寄せています。RZETAが応用される場面は、これからさらに増えていきそうです。
日化協技術賞とは
一般社団法人日本化学工業協会(略称 日化協)は、優れた化学技術の開発や工業化によって化学産業ならびに経済社会の発展に寄与した事業者を表彰する「日化協技術賞」を設けています。1968年に創設されたこの賞では現在、化学に関連する事業者から業績を公募し、優れた業績に対して総合賞・技術特別賞・環境技術賞の3つの賞を贈り、表彰しています。
島田 祥輔(しまだしょうすけ)
サイエンスライター 1982年生まれ。名古屋大学大学院理学研究科生命理学専攻修了。特に遺伝子に興味があり、遺伝子の研究によって医療や生活がどう変わっていくのかに注目している。また、腸内細菌検査サービス「マイキンソー」のオウンドメディア「Mykinsoラボ」の編集長を務める。

