カギはPNNP! 錯体設計でCO2活用への道を拓く―第24回GSC賞文部科学大臣賞 名古屋大学 斎藤進氏【受賞技術から見える未来】

2026/04/16
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名古屋大学学際統合物質科学研究機構教授の斎藤進さんは、「PNNP型」と呼ぶイリジウム錯体により、高い効率で二酸化炭素を還元し、資源化するシステムを開発しています。PNNPイリジウム錯体の高い触媒活性を活用し、太陽光エネルギーと水から、二酸化炭素を還元し、ギ酸にする方法などを実現しました。人工光合成を応用した技術で、化石資源の枯渇などエネルギーや環境問題の解決に貢献するとして、斎藤さんは第24回(2024年度)GSC賞の文部科学大臣賞を受賞しました。

二酸化炭素を資源として利用する

近年、猛暑や豪雨などの異常気象が増え、気候変動に対する対策がますます重要になってきています。気候変動に関する政府間パネル(IPCC:Intergovernmental Panel on Climate Change)の2013年の第5次評価報告書では、地球温暖化の原因が人間活動にあることは「可能性が極めて高い」とされていたのが、2021年の第6次評価報告書では、「疑う余地がない」と断言されています。

名古屋大学学際統合物質科学研究機構教授の斎藤進さんは、「二酸化炭素という巨大な敵に一人の力では太刀打ちできませんが、科学者として二酸化炭素の減少に資する学術や技術を実現したいと考えました。そこで目指したのが、熱や光、電気などの多様なエネルギーと地球上にありふれた電子源に応答する、緻密で頑丈な二酸化炭素変換システムです」と話します。電子源とは、水素分子、水分子などの化学結合にある電子のこと。身のまわりにたくさんある電子源とエネルギーを使って、二酸化炭素を還元し、資源として利用することを目指しました。

頑丈な構造で世界最高の回転数を記録

この技術のカギとなるのが、斎藤さんが開発した「PNNP型四座配位子」です(図1)。窒素(N)を含むビピリジンとリン(P)からなる「PNNP」という配位子が、中心金属と結合し、錯体を形づくります。さらにビピリジンやリンに官能基などを付けることができ、立体的に嵩高い錯体構造をとることができます。

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図1: PNNP型四座配位子の構造
⁠(画像提供:斎藤進氏)

「通常の金属錯体は熱や反応条件によって分解しやすいのですが、この錯体は非常に頑丈です。嵩高くすることで、バレーボールのブロックのように、周囲を囲んで中心金属を守り、外部からの攻撃を防ぎつつ、必要な反応だけを進行させることができるのです」と。斎藤さんは説明します。

この「頑丈さ」のおかげで、1個の錯体分子が何万回もの反応を繰り返すことができます。特に、中心金属をイリジウムにしたイリジウム錯体は、二酸化炭素光還元反応において高い触媒活性を示し、錯体単独では世界最高の回転数(TON:Turnover Number)を記録しました。「これはイリジウム錯体1個で、何万個もの二酸化炭素をやっつけたということ。まさに『一万力の働き』といえます」と、斎藤さんは続けます。

太陽光と水から二酸化炭素を変換し、資源化

斎藤さんは、このイリジウム錯体を触媒とし、二酸化炭素を還元して、再資源化する反応を開発しました。

まずは、熱エネルギーを用いて、水素結合(H-H)を電子源に、メタノールを生産するという反応です。この反応には、約190℃・20気圧以上という高温・高圧の反応条件が必要ですが、この触媒は頑丈なため、壊れることなく効率よく反応が進みました。

続いて、光エネルギーを使って、有機化合物を電子源として、二酸化炭素を効率的に還元し、ギ酸や一酸化炭素にすることに成功しました。ギ酸や一酸化炭素は、プラスチックや薬剤の原料として有用です。

「光エネルギーは非常に強いため、本来ならビピリジンも壊れるのですが、この構造なら壊れず非常に安定です」と斎藤さん。光エネルギーを使えば、反応条件を高温・高圧にする必要がなく、省エネルギーになるといいます。

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図2:PNNP錯体の活用。多様なエネルギーと電子源を用い、二酸化炭素を資源化
⁠(画像提供:斎藤進氏)

さらに身のまわりに豊富にある水を電子源に使えないかと考え、豊田中央研究所との共同研究開発で人工光合成のシステムを構築しました。人工光合成とは、太陽光を利用して水と二酸化炭素から化学エネルギーや有機化合物を生産する技術です。斎藤さんらは、太陽光発電で得た電気エネルギーを用いて二酸化炭素を還元し、ギ酸を生産する方法を開発しました。

豊田中央研究所は36cm角という大型の太陽電池のついた電解セルを開発しました。この大型システムではアノード側で水を酸化して酸素と電子を取り出し、その電子を使ってカソード側で二酸化炭素を還元します。このシステムの小型モデルにおいて、斎藤さんが開発したイリジウム錯体触媒を用いたところ、太陽光エネルギー変換効率は13.7%に達するなど、太陽電池を用いる二酸化炭素の水電解還元でも世界最高峰の光量子効率や太陽光-物質変換エネルギー効率を示しました。

「太陽光が当たると、非常に勢いよく酸素が発生し、目に見えませんが、液体のギ酸が溶け込んでいきます」と、二酸化炭素と水から資源を生み出す様子を斎藤さんは語ります。しかもイリジウム錯体は頑丈なため、光照射下や電圧印加下で1週間以上稼働させても二酸化炭素の還元速度はほとんど低下させませんでした。

将来は「宇宙居住」でも必要な技術に

斎藤さんは化学反応の効率を高める重要なツールである金属錯体を応用し、資源のない日本でエネルギーや資源を確保する方法を考えてきました。「私が目指すのは、太陽光や水、二酸化炭素などどこにでもあるエネルギーや資源を触媒技術によって、価値あるものに変えることです。私はこれを『地産地消』のかたちで生かしたいと思っています」(斎藤さん)。

この技術に欠かせないのがPNNP金属錯体触媒ですが、イリジウムが高価なためコストが見合わず、実用化されるにはまだ時間がかかりそうです。ただし、PNNP型四座配位子は、イリジウムでなくても、マンガンやコバルトなど地表により豊富で安価な、さまざまな金属を中心金属に配置できます。原理さえ分かれば、将来的には安くて地球上に豊富な鉄を使って人工光合成を行うことができると斎藤さんは考えおり、「10年後、20年後を見据えて挑戦していきたい」と意欲を燃やしています。

「将来、人口増加や環境変化に対応するためスペースコロニーと呼ばれる宇宙の居住施設に人が住むようになるかもしれません。そんな密封した空間で、二酸化炭素が充満したら生きていけません。でも、二酸化炭素を資源に代えることができれば、宇宙に住むことも夢ではありません。人類が宇宙に進出するために絶対必要になる技術だと思っています。夢のある研究なので、若い人にもどんどん引き継いでいってもらえればと願っています」と斎藤さんは締めくくりました。

グリーン・サステイナブルケミストリー賞(GSC賞)とは

公益社団法人新化学技術推進協会のグリーン・サステイナブル ケミストリーネットワーク会議が、グリーン・サステイナブルケミストリー(GSC)分野の推進に貢献する優れた業績を挙げた個人や団体にGSC賞を贈っています。各賞は以下の通りです。三大臣賞(経済産業大臣賞、文部科学大臣賞、環境大臣賞)。ベンチャー・中小企業賞。奨励賞。うち、文部科学大臣賞は学術の発展・普及への貢献に対して贈られます。GSCは、「人と環境にやさしく、持続可能な社会の発展を支える化学」を追求する世界的な環境運動を指します。

佐藤 成美(さとうなるみ)

サイエンスライター、明治学院大学非常勤講師(生物学)。東京大学大学院農学生命科学研究科修了(農学博士)。食品会社の研究員、大学の研究員、教員などを経て現在に至る。科学の幅広い分野について一般向けの記事のほか、研究所の広報誌やサイトなどにも原稿を執筆している。著書に『本当に役立つ栄養学』『「おいしさ」の科学』(以上、講談社ブルーバックス)『お酒の科学』(日刊工業新聞社)など多数。

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