超高純度リチウム回収法 LiSMICの開発と世界展開―第24回GSC賞ベンチャー・中小企業賞LiSTie株式会社【受賞技術から見える未来】
2026/06/23
LiSTie株式会社(以下LiSTie)は、超高純度リチウムを効率的に回収する技術を開発しています。リチウムは、スマートフォンや電気自動車などのリチウムイオン電池に使われ、世界中で需要が急増しています。しかし、リチウムの生産は環境負荷が大きく、廃電池などからの再資源化もまだ進んでおらず、多くの課題が残されています。LiSTieは、実証研究の段階ではあるものの、世界のエネルギー問題に貢献する技術として評価され、第24回(2024年度)GSC賞のベンチャー・中小企業賞を受賞しました。
急増するリチウム需要
リチウムは、軽くて反応性が高く、合金や潤滑油、医薬品などのほか、リチウムイオン電池の材料として使われる資源です。リチウムイオン電池は、スマートフォンやノートパソコン、電気自動車などに利用され、カーボンニュートラルの実現にはリチウムイオン電池を使った蓄電システムが重要な役割を果たします。近年の電気自動車や再生エネルギーの普及にともない、リチウムの需要が急増しています。2030年に市場は10兆円を超える規模に拡大すると言われ、リチウム資源とその関連技術に注目が高まっています。
リチウムの生産には、塩湖からリチウムを含む塩水をくみ上げ濃縮する方法と、鉱石から精錬する方法があります。リチウムの多くは、南米のチリ、アルゼンチン付近の塩湖から採掘されます。中でも、チリ北部にあるアタカマ塩湖には、世界の4分の1のリチウムが埋蔵されていると言われています。また、鉱石はオーストラリアや中国などの鉱床から採掘されます。リチウム生産は海外のこれらの国に集中しています。
リチウムの生産には多くの課題があります。まず、生産が海外に集中していることです。リチウムは炭酸リチウムとして生産されるため、水酸化リチウムに精製する必要がありますが、精製工程のほとんどを中国が握っています。国内情勢や政治の変化をきっかけに供給が不安定化する可能性があり、サプライチェーンの地政学的リスクになっています。
現在の生産方法は、環境負荷が大きいことも課題です。塩湖からの回収は回収率が悪く、大量の水資源を失うことによる砂漠化の加速が懸念されます。鉱石からの精錬には石炭など化石燃料の燃焼工程があり、二酸化炭素の排出量が多いことだけでなく、精製に多くの薬剤を使うことから、水質汚染や土壌汚染を招き、労働環境の悪化も問題になっています。
一方、使用済みリチウムイオン電池からのリサイクルリチウムは、品質が低いため、廃棄されている状況です。
「リサイクルしようとしても、従来技術では銅やアルミニウムなどの不純物が入るため、リチウムとして再利用が難しい状況です。EUの電池規則では、2031年から電池の製造にリサイクルリチウムを6%使用することが義務付けられますが、いまのところこの目標が達成できる見込みがないのが現状です」とLiSTie代表の星野毅さんは説明します。
リチウム資源の循環を目指す
LiSTieは、国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(QST)で開発されたリチウム回収技術を社会実装するために2023年に設立されたスタートアップ企業です。同社の技術は、塩湖や使用済みリチウムイオン電池など多様なリチウム源から、直接リチウムイオン電池原料の水酸化リチウムを回収できるものです。その純度は99.99%以上と高く、電池などの用途にも十分な高品質のリチウムを回収できます。この画期的なリチウム回収技術は「LiSMIC(Li Separation Method by Ionic Conductorリスミック)」と名付けられました。特殊なセラミック製イオン伝導体を分離膜として用い、リチウム源を電流とともに流すとリチウムのみを選択的に透過させることができます(図1)。

図1 LiSMIC
特殊なセラミック製の膜によって、高純度のリチウムを分離する。(画像提供:LiSTie)
この技術の要となる「リチウムだけを通す分離膜」の実用化には約10年かかりました。分離膜はリチウム、ランタン、チタン、酸素から構成されるセラミック板ですが、意図的に少しだけリチウムを欠落させ、「空孔」をもつ特殊な結晶構造にしました。通常、安定したセラミックスは物質を通しませんが、この構造にすることでリチウムイオンだけが空孔を伝って移動するため、不純物の多いリチウム原料から、リチウムだけを分離できるのです。
ただ、分離膜は大きくしても手のひらサイズ程度のため、たくさんのリチウムを回収できるよう、分離膜を複数並べたコンテナ型の装置を開発しています(図2)。年間570トンの水酸化リチウムを製造できる装置にすることが目標です。

図2 コンテナ型回収装置(LiSMICユニット)
物流で使われる40フィートコンテナと同じサイズ。(画像提供:LiSTie)
「LiSMICコンテナを塩湖や鉱山でリチウムを生産するメーカーに販売することと、私たちが使用済みリチウムイオン電池からリサイクルリチウムを生産し自動車メーカーや電池メーカーに販売することを目指しています」と星野さんは続けます。
2026年度中には、ベンチ実証実験を終え、2027年ごろから本格的な売り上げを見込んでいます。2030年以降、電気自動車の廃車が増加するタイミングで、IPO(新規株式公開)をして大規模な資金調達を行い、自動車向けの電池リサイクル工場を建設する計画です。リチウム資源が循環する社会を目指しています。
フュージョンエネルギーを支える技術に
リチウム分離技術はもともとフュージョンエネルギー(核融合)に使うことを目的に、星野さんがQSTで研究開発したものでした。フュージョンエネルギーは火力発電や原子力発電などに代わる未来のベースロード電源になると言われており、2040年代に核融合炉の発電実証を開始することを目標に開発が進んでいます。
核融合炉の燃料に用いるトリチウムは、自然界に存在しないため、リチウム6と中性子の核反応で人工的に作ります。核融合炉に必要なリチウム6の供給にLiSMICが役立つと考えています。
天然のリチウムにはリチウム6とリチウム7という二つの同位体があり、トリチウムを作るにはリチウム6が必要です。存在比はリチウム7が92.4%に対し、リチウム6はわずか7.6%しかありません。リチウム6のほうがリチウム7より質量が軽く、分離膜を速く通り抜けるので、速度の差を利用してリチウム6を分離できるため、LiSMICが有効です。将来的には、LiSMICで核融合炉にも貢献できるようQST認定ベンチャーとして開発を進めています。
「火力発電や原子力発電など電源の燃料はみな海外から調達したものでしたが、核融合炉のリチウム6をLiSMICで製造できるようになれば、日本国内でベースロード電源に必要な資源を確保できます。海外に依存せず、輸出もできるわけで、世界のエネルギー資源の構造を変える技術になると考えています」と星野さんは話します。
LiSTieという社名のLiはリチウム(Lithium)で、Sがサステナブル(Sustainable)で、最後のTieはつなぐ(Tie)に由来します。「この技術を将来の核融合炉につないでいきたいですね。そして、私たちの子供や孫の世代までつなぎ、エネルギー資源問題を解決していきたいです」と星野さんは、LiSMICの社会実装を目指し、意欲を燃やしています。
佐藤 成美(さとうなるみ)
サイエンスライター、明治学院大学非常勤講師(生物学)。東京大学大学院農学生命科学研究科修了(農学博士)。食品会社の研究員、大学の研究員、教員などを経て現在に至る。科学の幅広い分野について一般向けの記事のほか、研究所の広報誌やサイトなどにも原稿を執筆している。著書に『本当に役立つ栄養学』『「おいしさ」の科学』(以上、講談社ブルーバックス)『お酒の科学』(日刊工業新聞社)など多数。
