CO2減や補修レスの効果! 特殊界面活性剤で環境配慮型コンクリート普及へ―第57回日化協技術賞 環境技術賞 花王【受賞技術から見える未来】

2025/11/26
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製造業・建設業の二酸化炭素(CO2)排出量において、コンクリートに使われるセメント関連は鉄鋼、化学に次いで3位*1と高くなっています。そのため、セメントを産業副産物などで部分的に置き換える「環境配慮型コンクリート」を使おうという動きに拍車がかかっています。しかし、環境配慮型コンクリートでは粘度が高いことからコンクリート表面に気泡ができてしまうため、手作業で修復しなければなりませんでした。日用品だけでなく、産業界向けのケミカル事業も展開する花王は、培ってきた界面活性剤の技術を活用してこの問題を解決する技術を開発し、第57回日化協技術賞の環境技術賞を受賞しました。

きっかけは環境配慮型コンクリートをめぐる「お困りの声」

コンクリートは水、セメント、砂、砂利を混ぜて型に流し込んで固めたものです。水の量が少ないほどコンクリートの強度は増しますが、粘度が高くなり型の隅々まで流し込みにくくなります。これに対して花王は界面活性剤の技術を用いて、少ない水量でもコンクリートの粘度を適切にコントロールできる高性能減水剤「マイテイ」シリーズを1964年から製造・販売してきました。業界ではこの減水剤を添加することがスタンダードになっています。

「環境配慮型コンクリートでは、製造過程でCO2の大量発生が伴うセメントの一部を他の材料で代替しています。しかし、コンクリートの強度を確保するためには、その代替原料を細かく砕いて使わなくてはならず、その結果、粘度が高くなってしまうのです。すると、成型時に気泡が抜けにくくなるため、固まったコンクリートの表面に気泡の跡が残るという問題が発生していました。お客さまから『環境配慮型コンクリートは表面の気泡痕が多い。花王の技術でなんとかできないか』というお声をいただき、今回の研究開発が始まりました」と、同社テクノケミカル研究所研究員の谷本理勇さんは振り返ります。

さらに、この気泡痕は見た目が悪いだけでなく、耐久性が損なわれる場合もあるため、型から外した後に表面の気泡痕を手作業で補修していました。通常のコンクリートでさえも、コンクリート製造時の人件費の47%がこの補修作業で占められる程です(図1)。

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図1:環境配慮型コンクリートの課題。コンクリートの寿命を迎えるインフラが増えているなか、補修作業の削減も喫緊の課題に
⁠(出所:第57 回日化協環境技術賞受賞 花王テクノケミカル研究所「持続可能な社会基盤構築に貢献する『コンクリート表面美観向上』技術の開発」より)

親水性から疎水性にスイッチし、気泡を生じづらくさせる

気泡を低減するための技術は、既存の製法を変えずに使えなければ広く普及することはかないません。そこで、花王テクノケミカル研究所のチームは、高性能減水剤の延長上で技術を開発する検討を始めました。

「初めは、脱泡しやすくすることで気泡を減らそうと、コンクリートの粘度を下げる検討をしていました。しかし、粘度を下げ過ぎるとコンクリート中の砂利が沈んでしまうなど、なかなか上手くいくものが見つからず、プロジェクトは頓挫してしまいそうでした。そんなとき、コンクリートの粘度が高いままでも、添加することで気泡が消える界面活性剤があるのに気づいたのです。それで開発の方向性を大きく転換しました」と開発者の谷本さんは話します。

コンクリート製造過程では、乾燥後に型枠からコンクリートを外しやすくなるように型枠の表面に油を塗ります。つまり、型枠は疎水性の状態になっています。一方、コンクリートの材料であるセメントペーストは親水性であるため、両者の相性は悪く、気泡が型枠に張り付きやすくなります。その結果として、完成したコンクリートで気泡痕になります。「もしセメントペーストと型枠油の相性を高めることができれば、気泡は張り付きにくくなるのでは……」――この着想が、今回の特殊界面活性剤に気づくきっかけになりました。谷本さんは受賞した特殊界面活性剤について次のように説明します。

「作業現場の負担を減らすため、この特殊界面活性剤を新たな添加設備などを導入せずに使えるよう、花王の既存の高性能減水剤『マイテイ』と一剤化したことも特徴です。当初は、親油性の強い特殊界面活性剤は、水溶液であるマイテイに混ざりにくく、かといって混ざりやすくすると気泡低減効果が弱まるというジレンマがありました。その課題を解決したのが、使用途中で特殊界面活性剤の性質を親水性から疎水性へスイッチする設計です。最初は親水性ですが、セメントペーストと混ぜている最中にカルシウムイオンと反応し、疎水性に変化します。つまり、マイテイと混ざりやすい剤でありながら、コンクリート中で反応が進むと型枠油と馴染む疎水性へと変化して気泡を抑えます。これは花王の洗剤などに使用される技術を応用したものです」

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図2:特殊界面活性剤の技術コンセプト。型と気泡の付着力は「θ’」の角度が小さいほど小さくなり、気泡ができにくい
⁠(出所:第57 回日化協環境技術賞受賞 花王テクノケミカル研究所「持続可能な社会基盤構築に貢献する『コンクリート表面美観向上』技術の開発」より)

同社はこの特殊界面活性剤を、「製品美観向上型高性能減水剤『マイテイ21NS-X』」という製品名で2023年から販売しています。すでに業界大手に採用され、セメントを別素材に置き換えることでCO2排出量を40%削減した環境配慮型コンクリートでも補修工程なしで使用できるという実績を残しています(図3)。

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図3:環境配慮型コンクリートでの実績と効果。特殊界面活性剤を混ぜて型に流し込むだけで、気泡面積率は0.6%と大幅に低減。強度などの特性に影響はなかった。この特殊界面活性剤は、従来のコンクリートにも気泡低減効果を発揮する。減水剤を混ぜるのと同じように添加すればよく、製造装置の変更は不要。補修をしないので工期短縮や人件費削減にも貢献する
⁠(出所:第57 回日化協環境技術賞受賞 花王テクノケミカル研究所「持続可能な社会基盤構築に貢献する『コンクリート表面美観向上』技術の開発」より)

何度も改良、環境問題解決へ一層の貢献めざす

谷本さんは「多くのお客さまに使っていただけてこそ、環境問題に貢献できます。ですから、マイテイをもっと多くの方々に知っていただきたい。国内で使用実績が増えてきていますし、海外のお客さまもご検討くださっています。そして、使っていただくと『きれいだね』というお声をいただきます」と言います。

また、「実は、マイテイについてはお客さまからの声を受け、2017年の初期グレード発売から何度も改良したグレードの開発を重ねています。以前、試して需要と合わなかった皆さまにも、最新グレードを試していただければと思います」と説明します。

そして、谷本さんは「今回、受賞できたのも、お客さまのお悩みを知ることができたからだと思っています。現場で抱えている課題をぜひ教えていただき、必要があれば協業させていただきたいと考えています」と抱負を語ります。

今後もマイテイシリーズの製品に新たなものが加わっていくことでしょう。それは、環境問題や労働力不足といった社会課題の解決に貢献するコンクリートが広まっていく印でもあります。

一般社団法人日本化学工業協会(略称 日化協)は、優れた化学技術の開発や工業化によって化学産業ならびに経済社会の発展に寄与した事業者を表彰する「日化協技術賞」を設けています。1968年に創設されたこの賞では現在、化学に関連する事業者から業績を公募し、優れた業績に対して総合賞・技術特別賞・環境技術賞の3つの賞を贈り、表彰しています。環境技術賞は独創的技術あるいは改良技術で、環境負荷低減に対して著しい効果があり、科学技術の進歩に寄与したものに贈られる賞です。

脚注

*1:製造業・建設業の二酸化炭素(CO2)排出量において、セメント関連が含まれる窯業土石が鉄鋼、化学に次いで3位
⁠「日本国温室効果ガスインベントリ報告書2024年」によるものです。

村上 華子(むらかみ はなこ)

早稲田大学大学院応用化学修了、社会人経験後、早稲田大学大学院科学技術ジャーナリスト養成プログラムを修了。LION株式会社の技術ジャーナル、NEDO実用化ドキュメント、計算基礎科学連携拠点の月刊JICFuSなどで研究紹介取材記事を執筆。工学・化学・計算科学・生物学を中心に執筆。

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