CO2減へ! 次世代パワー半導体向けSiCエピタキシャルウェハーの品質を高め製品化―第24回GSC賞経済産業大臣賞 レゾナック【受賞技術から見える未来】

2026/03/31
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化学メーカー大手のレゾナックは、パワー半導体用の高品質な炭化ケイ素(SiC)エピタキシャルウェハーの開発と量産化に成功しました。SiCパワー半導体は、従来のシリコン製パワー半導体に比べ、電力の損失や熱の発生が少なく、エネルギー効率を大幅に向上できることから省エネルギーに重要なデバイスとして期待されています。同社は、カーボンニュートラルに貢献する技術として、第24回(2024年度)GSC賞の経済産業大臣賞を受賞しました。

SiC製のパワー半導体に「次世代」への期待

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図1:レゾナックが製品化したSiCエピタキシャルウェハー。6インチおよび8インチ
⁠(画像提供:レゾナック)

生活や産業を支える半導体の中でも近年注目を集めているのが、省エネルギーに大きく貢献するパワー半導体です。半導体といえば、コンピュータに搭載されている中央演算処理装置(CPU:Central Processing Unit)や大規模集積回路(LSI:Large Scale Integrated circuit)などが思い浮かびますが、これらはデータの処理やメモリの制御を行うもの。一方、パワー半導体の機能は異なり、モーターの電力を制御したり、電流を直流から交流に変換したりするなど電力の供給コントロールにあります。効率的に電力を変換することで、エネルギーの損失を減らすことができます。

現状ではシリコン製のパワー半導体が主流です。例えば、エコカーではシェアの高いハイブリット車において現状、シリコン製が使われています。エアコンや鉄道車両なども同様です。今後は、電化やデジタル化が加速し、電力の消費量が一層増加すると考えられており、シリコンカーバイドとも呼ばれる炭化ケイ素(SiC)を用いた新素材のパワー半導体が「次世代」としてエネルギー利用に中心的な役割を果たすと期待されています。

SiCパワー半導体は、シリコンパワー半導体より、抵抗が低いため、電力の損失を低減させ、エネルギー効率を大幅に向上させることができます。高周波駆動も可能なため、装置全体を小型化できます。熱にも強く、高温でも安定して装置を動作させることが可能となります。例えば、電気自動車に搭載すると、走行距離が延びたり、室内を広く使えたりするなどのメリットを得られます。

SiCパワー半導体が普及し、家電からエネルギー分野まで幅広い機器に使われれば、高い省エネ効果により、カーボンニュートラルの実現に大きく貢献すると期待できます。しかし、これまではコストが高く、信頼性が低いという課題がありました。

高温の必要性、結晶欠陥の発生、デポの存在…多く課題を認識

半導体材料の大手メーカーであるレゾナック(当時は昭和電工)もSiCに注目して、1998年よりSiC関連の研究開発に参画してきました。2005年からはエピプロセスの開発を進めました。これは、SiC単結晶を円盤状に加工したウェハーと呼ばれる基板の上に、不純物濃度や厚みを精密に制御した薄膜のエピタキシャル層を成長させるプロセスを指します。これにより半導体の品質と特性を向上させることができます。デバイスメーカーは、この基板を用いてトランジスタやダイオードなどの半導体デバイスを作ります。

「SiCは優れた機能を持つとはいえ、扱いの難しい素材で、エピタキシャルウェハーの製造面で多くの課題がありました。それでも長年の経験の積み重ねにより、高品質の製品を量産化できるようになりました。いまでは、自社でウェハーを製造しているデバイスメーカーでも、レゾナック製のエピタキシャルウェハーを使っていただいています」と、同社デバイスソリューション事業部事業部長付フェローの金澤博さんが話します。

SiCエピタキシャルウェハーを製造するときは、まず、SiCの粉末原料を昇華して単結晶をつくる「バルク結晶成長」の工程から始めます。この単結晶を切り出して基板にする「基板加工」の工程を経て、その基板の上に単結晶のSiCエピキタシャル膜を形成させる「エピ結晶成長」の工程に至ります(図2)。

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図2:SiCパワー半導体の製造工程
⁠(画像提供:レゾナック)

この製造工程における課題の一つは、高温が必要なことです。バルク結晶成長では2000℃以上、エピ結晶成長では1600℃といった高温にしなければなりません。一方、高品質な単結晶を得るためには精密な温度コントロールが必要となり、困難が伴います。また、SiCはダイヤモンドに次ぐ硬さなので、基板加工も一筋縄ではいきません。

そして、これはエピタキシャルウェハーに限らず基板全般にいえることですが、デバイスの性能低下や製造コストの増大を引き起こす最大の要因として、結晶中に原子配列が不完全な結晶欠陥が多く含まれることがありました。シリコンでは基本的な結晶構造は1種類のみですが、SiCでは、化学組成が同じでも結晶構造の異なる多形が250種以上もあるので欠陥が発生しやすいのです。その点からも精密な温度コントロールが高温化で必要になります。

また、エピ製造工程には炉壁表面についた「デポ」と呼ばれる付着膜が発生します。シリコンであれば、塩化水素(HCl)ガスでデポを除去できますが、SiCは安定な物質なのでHClのようなガスによるデポ除去は不可能です。デポが発生する前提で品質を管理する必要がありました。

高品質での量産を目指し、ついに製品化を実現!

レゾナックのSiC事業では、SiCエピタキシャルウェハーに特化した専業体制のもと、高品質な製品を量産化することを目指しました。「チップの大きさがより大きくなればより大きな電流が流せるし、エピタキシャル層がより厚くなれば耐電圧が大きくなり、システムのパワーが向上します(図3)。けれどもチップが大きくなれば歩留まりが悪くなり、層が厚くなれば欠陥ができやすくなります。そうしたトレードオフの関係がある中、チップサイズが大きく、より厚いエピ膜厚が求められる高品質なデバイスでお客さまの歩留まり低下が起きないような製品を目指して挑戦してきました」と、金澤さんは説明します。

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図3:品質をめぐるサイズ・厚さの関係性
⁠(画像提供:レゾナック)

1998年に研究開発を始めて以降、検討を重ね、2015年に高品質SiCエピタキシャルウェハーを、さらに2019年には低欠陥化した第2世代を上市しました(図4)。金澤さんは、「第2世代のハイグレードエピは、それまでに比べて、大きなチップでも非常に歩留まり良くできています」と、太鼓判を押します。

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図4:第2世代ハイグレードエピの表面欠陥と基底面転位(BPD)の低減例。BDPはBasal Plane Dislocationの略
⁠(画像提供:レゾナック)

2022年には6インチの量産を開始し、国内初となる8インチのサンプル出荷も実現しました。大口径化すれば、エピタキシャルウェハー1枚あたりのチップ数の枚数が増加し、コストを下げることができるというメリットを得られます。さらに2023年には信頼性を高めた第3世代の製品を上市しました。

高品質化や量産化に成功したのは、長年の積み重ねや多くの人の「協力の賜物」だと開発者たちは一様に話します。SiC統括部技術開発1グループリーダーの周防裕政さんは、「専用の装置を開発し、高温の装置の中で起こる熱や空気の流れをシミュレーションにより可視化するとともに、装置内をコントロールできるようにしました。そのおかげで効率的に改善を繰り返すことで高品質化することができました。でも、開発できたいちばんの理由は20年以上かけて培ってきたノウハウや知見の積み重ねがあったからです」と話します。

事業成長戦略プログラムマネージャーの深田啓介さんも、「量産化につなげられたのは、次から次へと現れる不具合を一つ一つ検討してきたことにあると思います。たとえ一つ一つの小さいことでも、欠けると上手く行きません。開発チームだけでなく、材料メーカーや顧客にも協力してもらい、みんなで作り上げてきました。真似しようとしても簡単にはできないことと思います」と続けます。

SiCで社会の電力効率を変えていく

SiCエピタキシャルウェハーの開発メンバーに、この技術の未来への期待を語ってもらいました。

深田さんは、「電気自動車も含めて、電気の需要は確実に増えていくでしょう。二酸化炭素の排出量を減らすためには、いろいろなものを電化しなければならないし、人工知能やデータセンターなど新しい電気需要も増えています。そうなると電気をいかに効率的に使うのが重要ですし、エネルギーを巡った世界的な争いを減らすことにも貢献できる技術だと思います。そんな思いを持って取り組んでいきたいですね」と話します。

周防さんは、「あまり表に出ない技術ですが、エネルギーを効率的に使うことに直結しています。頑張ってこの技術を普及させ、環境変動の抑制につなげていきたい」と抱負を語ります。

また、SiC統括部技術開発3グループリーダーの馬渕雄一郎さんは、「長い間、開発に携わってきて、この技術が産業として認めてもらえたのはうれしいこと。日本の半導体産業の価値を上げ、盛り上げる存在になりたい」と語ります。

パワー半導体は、今後は太陽発電、風力発電などの再生可能エネルギー、人工知能の普及により電力消費が増加しているデータセンターなどへの普及が加速すると考えられています。より高電圧・大電流に耐えられ、電力損失を低減できるSiCパワー半導体は、電気自動車の燃費向上やデータセンターの省エネ化など、社会の電力効率を大きく変える可能性を秘めています。

グリーン・サステイナブル ケミストリー賞(GSC賞)とは

公益社団法人新化学技術推進協会のグリーン・サステイナブル ケミストリーネットワーク会議が、グリーン・サステイナブル ケミストリー(GSC)分野の推進に貢献する優れた業績を挙げた個人や団体にGSC賞を贈っています。各賞は以下の通りです。三大臣賞(経済産業大臣賞、文部科学大臣賞、環境大臣賞)。ベンチャー・中小企業賞。奨励賞。うち、経済産業大臣賞は、産業技術の発展に貢献する社会実装されたものに贈られます。GSCは、「人と環境にやさしく、持続可能な社会の発展を支える化学」を追求する世界的な環境運動を指します。

佐藤 成美(さとうなるみ)

サイエンスライター、明治学院大学非常勤講師(生物学)。東京大学大学院農学生命科学研究科修了(農学博士)。食品会社の研究員、大学の研究員、教員などを経て現在に至る。科学の幅広い分野について一般向けの記事のほか、研究所の広報誌やサイトなどにも原稿を執筆している。著書に『本当に役立つ栄養学』『「おいしさ」の科学』(以上、講談社ブルーバックス)『お酒の科学』(日刊工業新聞社)など多数。

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