【化学業界の基礎知識 -化学用語編-】第8回 アニオン・カチオンとは?
2022/04/14
連載の目次
化学業界で仕事をする人なら知っておきたい「化学用語」をおさらいする「化学業界の基礎知識化学用語編」。最終回となる今回のテーマは「アニオン・カチオン」です。
Q1. 陽極(アノード)へ向かうイオンはアニオン? カチオン?
電気分解の原理に由来
水中に溶解した分子は「イオン」として存在します。負に荷電したイオンのことを「アニオン」または「陰イオン」と呼び、正に荷電したイオンのことを「カチオン」または「陽イオン」と呼びます。
語源的には「アニオン」「カチオン」という言葉は、19世紀に活躍した英国の化学者マイケル・ファラデーが考案した電気分解の基本原理に由来します。
電気分解では、陽極(アノード)と陰極(カソード)の間にイオンを含む水溶液を配置した状態で、直流電流を流します。このとき、陰イオン(アニオン)である水酸イオン(OH−)は電流の流れに従って陽極(アノード)に移動し、陽極で電子を放出し、イオンから分子(O2とH2O)に変わります。
一方、陽イオン(カチオン)である水素イオン(H+)は陰極(カソード)に向かって移動し、陰極で電子を受け取り、分子(H2)に戻ります。
これらの現象から、イオンには2種類が存在することが分かります。そこで、陽極(アノード)に向かうイオンをアニオン、陰極(カソード)に向かうイオンをカチオンと呼ぶことにしました。したがって、電流の流れと関連付けられており、電流の上流側に動くイオンをアニオン、下流側に動くイオンをカチオンと名付けました。
Q2. マイナスやプラスの数を数えるとき使う接尾語の漢字1文字は何?
「イオン価」の数と「単原子か多原子か」で整理
イオンを分類するとき、「アニオンかカチオンか」に加えて、「イオン価」と呼ばれるマイナスやプラスの数と、「単原子か多原子か」とで整理することがあります。
アニオンには、1価の単原子イオンとして、フッ素イオン(F−)、塩素イオン(Cl−)、臭素イオン(Br−)、ヨウ素イオン(I−)があります。1価の多原子イオンとしては、水酸化物イオン(OH−)、硝酸イオン(NO3−)があります。
また、多価の多原子イオンとして、硫酸イオン(SO42−)、炭酸イオン(CO32−)、リン酸イオン(PO43−)などがあります。
ほかに、有機イオン、つまり炭素が成分に含まれるイオンでは酢酸イオン(CH3COO−)などを挙げることができます。
カチオンには、1価の単原子イオンとして、水素イオン(H+)やナトリウムイオン(Na+)などがあります。1価の多原子イオンとしては、アンモニウムイオン(NH4+)が知られています。
また、多価の単原子イオンには、カルシウムイオン(Ca2+)やアルミニウムイオン(Al3+)などがあります。
Q3. 水処理用途の樹脂ではイオン同士のどんな反応を利用している?
Q4. 電着塗装では被塗物を何に見立てる?
アニオンとカチオンの対比が紛らわしい用語
「アニオン」という言葉と「カチオン」という言葉を混同しやすい場合について取り上げます。
1. 水処理用のイオン交換樹脂
イオン交換樹脂は水処理に用いられる樹脂です。アニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂がセットで用いられます。
代表的なアニオン交換樹脂として4級アンモニウム基を有する「強塩基性陰イオン交換樹脂」が知られています。架橋したスチレン骨格にトリメチルアンモニウム(TMA:TriMethylAmmonium)基が結合した構造をしています。1個の窒素原子(N)の周りには、メチル基(CH3)が3個結合しており、正の電荷を有しています。従って、負の電荷を持つアニオンを引き寄せます。初期状態では水酸イオン(OH−)が結合していますが、周辺に塩素イオン(Cl−)が存在すると、以下の反応で、水酸イオンは塩素イオンと置き変わります。
R-N・OH + Na+Cl− → R-N・Cl + Na+OH−
一方、「強酸性陽イオン交換樹脂」としては、スチレンの骨格にスルホン酸基(−SO3H)を交換基として持つ樹脂が知られています。解離すると、強酸性を示し、Na+イオンやCa2+イオンのような陽イオンと反応します。
R-SO3H + Na+Cl− → R-SO3Na + H+Cl−
従って、塩素イオン(Cl−)は、アニオン交換樹脂と接触することで水酸イオン(OH−)に変換され、ナトリウムイオン(Na+)はカチオン交換樹脂と接触することで水素イオン(H+)に変換されます。結果として、塩分が水に置換されるわけです。
なお、この操作を続けるためには樹脂の再生が必要です。アニオン交換樹脂は水酸化ナトリウム(NaOH)でOH型というタイプに、カチオン交換樹脂は塩酸(HCl)でH型というタイプに変換して再生します。

2. 洗剤や化粧品などの界面活性剤
界面活性剤については、大別すると、アニオン系とカチオン系に分類されます。
アニオン系界面活性剤には、高級脂肪酸塩やアルキルベンゼンスルホン酸塩(LAS:Linear Alkyl benzeneSulfonic acid)などが挙げられます。乳化や洗浄、分散に使われ、泡立ちがよく洗浄力が高いため、シャンプーや石けん、洗顔料などに配合されます。
カチオン系では、脂肪族4級アンモニウム塩や塩化ベンザルコニウム(BZC:BenZalkonium Chloride)などが挙げられます。カチオン系界面活性剤は、帯電防止や柔軟、殺菌の用途に使われます。また、負に帯電しやすい毛髪や細菌を包み込んで、帯電を防いだり殺菌したりする働きがあります。リンスやコンディショナー、制汗剤などに配合されます。
3. 電着塗装向けのイオン性塗料
電着塗装とは、水溶性塗料を入れたタンクの中に鉄製品やアルミ材である被塗物を浸した状態で直流電気を流すことで、被塗物上に塗膜を形成させる塗装方法です。被塗物がアノード(陽極)またはカソード(陰極)となるわけです。
塗料の成分は、アニオン電着塗装ではポリブタジエン系樹脂、また、カチオン電着塗装ではエポキシ系樹脂がそれぞれ用いられます。塗料は水性で、顔料と樹脂がくっついた状態で含まれていますが、この樹脂が正に帯電しているか負に帯電しているかによって電流の向きが逆転します。つまり、カチオン電着塗装の場合には被塗物を陰極として、アニオン電着塗装の場合には被塗物を陽極として、それぞれ塗膜を析出させることになります。
電着塗装には、塗装の効率がよく自動化や大量生産が可能という特長があります。また、塗料の付きまわりがよく、袋状の物にも均一の塗膜を隙間なく塗装できるといった利点があります。
さて、あなたは何問、正解できたでしょうか? 答はこちらです。
A1:その通り
A2:価
A3:交換
A4:アノード(陽極)またはカソード(陰極)
「化学業界の基礎知識 化学用語編」は今回で終わりです。ご愛読ありがとうございました。今後もぜひお仕事などにご活用ください。
中尾 眞(Makoto Nakao)/ SCE・Net
1948年生まれ。東京大学大学院化学工学修了。旭硝子(株)にて研究開発部、化学品営業部などに在籍し、イオン交換膜法食塩電解技術関連の開発・営業およびPEM燃料電池開発に従事。2006年より(公社)化学工学会SCE・Netの活動に参加し、現在代表幹事を務める。
