ざわつく農業界・気になるワード(4) ゲノム編集とは?【化学業界と「農薬」のこれから 第9回】 

2021/12/15
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Chematelsをご覧の皆さん、こんにちは。サイエンスライターの堀川晃菜です。前回に続き、農林水産省の「みどりの⾷料システム戦略」※1に登場するキーワードの中から、今知っておきたいホットな技術を紹介していきます。今回のテーマは「ゲノム編集」。この記事では、作物の新たな育種技術として注目を集めるゲノム編集技術について紹介していきます。

連載の目次

なぜゲノム編集? 遺伝子組換えとの違いは

ゲノム編集では、機能がわかっている遺伝子を狙って切るなどして、遺伝情報を改変します。例えば、アレルゲンとなるタンパク質の遺伝子を壊す、毒素をつくる遺伝子が機能しないようにするなど、より望ましい性質になるようピンポイントで遺伝子を操作します。

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図1. ゲノム編集の概要。農林水産省農林水産技術会議事務局 公表資料※2より

育種技術としてゲノム編集が注目される理由は、その効率の高さにあります。昔から人は、美味しい、実が多いなど望ましい性質の植物を選んできました。品種のバリエーションを生み出すのはゲノムの「変異」です。自然の突然変異は、紫外線などの刺激でゲノムを構成するDNAが傷つき、修復過程でまれにミスが生じる(元通りにならない)ことで起こります。その確率は10万~100万分の1でめったに起こりません。

意図的におしべ・めしべを掛け合わせる交配育種は約120年前に始まり、その後、人工的に突然変異を誘発する方法も開発されてきました。しかし、ゲノム上のどこに変異が入るかはランダムで、偶然の産物を待つしかありません。

その点、ゲノム編集では狙いを定めて遺伝子を変異させることができます。偶然任せではないため、非常に効率的です。従来の品種改良は商用化まで長ければ数十年かかりますが、ゲノム編集では1~4年と大幅なコスト削減が見込まれます。

遺伝子組換え技術との違いは、他の生物に由来する遺伝子を組み込まない点です。もともと、その生物が持つ遺伝子を変化させるので、自然に起こり得る変異を計画的に起こしているとみなされ、リスクも従来の品種改良と同等と考えられています。

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表1. ゲノム編集作物と遺伝子組換え作物の比較。くらしとバイオプラザ21作成資料より※3

なぜピンポイント? もし間違いが起こったら?

遺伝情報はDNAの4塩基(A,T,G,C)の並び順(配列)で指定されています。ゲノム編集では、そのうち狙った遺伝子の部位で、この並び順を変えます。現在よく使われているCRISPR¬-Cas9(クリスパー・キャスナイン)というシステムでは、CRISPRが特定の20塩基を認識してくっつき、Cas9がそこで塩基配列を切断します。20塩基の並び方は1兆通り、つまり1兆分の1の確率で存在する配列を見つけるため、ピンポイントと言えるのです。

ただし20塩基中1~2塩基だけ違う似た配列を間違えて、認識・切断する「オフターゲット変異」がまれに起こります。ただ、万が一、そうなった場合も除去することは可能です。従来の品種改良でも、意図しない突然変異は頻繁に起きるため、そこから望ましいものだけを選抜する工程があります。ゲノム編集でオフターゲット変異が生じた場合もゲノム編集を施す前の元の作物と交配(戻し交配)をすることで、最終的には目的の変異のみが入ったものを残すことができます。

農薬との関係は? 

 国内でも、ゲノム編集作物の研究開発が進んでいます。2020年12月には、筑波大学発のベンチャー企業、サナテックシードの高GABA(γ-アミノ酪酸)含有トマトがゲノム編集技術を利用した農作物の第一号として届出が受理され、2021年9月から販売が開始されました※4。このトマトは、GABAの生合成に関わる酵素の遺伝子をゲノム編集し、その酵素の活性を高めることで、GABAが多くつくられるようにしています。GABAには血圧上昇抑制など効果があるため、健康への寄与が期待されています。

この他にも、多収のイネやトウモロコシ※5、天然毒素の生成を抑えたジャガイモ※5、無花粉スギなど、ポジティブな要素を高める、あるいはネガティブな要素を取り除く、両アプローチで開発が進んでいます。農薬との関係でいえば、(ゲノム編集に限りませんが)品種改良によって病害虫への耐性を高めることができれば、減農薬にもつながると考えられます。

さて、第6回の総合防除(IPM)、第7回のバイオスティミュラント、第8回のRNA農薬、そして今回のゲノム編集技術と、農業・農薬をめぐる最新の考え方や技術を紹介してきました。これからも私たちの生活を支える農業が、より効率的に、持続的に発展するように、こうした最新技術が有効に生かされていくことを願っています。本連載は今回で最終回となります。今までお読みくださった皆様、ありがとうございました!

《主な参照先》

1)みどりの食料システム戦略トップページ(農林水産省)
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/midori/index.html

2)ゲノム編集技術の社会実装と農林水産業の未来像(農林水産省)
https://www.maff.go.jp/j/syouan/nouan/carta/tetuduki/attach/pdf/201225_sympo-6.pdf

3) 新しい育種技術(くらしとバイオプラザ21)
https://www.life-bio.or.jp/nbt/index.html

4) サナテックシード株式会社
https://sanatech-seed.com/ja/20201211-2/

5)バイオステーション 研究開発の動向(最新育種ネットワーク)
https://bio-sta.jp/development/

堀川 晃菜(ほりかわ あきな)

科学コミュニケーター、サイエンスライター 1986年生まれ。東京工業大学大学院 生命理工学研究科修了。農薬メーカーに勤務後、日本科学未来館 科学コミュニケーターに。その後、Webメディアの編集・記者を経て、現在はフリーランス。著書に『バイオ技術者・研究者になるには』(ぺりかん社)がある。

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