農薬の安全性ってなんだ?【化学業界と「農薬」のこれから 第3回】
2020/09/14

農薬の安全性について気になる人は多いと思いますが、そもそも「農薬の安全性」とは何を指しているのでしょうか。もし農薬を使わなければ、無条件に安全と言えるのでしょうか?
第2回はこちら:農薬の「原体」って何ですか?
「農薬の安全性」4つの柱
薬の「有効性」と「安全性」。この2つが両輪であることは、医薬品でも、農薬でも同じです。医薬品は、その薬を服用する人に対する安全が前提となります。農薬の場合は、「人」について、「作物の消費者」と「農薬の使用者」を区別します。農薬の安全性は、これらを含めた次の4つの視点から評価されています。
・消費者に対する安全性
食物(農作物、家畜、水産物)に含まれる残留農薬による人の健康への影響を考慮
(水産物については、環境中の水を通じた人への影響にも関連します:4つ目)
・農薬の使用者に対する安全性
農薬を製造・販売する人、散布を行う作業者が急性中毒を起こす可能性を考慮
・農作物に対する安全性
農薬の散布対象となる作物の成長、収穫物の収量や品質への影響を考慮
(散布後の田畑で続けて別の作物を栽培する場合は後作への影響もある)
・環境に対する安全性
土壌、水、大気への影響。環境を介して野生の動植物、家畜、人に与える影響(推定暴露量)を考慮
「再評価」もパスしなければならない
農薬を製造・販売・使用するには、農薬取締法に基づいて農林水産省から承諾を得る必要があります。これを「登録」と言いますが、1つの農薬を登録には、上記の4つの柱に基づき、さまざまな試験が行われ、そのデータは非常に膨大な量となります。
また、農薬は一度登録されたらOKではなく、「再評価」の制度があります。2018年12月に施行された改正農薬取締法では、全ての農薬について、最新の科学的知見に基づき、定期的に安全性などの再評価を行う仕組みが導入されました。施行後に登録された農薬では、おおむね15年ごとに再評価が行われ、それ以前に登録を取得したものも2021年度から順次、再評価が行われることになっています。
厄介な「かび毒」のリスク
一方で「それなら、農薬を使わなければ良いのでは?」という疑問もあるだろうと思います。農薬の必要性については、高品質な食料の安定生産、それを可能にするための生産者の労力削減が大きな理由として挙げられますが、実は私たちの健康を守るうえで果たしている役割もあります。
植物を育てる際には、かびの病気が問題となります。そして、かびが放出する「かび毒」には、毒性が強いもの、発がん性を示す物質があることも分かっています。さらに厄介なことに、作物にかび毒が付着しても、見た目では分からないのです。
加熱でかび自体を死滅させることはできますが、かび毒は比較的熱に強く、通常の加工や調理の過程ではほとんど減らすることはできません。一度、かび毒に汚染されると、食品から完全に除去することが難しいため、防止策が重要となります。生産者向けのガイドラインも作成されていますが、殺菌剤の適正使用や、貯蔵庫などの環境を清潔に保つことも大切です。
有無ではなく「最適な使い方」
また、食物アレルギーに関する報告もあります。病原菌や害虫と戦うため、植物が自ら防御物質を作り出すことがあるのですが、その中にはアレルギーの原因となるものもあるのです。つまり、殺菌剤や殺虫剤を使用しないことにもリスクが伴う、と言えるでしょう。
ただ、作物の病害虫に対しては、化学農薬が唯一の策ということではありません。例えば、病気に強い品種の開発、生物農薬の使用、虫除けネットを張る、土質や温度・湿度のコントロールなど「総合的病害虫管理(IPM)」の中で、化学農薬もツールの1つとして位置付けられています。農薬を使用するかしないかではなく、「使用の仕方」が問われています。
IPMについては別の機会に紹介したいと思います。次回以降では、安全とリスクの基本的な考え方をふまえて、農薬の安全性を担保する「基準値」について見ていきます。引き続き、よろしくお願いします。
【参照先】
・農薬の安全性評価について
https://www.jcpa.or.jp/qa/a5_08.html
・農薬の環境への影響とその対策について
https://www.env.go.jp/water/noyaku.html
・農薬の再評価について
https://www.maff.go.jp/j/nouyaku/saihyoka/
・カビ毒や食物アレルギーの原因物質に関して
https://www.jcpa.or.jp/qa/a2_15.html
https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/risk_analysis/priority/kabidoku/index.html
堀川 晃菜(ほりかわ あきな)
科学コミュニケーター、サイエンスライター 1986年生まれ。東京工業大学大学院 生命理工学研究科修了。農薬メーカーに勤務後、日本科学未来館 科学コミュニケーターに。その後、Webメディアの編集・記者を経て、現在はフリーランス。著書に『バイオ技術者・研究者になるには』(ぺりかん社)がある。
