農薬の「原体」って何ですか?【化学業界と「農薬」のこれから 第2回】 

2020/08/10


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こんにちは。サイエンスライターの堀川晃菜です。突然ですが、皆さんにとって「農薬」は身近な製品ですか? 農薬と聞くと、漠然と危険なイメージが先行するかもしれません。「正直なところ、よく分からない」というのも無理はありません。

多くの人が、農薬の力も借りながら大切に育てられた作物を毎日のように口にしている一方で、農薬を使ったことのある人はそう多くないでしょう。私も農薬メーカーに就職するまで、そもそも農業について全くと言っていいほど知りませんでした。そこで今回は、誰しも無縁ではない、けれども遠い存在である「農薬」について見ていきます。

 第1回はこちら:化学業界と「農薬」のこれから

農薬にはいろいろな種類がある

農薬といえば、「殺虫剤」「殺菌剤」「除草剤」の3つが大黒柱であることは間違いありません。しかし他にも、さまざまな種類があります。分類の仕方もいくつかありますが、用途別にまとめると、表1に示す11のカテゴリーに分けられます。


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表1 農薬の用途別分類(農薬工業会および農林水産省のHP※1をもとに筆者作成)

※ 農林水産省では「殺虫剤、殺菌剤、殺虫殺菌剤、除草剤、殺そ剤、植物成長調整剤、その他」の7種類に分類。この場合、殺ダニ剤、殺線虫剤は「殺虫剤」に含まれ、忌避剤、誘引剤、展着剤は「その他」に含まれる。

ほとんどの農薬は化学農薬ですが、「生物農薬」と呼ばれるものもあります。これは、農薬の有効成分として微生物や昆虫などを生きた状態で製品化したもの。農作物などに害を及ぼす虫の「天敵」となる虫や線虫、微生物などを利用しているのです。

展着剤はマイナーですが、農薬の効率的な使用、ひいては減農薬につながるものです。その主成分は界面活性剤です。界面活性剤は、農薬の補助成分として(有効成分を水溶液に分散させるなどの目的で)用いられるため、もともと農薬製品に含まれていることもあります。しかし展着剤はそれとは別で、農薬を散布する際に一緒に加えて使います。水分をはじきやすい葉や虫の表面に対して、界面活性剤の作用で表面張力などをコントロールし、薬剤の付着性を高めているのです※2。

このように、ひとえに「農薬」と言っても、実にさまざまな用途のものがあります。では、その中身、「構成」はどうなっているのでしょうか。

農薬の中身はほとんど

農薬の成分は大きく「原体」と、増量剤や補助剤、溶剤などの「補助成分」に分けられます。「原体」は「有効成分」とほぼ同義で、農薬の有効成分の工業製品のことを指します。

効きのいい農薬には原体(有効成分)がたくさん入っているのでは、と想像するかもしれません。しかし実際は、原体の含有量はごくわずかです。

農薬には、固形タイプと液体タイプ、そのまま使用するものと、水に希釈して散布するものがあります。そのうち、そのまま使う「粉剤」や「粒剤」(いずれも個体)などの有効成分の含有量は、ほとんどの場合0.1~数%です。

水和剤(個体)や乳剤(液体)などには数~数十%が含まれていますが、それらは1000倍程度に希釈したうえで使用されます。近年は、より少量で高活性な薬剤が開発され、使用量(有効成分の投下量)もどんどん減ってきています。

そして、極微量の有効成分の効果を効率よく発揮するために必要となるのが、製剤技術です。均一にむらなく散布したり、有効成分の分解を抑えたりする目的で、有効成分以外の補助成分が配合されています。つまり、農薬は散布時の薬液の状態においては、そのほとんどを補助成分が占めているのです。

ここまで「粉剤」「粒剤」「乳剤」「水和剤」など剤型の名前を挙げてきましたが、他にも農薬にはさまざまな剤型があります<sup>※3</sup>。ユニークな剤型の一例としては、水稲用除草剤の「ジャンボ剤」が挙げられます(下の画像1・画像2を参照)。これは、水溶性フィルムの袋のなかに薬剤が入っていて、水田の中でフィルムが崩壊すると徐々に薬剤が拡散していくのです。粉が舞うこともなく、投げ込むだけでよいので非常に省力的です。

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画像1 水稲用除草剤のジャンボ剤を投げ込む様子 提供:植調協会(https://japr.or.jp/josouzai/

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画像2 ジャンボ剤が水面で拡散する様子 提供:植調協会(https://japr.or.jp/josouzai/

1つの有効成分に対して、製品の剤型を作り分けることも珍しくなく、より使用シーンに適した形で最大限の効果が発揮されるよう設計されています。

また何より、使用者の安全や、環境への影響を最小限に留める観点からも製剤技術の果たす役割は大きいと言えます。

さて“安全”といっても、使用する人に対してなのか、環境に対してなのか、といった視点があります。そして私たちが食べる農作物における安全性が気になるところだと思います。次回は、農薬の安全性をテーマにお届けします。第3回もぜひお付き合いください。

【参照先】

※1 農薬の分類について

農薬の基礎知識(農林水産省)

https://www.maff.go.jp/j/nouyaku/n_tisiki/tisiki.html#kiso1_1

用途別の分類(農薬工業会)

https://www.jcpa.or.jp/qa/a4_01.html

※2 展着剤について

展着剤の役割と使い方(日本農薬)

https://www.nichino.co.jp/products/page_10009.html

ドローン散布で需要高まる「アジュバント」(花王)

https://www.kao.com/jp/kaonokao/dna/3_1/

※3 製剤や剤型について(農薬工業会)

https://www.jcpa.or.jp/qa/a4_03.html

https://www.jcpa.or.jp/qa/a4_04.html

堀川 晃菜(ほりかわ あきな)

科学コミュニケーター、サイエンスライター 1986年生まれ。東京工業大学大学院 生命理工学研究科修了。農薬メーカーに勤務後、日本科学未来館 科学コミュニケーターに。その後、Webメディアの編集・記者を経て、現在はフリーランス。著書に『バイオ技術者・研究者になるには』(ぺりかん社)がある。

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