【化学業界の基礎知識 -製品安全編-】連載がスタートします!

2021/06/17

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執筆:SCE・Net 中尾 眞

Chematelsの「化学業界の基礎知識」は、化学業界に入って間もない方や、興味を抱いている方、業務スキルをさらに高めたい方に向け、役に立つ基礎的な知識・情報をお届けする企画です。

前回までの「契約書類編」に続き、「製品安全編」の連載がスタートします。製品安全は、製品が機能を果たす上で、使用者に害が被らないようにするための重要な考え方や取り組みといえます。

連載に先立ち、今回は、製品安全のあらましなどを紹介します。

製品安全に基づいた製造・販売・使用が必要

化学製品には、優れた作用がある反面、毒性や可燃性があります。また、一部の化学品は環境へ放出されると分解されにくく、長期にわたり健康を害する性質を持つものがあります。さらに、新規に合成された物質は、健康や生態系への影響が不明確な場合もあります。

従って、化学製品を製造・販売・使用する場合には、物質の特性を把握するとともに、さまざまな欠点や不安要素を十分に考慮して、取り扱いに注意する必要があります。

このような背景から、さまざまな製品安全に関わる法令・制度が生まれています。これらを忠実に守ることが求められています。

安全とは「許容できないリスクがないこと」

製品安全を考えていく上で、まず安全とはどのようなものか考えてみます。

国際標準化機構(ISO:International Organization for Standardization)の国際基本安全規格(ISO/IEC GUIDE 51:2014)では、安全とは「許容できないリスクがないこと」と定義しています。

安全というとまったく危険な状態がない「絶対安全」を思い浮かべる人が多いかもしれませんが、国際安全規格の定義では、許容できないリスクがない状態、すなわち“リスクを許容できるまで低減させた状態”を「安全」としているということに注意してください。

ここでは、リスクは「危害の発生確率と危害のひどさの組み合わせ」と定義されており、危害の程度は人体の受ける物理的障害もしくは健康障害と考えられています。この考え方の背景には、利便性のあるものには必ず危険性が潜んでおり、危険性の程度が問題であるということが基本になっています。

安全に関する意識は国により違う

あらゆることがグローバルに展開する現代において、安全に対する意識も国によって違うということを受け入れることが重要です。表に日本と欧米での安全に対する考え方の違いをまとめました。

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表1 日本と欧米での安全に対する考え方の違い<br>(出所:向殿政男監修、安全技術応用研究会編(2000):国際化時代の機械システム安全技術、日刊工業新聞社)

日本人の意識には、危険なものは存在せず、何をやっても危険にはならない、いわゆる「絶対安全」という考え方を信じる傾向があります。そういった意識がベースにありますので、「安全といわれていたシステム」で事故が発生すると、「安全神話崩壊」などとマスメディアがかき立てるような事態になってしまうわけです。

一方、欧米では「絶対安全」は存在せず、「危険性の程度」が問題であると考えられてきました。従って、安全といっても事故は起こり得ると考えており、安全とは“危険性はあっても、事故の起こる可能性が低いレベルに抑えられている”と考えられてきました。この欧米の考え方はそのまま、上記であげた「国際基本安全規格」の考え方に通じています。

製品安全と社会の関係を考える

この連載「化学業界の基礎知識 -製品安全編-」では、次回から製品安全として以下の9つの項目を取り上げていきます。それぞれの項目がどのようなつながりがあるか、図にまとめました。

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図1 製品安全と社会の関わり

われわれの社会は、製造に関わる生産者、販売・施工などに関わる中間者、製品を使用する消費者、これを取り巻く環境から構成されています。製品安全はこれら全てにつながりを持っています。

「安全データシート」(SDS:Safety Data Sheet)は主に製品製造の段階で事業者間での物品取引の際に必要なものですが、中間事業者にも関係します。

「化学品の分類および表示に関する世界調和システム」(GHS:The Globally Harmonized System of classification and labelling of chemicals)は、製品製造から最終消費者の過程において、物質の危険性をわかりやすく表示したものです。

「CAS登録番号」は物質を特定できる表示方法です。直接的には安全に関係していませんが、物質が登録されたものであるということが製品安全性を担保しています。

「危険物」や「毒劇物」は法令用語ですが、これらに指定された物質は危険性が高いので、法律で取り扱いが厳しく定められています。

医薬品については一般の法令とは別に、特別の取り扱いがなされています。「日本薬局方」は、薬品の処方や試験方法について定めたものです。また「医薬品の製造管理及び品質管理の基準」(GMP:Good Manufacturing Practice)は、薬品の製造装置や製造工程を定めたものです。

さらに、「製造物責任(PL:Product Liability)法」は、消費者が欠陥のある製品を使うことで不利益が起こらないように消費者を保護する法律です。

環境保護の観点からは、「環境汚染物質排出・移動登録」(PRTR:Pollutant Release and Transfer Register)が、特定の化学品について製造から消費の段階で環境に排出される物質量を把握するために、法律で制定されています。

次回以降では、これらの項目それぞれについて、要点、制定に至る経緯、記載事項などを詳しく紹介していきます。ぜひ、みなさんの業務の参考にしていただければと思います。

次回からいよいよ連載スタート。第1回のテーマは「安全データシート」(SDS)です。

中尾 眞(Makoto Nakao)/ SCE・Net

1948年生まれ。東京大学大学院化学工学修了。旭硝子(株)にて研究開発部、化学品営業部などに在籍し、イオン交換膜法食塩電解技術関連の開発・営業およびPEM燃料電池開発に従事。2006年より(公社)化学工学会SCE・Netの活動に参加し、現在代表幹事を務める。

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