グリーン溶媒の将来は…「製造」と「利用」両面の進歩が鍵【要チェック!環境配慮型溶媒の最前線 第8回】

2025/05/15
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Chematels連載「要チェック! 環境配慮型溶媒の最前線」はいよいよ最終回。これまで7回にわたり、グリーン溶媒が求められる社会背景、溶媒の分類、特長、有機合成における使用例などを紹介してきました。最終回は、これまで紹介したグリーン溶媒をおさらいするとともに、今後の利用が期待される生物起源の溶媒を紹介します。最後にグリーン溶媒の発展性や普及に向けた課題について考えます。有機合成化学などを専門とする大阪工業大学の小林正治准教授が解説します。

目次

注目の溶媒を「グリーン溶媒12基準」に当てはめてみる

最終回のはじめに、おさらいとして、第1回「これからの溶剤利用に欠かせないグリーンケミストリーの原則」で紹介した「グリーン溶媒12の基準」に、これまで紹介してきた2-メチルテトラヒドロフラン(2-MeTHF)シクロペンチルメチルエーテル(CPME)4-メチルテトラヒドロピラン(4-MeTHP)シレンを当てはめてみます(図1)。公開されている情報と著者独自の使用感から定性的に評価したため、絶対的な評価ではないことに留意してください。

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図1:グリーン溶媒12基準に沿った適合性評価

エーテル系溶媒である2-MeTHF、CPME、4-MeTHPは、いずれも消防法で「第4類・第一石油類・非水溶性液体」に分類される有機溶媒であるため、難燃性の項目が「×」となるのはやむを得ませんが、総じてグリーン基準に合致した溶媒と見なすことができます。CPMEと4-MeTHPは石油化学製品ですが、リサイクルすることが一般的になれば、化石燃料の持続化や環境負荷低減につながります。なお、2-MeTHFはバイオマスから変換できるレブリン酸やフルフラールから合成できますが、商業用の溶剤が生物源から供給されているかは分かりません。

一方、非プロトン性極性溶媒であるシレンは、消防法で「第4類・第三石油類・非水溶性液体」に分類され、エーテル類に比べて引火性が低く、安全性が高いといえます。分類上は非水溶性液体ですが、水1 Lに対して約53 gとかなり溶解し、高沸点でもあるため、リサイクルは難しいと思われます。その反面、良好な生分解性と低毒性から、今後の利用拡大が期待されます。

基準の12番目にある「再生可能な原料からつくられる」は、カーボンニュートラルに沿った重要な考え方ですが、実際にバイオマスなどの再生可能原料から高純度品を大量供給するには、超えなければならない多くのハードルがあります。シレンがわずか2工程で合成できるものの高価格であるのは、従来溶媒の価格に見合った供給方法が確立されていないためと考えられます。

現状では、即座に生物資源に転換するのではなく、石油化学への依存を徐々に削減しながら、再生可能な原料を有効利用する研究を推し進めることが大切です。

多様な生物起源から供給―アルコール類とエステル類

ではここで、今後の発展性が期待される、再生可能原料からつくられる溶媒をいくつか紹介します。

アルコール類とエステル類にはすでに推奨溶媒がありますが、バイオマスから直接得られるものとしてn-ブタノール、i-ブタノール、i-アミルアルコールおよびそれらから容易に誘導できるエステル類が挙げられます(図2)。

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図2:生物起源のアルコール類およびエステル類

コハク酸ジエチルについては、近年、原料となるコハク酸をバイオマス糖質資源から発酵法で生産する技術が開発され、それに応じてエステル類も従来の石油化学品から生物由来の生産に置き換わっていく可能性があります。また、油脂や植物油の加水分解物であるグリセロール、木材のリグニン-セルロースから得られるレブリン酸からつくられるγ-バレロラクトン(GVL:γ-Valerolactone)なども新規グリーン溶媒として注目されています。

ただし、グリセロールやGVLは高沸点なため、反応溶媒として使用した後のリサイクルはあまり期待できません。また、反応溶媒として大事な点になりますが、アルコール類とエステル類にはそれぞれ反応性の高いヒドロキシ基とカルボキシ基があるため、それらの官能基が目的の反応を阻害するときには使用できません。

柑橘類や松脂から製造―炭化水素類

炭化水素は基本的に反応不活性で、水とも相分離することから回収・リサイクルしやすい溶媒です。実験室ではヘキサンやシクロヘキサンが扱いやすく、極性分子を溶かしにくい性質から、反応よりも抽出・精製によく用いられています。現在利用される炭化水素溶媒はすべて石油原料であり、今後、資源が枯渇していった際、いまのように使えるかどうかは懸念事項です。

生物起源の炭化水素として、柑橘系植物から得られるD-リモネン、松脂から得られα-ピネンを主成分とするテレビン油、また、リモネンから誘導されるp-シメンなどがあり、これらは比較的安価に販売されています(図3)。

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図3:生物起源の炭化水素類

これらの植物起源の溶媒は、石油由来の炭化水素に比べて引火点が高く、安全性が増していますが、いずれも沸点が高く、使用後に除去するには多くのエネルギーが必要になります。反応や精製のための溶媒として考えると、既存の石油由来炭化水素の代替にはなりません。商業的に成立しないかもしれませんが、生物源の原料から低沸点炭化水素溶媒を効率的につくる技術の開発に興味が持たれます。

グリーン溶媒の開発進む―エーテル類

エーテル類のうち2-MeTHFは生物原料からつくられる溶媒でしたが、その他には、バイオエタノール(とイソブテン)からつくられるt-ブチルエチルエーテル(TBEE:tert-Butyl ethyl ether)があります(図4)。

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図4:近年開発されたエーテル系グリーン溶媒

TBEEは、引火点の低いt-ブチルメチルエーテル(TBME:tert-Butyl methyl ether)の代替としてガソリン添加剤にもなっていますが、現状では非常に高価で、汎用溶媒にはなっていません。

生物起源ではありませんが、その他のエーテル系グリーン溶媒として、t-アミルメチルエーテル(TAME:tert-Amyl methyl ether)や2,2,5,5-テトラメチルオキソラン(TMO:2,2,5,5-Tetramethyloxolane)なども開発されています。

TAMEは生分解性が良く、欧州のコンソーシアムCHEM21の初期評価で推奨溶媒に分類される有望株ですが、やはり非常に高価で、現状では反応溶媒に適しません。

TMOも現状では非常に高価で、溶媒としての使用は実験室に限られていますが、興味深いのは、同じ環状エーテルであるテトラヒドロフラン(THF:Tetrahydrofuran)よりも、低極性なトルエンに性質が似ていることです。自動酸化の起点となる2位がすべてメチル基で置換され、活性ラジカル種に対する安定性が増すと同時に脂溶性も増大しています。ごく最近の研究では、ミリグラム規模ながら、グルコースから5-ヒドロキシメチルフルフラール(5-HMF:5-Hydroxymethylfurfural)をマイクロ波条件下で合成する際の最適溶媒に選ばれています。

「非汎用」が「汎用」になる未来を見据えて

図5に、CHEM21がまとめた今後の利用が期待される非汎用21溶媒のグリーン度評価を示しました。

この表だけで論じることはできませんが、溶剤の「製造面」、つまり再生可能原料の利用、原子効率向上、工程数削減、低コスト化、省エネルギー生産、大量供給の実現などと、「利用面」、つまり溶媒としての利点の創出、適用例の拡大、安定性や安全性の評価、リサイクル方法の確立、用途拡大などの両面で相乗的に研究が進めば、将来的にこれらの溶媒が汎用溶媒として利用されるかもしれません。もちろん、この表にはない新たな溶媒の開発も期待されます。

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図5:溶媒のグリーン度に基づく分類(非汎用21溶媒)
⁠(出所:文献1を参考に作成)

普及のためには、これらの溶媒をより一般的なものにして、世界中の多くの研究者や技術者が使えるようにしなければなりません。そのためには、有害性やリスク評価に関する十分なデータを収集し、国内の消防法、化審法、安衛法などの法規制はもとより、欧州のREACH(Registration, Evaluation, Authorisation and Restriction of Chemicals)規制やCLP規制(Regulation on Classification, Labelling and Packaging of substances and mixtures)、米国の有害物質規制法(TSCA:Toxic Substances Control Act)、中国の新規化学物質環境管理登記弁法などといった各国それぞれの規制・規則に対応することが必要です。

これらを踏まえると、ひとつの溶媒の普及には多大な労力と年月が必要とわかります。開発に関わる多くの人々の地道な努力と熱意によって新しい溶媒が誕生し、地球環境保全と協調した化学産業基盤がつくられていくといえるでしょう。

全8回に渡って、製造で利用される溶媒についてまとめました。特に原薬の製造を念頭に、低分子有機合成で使える反応溶媒として、既存溶媒の問題点や代替候補について考えました。時代の変遷とともに「ものづくり」の方法もだんだん変わってきましたが、依然として溶媒は欠かすことのできない媒体です。各分野で溶媒を選択する際に、本稿が参考資料になれば幸いです。

「要チェック!環境配慮型溶媒の最前線」は今回で終了です。ご愛読ありがとうございました。

参考文献

  1. D. Prat, A. Wells, J. Hayler, H. Sneddon, C. R. McElroy, S. Abou-Shehada, P. J. Dunn, Green Chem. 2016, 18, 288–296.
  2. S. Sangon, N. Supanchaiyamat, J. Sherwood, D. J. Macquarrie, A. J. Hunt, ACS Sustain. Chem. Eng. 2024, 12, 7663–7667.

小林 正治(こばやししょうじ)

大阪工業大学工学部応用化学科准教授 1998年、東レ(医薬研究所)。2003年3月、東北大学大学院理学研究科化学専攻博士課程後期課程修了。博士(理学)。日本学術振興会特別研究員、東北大学大学院理学研究科化学専攻助手、大阪府立大学大学院理学系研究科分子科学専攻助手、同助教を経て、2010年より大阪工業大学へ。工学部応用化学科講師を経て、2015年より現職。2018年には、英国リンカーン大学にてリサーチフェローをつとめる。主な専門分野は、天然物化学、有機合成化学、環境有機化学。

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