これからの溶剤利用に欠かせないグリーンケミストリーの原則【要チェック!環境配慮型溶媒の最前線 第1回】

2024/11/26
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Chematelsの新たな連載「要チェック!環境配慮型溶媒の最前線」をお届けします。地球環境の保全が世界の課題となるなか、世の中で幅広く利用されてきた有機溶媒にも環境配慮の目が向けられるようになりました。そこで、環境配慮型有機溶媒をめぐる現状を、有機合成化学などを専門とする大阪工業大学の小林正治准教授が解説します。第1回は、社会背景や、基本となる原則・基準などを紹介します。

目次

「グリーンケミストリー」の考えが登場

2015年9月に開催された国連総会において、持続可能な開発目標(SDGs: Sustainable Development Goals)*1が全会一致で承認されました。いまでは世の中のあらゆる産業、あらゆる場面でSDGsに沿った取り組みがなされています。化学産業をはじめとする「ものづくり」の現場においては、生産性や品質の向上といった「ものづくり」の根幹をなす課題の解決に加え、原料の選択から廃棄物に至るまで、製造プロセス全体を通した環境負荷低減が求められています。

地球環境に優しい化学、いわゆる「グリーンケミストリー」に沿った考え方が登場したのは、公害や資源枯渇が顕在化してきた20世紀中盤から後半にかけてのことです。1992年の国連環境開発会議で採択された「アジェンダ21」*2によって、公害や資源枯渇をもたらす持続不可能な経済モデルから、環境資源を保護かつ更新させる経済活動に積極転換する方針が示されました。米国環境保護庁は、化学物質による環境汚染の対策として「グリーンケミストリー」の概念を公に提案し、環境保護や健康リスクの低減につながる12の具体的指針を示しました(図1)。

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図1:グリーンケミストリー12原則
⁠(出所:文献1に沿って意訳)

溶剤の産業別用途、半分近くが「塗料・塗装」

一般に産業で使われる化学物質は、「原材料」、「反応剤」、そしてそれらを溶かすための「溶媒・溶剤*3」です。原薬の製造に使われる物質重量を調べたデータでは、実に総重量の56%を溶媒が占めています(図2)。

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図2:原薬の製造で使用される物質の重量割合
⁠(出所:文献2を参考に作成)

図3は、溶剤が使われる部門を示したデータですが、最も使用されているのは最終製品にも配合される塗料・塗装の分野であり、製造過程での利用が多い医薬分野は第2位です。塗料や接着剤などでは、最終製品に配合された溶剤そのものが利用されますが、医薬有効成分や高分子などでは、溶剤は合成反応や精製時に補助的に使われ、利用後は一般に廃棄されることになります。

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図3:溶剤の産業別使用割合
⁠(出所:文献3を参考に作成)

大量供給可能、従来品と同等価格など、グリーン溶媒の基準も

図1に示したグリーンケミストリー12原則の1、 3、 5、 6、 10、 12は溶媒の設計や選択にも関わることです。このグリーンケミストリーの原則に沿って、グリーン溶媒の12の基準が、研究者により提案されています(図4)。

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図4:グリーン溶媒12基準
⁠(出所:文献4,5に沿って意訳)

すべての基準を満たす溶媒はありませんが、できるだけこの基準に合致した溶媒を使用することが、将来的に環境問題の解決につながると考えられます。

もちろん、製造過程で使用する溶媒そのものを削減する研究も活発に行われています。水中での有機化学反応、高性能触媒の開発、イオン液体の利用、超臨界流体二酸化炭素の使用、同一反応釜での連続反応、マイクロリアクターによるフロー合成、固体同士のメカノケミカル合成などによって、素反応、媒体、実施手順、装置面の革新などから有機溶媒の使用を減らす取り組みがなされています。

しかし、いずれの技術も広範な化学反応すべてに適用できるものではなく、「ものづくり」には依然として溶媒が必要です。環境適応型の溶媒の重要度は益々高まっているといえます。

次回は、実際の有機合成に使用されている溶媒にはどのようなものがあるか、溶媒の環境適合分類や性質を紹介します。

脚注

注釈

*1:持続可能な開発目標(SDGs: Sustainable Development Goals)
・国連総会において全会一致で採択された「我々の世界を変革する持続可能な開発のための2030アジェンダ」という文書の一部。次の日本ユニセフ協会のウェブサイトで、SDGsの前文・宣言を読むことができます。
https://www.unicef.or.jp/kodomo/sdgs/preamble/

*2: 「アジェンダ21」
⁠・持続可能な開発(Sustainable Development)のあらゆる領域におけるグローバルな行動のための包括的な計画と説明されます。https://www.unic.or.jp/activities/economic_social_development/sustainable_development/summit_and_other_meetings/

*3:溶媒・溶剤
⁠・溶液において、溶質を溶かしている成分。この連載では、学術的に、あるいは溶質を溶かすという意味合いで表す場合に「溶媒」を、一般に工業製品として表す場合に「溶剤」を用います。

参考文献

  1. P. Anastas, N. Eghbali, Chem. Soc. Rev. 2010, 39, 301–312.
  2. R. K. Henderson, C. Jiménez-González, D. J. C. Constable, S. R. Alston, G. G. A. Inglis, G. Fisher, J. Sherwood, S. P. Binks, A. D.Curzons, Green Chem. 2011, 13, 854–862.
  3. J. Clark, T. Farmer, A. Hunt, J. Sherwood, Int. J. Mol. Sci. 2015, 16, 17101–17159.
  4. Y. Gu, F. Jérôme, Chem. Soc. Rev. 2013, 42, 9550–9521.
  5. F. G. Calvo-Flores, M. J. Monteagudo-Arrebola, J. A. Dobado, J. Isac-García, Top. Curr. Chem.2018, 376, 1–40.

小林 正治(こばやししょうじ)

大阪工業大学工学部応用化学科准教授 1998年、東レ(医薬研究所)。2003年3月、東北大学大学院理学研究科化学専攻博士課程後期課程修了。博士(理学)。日本学術振興会特別研究員、東北大学大学院理学研究科化学専攻助手、大阪府立大学大学院理学系研究科分子科学専攻助手、同助教を経て、2010年より大阪工業大学へ。工学部応用化学科講師を経て、2015年より現職。2018年には、英国リンカーン大学にてリサーチフェローをつとめる。主な専門分野は、天然物化学、有機合成化学、環境有機化学。

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