水に低溶解! バイオマスから製造可能! 2-MeTHF【要チェック!環境配慮型溶媒の最前線 第3回】

2025/01/21
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Chematelsの連載「要チェック!環境配慮型溶媒の最前線」をお届けしています。いよいよ環境配慮型溶媒の話題に突入。今回は、2-メチルテトラヒドロフラン(2-MeTHF)を紹介します。回収・再使用の妨げとなる水との混和性を格段に低くし、バイオマスから製造することもできる溶媒です。有機合成化学などを専門とする大阪工業大学の小林正治准教授が解説します。

目次

従来のエーテル系溶媒に水への混入性や引火性などの問題が

第2回「『非推奨』でも『相性』で使われている現状」でお話ししたように、一般にエーテル系溶剤は有機化合物をよく溶かし、化学的にも安定であるため、有機合成によく使われます。

特に、テトラヒドロフラン(THF:Tetrahydrofuran)は、炭素原子同士の結合形成に有用な有機金属反応の溶媒として適しているため、実験室規模の有機合成では必須の溶媒です。さまざまな有機分子や反応剤を溶かし、一言でいえば「使いやすい」溶媒ですが、一方で、優れた溶解性は問題点にもなります。

THFには、水とも混和性があるため、反応後の処理で廃水層に混入してしまい、回収・再使用できないという問題点があります。

水と混和しないジエチルエーテル(Et2O:Diethyl Ether)やイソプロピルエーテル(i-Pr2O:Isopropyl Ether)なども実験室では使われますが、前者は特殊引火物のため産業用途には不適当であり、後者も引火点が−28°Cと低く、安全上の懸念があります。

これら古典的なエーテル系溶媒とその主な問題点を図1にまとめました。

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図1:古典的なエーテル系溶媒と主な問題点

水との混和性が低い2-MeTHFがTHFの代替溶媒に

「推奨」「問題」「有害」「極めて有害」で表される溶媒のグリーン度による分類で、大半のエーテル系溶剤は「問題」または「有害」に分類されています。ただし、使用後に効率的にリサイクルできれば、「廃棄」や「環境」の問題は軽減されます。比較的低毒性で、水と混和せず、安定で、多くの反応に利用でき、かつ少ないエネルギーで回収できるエーテル系溶剤は、生産性の向上と環境負荷低減の両方に貢献すると考えられます。

現在、THFの代替として工業的に最も利用されているのが、2-メチルテトラヒドロフラン(2-MeTHF:2-Methyltetrahydrofuran)です。THFと比較した主な物性データを図2に示します。

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図2:2-MeTHFと THFの主な物性値の比較。Log Powは、「オクタノール/水分配係数」とも呼ばれ、値が大きいほど油脂に溶けやすく水に溶けにくいことを表す
⁠(出所:文献3を参考に作成)

2-MeTHFのTHFとの最も際立った違いが、水との混和性の低さです。構造上はTHFの水素原子1個がメチル基に置き換わっただけですが、これにより水への溶解性は劇的に下がり、水と相分離するようになります。つまり、反応に使用した溶媒がそのまま抽出溶媒としても活用できることになります。また、この相分離する性質によって、水と混じり合うTHFよりも酸性水溶液に対する安定性が向上します。

2-MeTHFの沸点はTHFより少し高いものの、気化熱はTHFより小さく、溶媒除去に要するエネルギーが大きくなる心配はさほどありません。反応溶媒としての性質はTHFに近く、代表的な有機金属試薬であるグリニャール試薬の溶解性はTHFより優れているという報告もあります。

現状では、2-MeTHFは、原薬の生産で使えるTHF代替溶剤の最有力候補として位置づけられています。

バイオマスからも製造可能

もう一点、2-MeTHFには注目できる特長があります。第1回「これからの溶剤利用に欠かせないグリーンケミストリーの原則」で「グリーン溶媒12基準」を紹介しましたが、基準の12番目に、「再生可能な原料から得られる」があります。

2-MeTHFは、バイオマスから生産されるレブリン酸やフルフラールから製造できるため(図3)、供給量の課題はありますが、石油化学への依存を軽減できる溶媒といえます。

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図3:2-MeTHFの製法例(レブリン酸からの誘導)
⁠(出所:文献1を参考に作成)

過酸化物を生じやすいなどの短所もあるが…

一方で、2-MeTHFには次のような短所もあります。

  1. 溶媒の価格が他の汎用溶媒に比べて高めである
  2. 水と相分離するが、溶媒100 gあたりの水の溶解度が4 gと比較的大きく、乾燥された高純度の溶媒を高効率で回収するには検討が必要と思われる
  3. 自動酸化が起こりやすく、過酸化物を生成しやすい

特に3の自動酸化はエーテル溶剤に共通する化学特性であり、一般に市販のエーテル溶剤には、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT:Dibutylhydroxytoluene)が酸化防止剤・安定剤として添加されています。反応で使用する場合、前もって溶媒を蒸留してBHTを取り除くか、反応後に生成物からBHTを分離するか、何らかの処理が必要になることがあります。

エーテル溶剤のなかでもTHFや2-MeTHFなどの5員環エーテルは過酸化物を生成しやすい傾向があるのです。過酸化物は、溶媒の酸素原子の隣に生じた炭素ラジカルが溶存酸素と反応することで生成しますが、この過酸化物からさらにさまざまな分解物が生じることが解明されています(図4)。原薬の製造など、より厳密な不純物分析が求められる現場では、このような分解物が混入する可能性を念頭に置いておく必要があります。

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図4:2-MeTHFの起こりうる分解経路と分解生成物

いくつかの懸念事項はありますが、総合的に2-MeTHFはTHFの短所を補う環境適合型の溶媒といえます。2-MeTHFの特長を生かした具体的な反応例は第6回に紹介します。

次回も、注目に値する環境配慮型の溶媒を紹介する予定です。

参考文献

  1. V. Pace, P. Hoyos, L. Castoldi, P. Domínguez de María, A. R. Alcántara, ChemSusChem 2012, 5, 1369–1379.
  2. S. Monticelli, L. Castoldi, I. Murgia, R. Senatore, E. Mazzeo, J. Wackerlig, E. Urban, T. Langer, V. Pace, Monatsh. Chem. 2017, 148, 37–48.
  3. D. F. Aycock, Org. Process Res. Dev. 2007, 11, 156–159.
  4. R. Aul, B. Comanita, Manufact. Chem. 2007, 78, 33–34.
  5. S. Kobayashi, T. Tamura, S. Yoshimoto, T. Kawakami, A. Masuyama, Chem. Asian J. 2019, 14, 3921–3937.

小林 正治(こばやししょうじ)

大阪工業大学工学部応用化学科准教授 1998年、東レ(医薬研究所)。2003年3月、東北大学大学院理学研究科化学専攻博士課程後期課程修了。博士(理学)。日本学術振興会特別研究員、東北大学大学院理学研究科化学専攻助手、大阪府立大学大学院理学系研究科分子科学専攻助手、同助教を経て、2010年より大阪工業大学へ。工学部応用化学科講師を経て、2015年より現職。2018年には、英国リンカーン大学にてリサーチフェローをつとめる。主な専門分野は、天然物化学、有機合成化学、環境有機化学。

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