リサイクル向き! 疎水性、蒸留回収もできる CPME【要チェック!環境配慮型溶媒の最前線 第4回】

2025/02/12
Image

Chematelsの連載「要チェック! 環境配慮型溶媒の最前線」をお届けしています。今回、環境配慮型溶媒として紹介するのは、シクロペンチルメチルエーテル(CPME)です。疎水性に優れるとともに蒸留しやすく、リサイクルに適した溶媒といえます。有機合成化学などを専門とする大阪工業大学の小林正治准教授が解説します。

目次

2-MeTHFの短所を払拭した溶媒CPME

前回の「水に低溶解! バイオマスから製造可能! 2-MeTHF」では、テトラヒドロフラン(THF:Tetrahydrofuran)の代替となる環境配慮型溶媒として、2-メチルテトラヒドロフラン(2-MeTHF:2-Methyltetrahydrofuran)を紹介しました。大変優れた溶媒ですが、あえて短所を指摘するなら、価格の高いこと、水への微溶解性があること、自動酸化されやすいことの3点が挙げられます。

これら欠点を払拭した溶媒が2000年代初頭、日本ゼオンから発表されました。「シクロペンチルメチルエーテル」(CPME:Cyclopentyl Methyl Ether)です。

水に溶けづらい、蒸留回収できるなどリサイクルに至適

CPMEは、構造上はジエチルエーテル(Et2O:Diethyl Ether)やt-ブチルメチルエーテル(TBME:tert-Butyl Methyl Ether)と同じ鎖状エーテルに分類できます。図1にこれらの溶媒との比較データを示しますが、溶解度データから分かるように、水溶性がほとんどないのが特長です。

Image

図1:CPMEと他の鎖状エーテル溶剤の主な物性値の比較
⁠(出所:文献1のデータを元に作成)

表中の「Log Pow」は、オクタノールと水の二相の溶媒相中に物質を混ぜて平衡状態となったときの、各相に存在する物質の濃度比を対数値で表したもので、値が大きいほど疎水性が高いことを意味します。第3回の図2で紹介した2-MeTHF の0.77というLog Powと比較すると、CPMEのLog Powは1.59であり、疎水性がさらに高まっているとがわかります。これは、炭化水素であるシクロペンタン環があることに起因します。

また、CPMEの沸点は106°Cであり、使用後に蒸留して取り除くにはやや高めと思われますが、気化熱は小さく、少ないエネルギーで蒸留回収できるのは利点です。

このような疎水性の高さや蒸留しやすさを兼ね備えたCPMEでは、使用後にリサイクルすることが現実的に可能です(図2)。実際にラジカル反応や有機金属反応の溶媒として使用したCPMEを回収・再利用した実験例も報告されており、経費や環境リスクの削減につながると期待されます。

Image

図2:有機合成における溶媒リサイクルのイメージ

自動酸化が起こりにくいという特長も

CPMEの自動酸化の起こりにくさについて、THF、i-Pr2O、TBMEと比較したデータがあります。空気下、室温、暗所保存において30日経過後、THFとi-Pr2Oの過酸化物価(POV:peroxide value)はそれぞれ約300 ppmと約650 ppmであったのに対し、TBMEそれにCPMEにおいては過酸化物がほとんど生成しませんでした。

TBMEが安定であるのは、酸素に結合する炭素のうちの一つが四置換*1で、本質的に炭素原子間の解裂が起こりにくいことによります(図3)。これに対し、CPMEは解裂しうる炭素−水素(C-H)結合を持つにも関わらず、炭素ラジカルを生成しにくいことは注目に値します。同様の部分構造をもつi-Pr2Oのラジカルが生じやすいこととは対照的な結果といえます。計算化学によって、i-Pr2OラジカルよりCPMEラジカルのほうが歪みが大きく不安定であると示されており、このことが、過酸化物ができにくい要因と考えられます。

Image

図3:溶媒の自動酸化の起こりやすさ・起こりにくさ

少ない工程で、効率よく製造できる

引火点が−1°Cであり、他のエーテル溶剤より火災リスクが低いこともCPMEの利点です。また、酸やアルカリに対する安定性も優れており、実際にCPMEを溶媒とする4M塩化水素溶液*2が販売されています。

石油化学製品であることは短所になりますが、シクロペンタノールまたはシクロペンテンから1工程で合成できるのは実用的です(図4)。特に、陽イオン交換樹脂を用いてシクロペンテンとメタノールから作る製法は、反応式上の副生成物がなく、原子効率に優れています。日本での販売価格は従来溶媒の価格と同程度であり、利用者にとって試しやすい溶媒といえます。

Image

図4:CPMEの製法

欠点も…有機金属試薬の溶解性では他の溶媒に劣る

さまざまな利点をもつCPMEですが、欠点がないわけではありません。基本的に酸や酸素に対して安定ですが、強酸やラジカル反応剤を積極的に作用させると微分解が起こります(図5)。反応溶媒や抽出溶媒として再利用するには問題ないレベルと思いますが、このような分解の可能性があることは気に留めておく必要があります。

Image

図5:CPMEの酸およびラジカル条件による微分解

また、有機金属試薬の溶解性も、THFや2-MeTHFと比較すると劣る傾向があります。図6の上段は、3-ブロモアニソールから調製したグリニャール試薬の写真ですが、THFや2-MeTHFでは全体に均一溶液となるのに対し、CPMEでは黒色の沈殿物が生じ、二相に分かれています。滴定の結果、CPMEでもグリニャール試薬が生成していることは確実ですが、高濃度溶液の調製は難しいと思われます。下段①のように、均一なグリニャール試薬が得られることもありますが、特に塩化物では、②〜④のような不均一溶液を与える傾向があります。

Image

図6:CPMEを溶媒とするグリニャール試薬と他の溶媒との比較

このようなCPMEの特性を理解した上で、リサイクル可能な有機溶媒として、適切な場面で利用を検討するのがよいでしょう。第6回で、CPMEの特長を生かした反応例を紹介します。

次回は第5回。注目度の高い環境配慮型溶媒をもう一つ、紹介する予定です。

注釈

*1:四置換
⁠炭素原子が、水素原子以外の四つの原子と結合していること。

*2:4M塩化水素溶液
⁠濃度4mol/dm3の塩化水素が溶けている液体。Mはmol/dm3の略記で「モーラー」と読みます。

参考文献

  1. K. Watanabe, N. Yamagiwa, Y. Torisawa, Org. Process Res. Dev. 2007, 11, 251–258.
  2. S. Kobayashi, H. Kuroda, Y. Ohtsuka, T. Kashihara, A. Masuyama, K. Watanabe, Tetrahedron 2013, 69, 2251–2259.
  3. S. Kobayashi, K. Shibukawa, Y. Miyaguchi, A. Masuyama, Asian J. Org. Chem. 2016, 5, 636–645.
  4. H. Hoshino, K. Sakakibara, K. Watanabe, Chem. Lett. 2008, 37, 774–775.

小林 正治(こばやししょうじ)

大阪工業大学工学部応用化学科准教授 1998年、東レ(医薬研究所)。2003年3月、東北大学大学院理学研究科化学専攻博士課程後期課程修了。博士(理学)。日本学術振興会特別研究員、東北大学大学院理学研究科化学専攻助手、大阪府立大学大学院理学系研究科分子科学専攻助手、同助教を経て、2010年より大阪工業大学へ。工学部応用化学科講師を経て、2015年より現職。2018年には、英国リンカーン大学にてリサーチフェローをつとめる。主な専門分野は、天然物化学、有機合成化学、環境有機化学。

関連する特集