ソーダ灰―高騰の背後に中国の需給事情【高騰する化学品、その推移と要因 第6回】
2023/08/01
連載の目次
本連載で扱う項目
Chematelsの連載「高騰する化学品、その推移と要因」。最終回となる今回はソーダ灰を中心に解説します。ソーダ灰とほぼ同じ状況を示しているクエン酸についても取り上げます。なお、この記事での「ソーダ灰」は、財務省「貿易統計」(別称「通関統計」)での品目を対象としています。
ガラスの原料、アジアでは中国・インドで生産集中
ソーダ灰は、炭酸ナトリウム、また炭酸ソーダとも呼ばれ、ガラスなどの原料用途を中心として長期にわたり使われてきた主要基礎無機化学品です。19世紀にベルギーの化学者エルネスト・ソルベイによって発明されました。ソルベイによる生産法は、原料に石灰石(炭酸カルシウム)、アンモニア、食塩(塩化ナトリウム)、水を用いるもので「アンモニアソーダ法」と呼ばれます。同氏が設立したベルギーのソルベイ社は、現在も世界最大のソーダ灰メーカーです。
世界の市場規模は、2019年の生産能力ベースで6200万トンといわれています。日本での生産メーカーは現在トクヤマ1社のみで、経済産業省の生産量統計資料も2014年までしかありません。それまで30万トン以上消費されていると報告されていました。
トクヤマ以外の国内メーカーが生産停止した2015年から数年は、年間10万トン前後が輸入されていました。最近の数年では、年間3万トン前後のソーダ灰がほぼ全量、中国から輸入されています。
ソーダ灰は現在、世界的に主にアンモニアソーダ法でつくられています。しかしながら、製造のためのエネルギー消費が大きい点と環境対応コストが上がっている点から、アジア地域では、中国・インドへの生産集中が進んでいます。
2021年以降の高値、カギ握る中国の状況・政策

図1:ソーダ灰CIF価格の推移。CIF(Cost Insurance and Freight)は運賃保険料込み条件のこと
(出所:財務省貿易統計の統計品別表)
ソーダ灰の価格上昇は2021年に顕著となり、その後2022年にかけて高止まりしました。中国における太陽光発電用ガラスの生産拡大が、その製造主原料であるソーダ灰の価格上昇につながったと分析されています。
市場情報によれば、2020年の中国の太陽電池ガラスメーカーのガラス生産量は約1020万トンであり、ソーダ灰関連需要は約150万トンといわれています。今後、2023年までに310万トン、2025年までに500万トン以上に拡大する可能性があるといわれています。
また、中国で2021年から始まった環境規制の強化政策の推進もコスト上昇要因の一つです。さらに2022年2月のロシアのウクライナ侵攻と関連した原燃料価格の高騰が加わり、2021年初頭以降、高値が続いています。2022年後半には従来価格レベルの3倍近くに達したものと考えられます。
2023年に入って、ソーダ灰の輸入価格はかなり落ち着きを取り戻しています。これが、どのレベルに落ち着くのかは中国の状況・政策次第ですので、今後も注視が必要と思われます。
クエン酸高騰、中国のドル高、政策転換、コロナなどが要因
ソーダ灰とほぼ同じ状況を示した製品に、クエン酸があります。クエン酸は、トウモロコシなどの原料を発酵して生産する有機酸で、天然香料など食品関係を中心に今後とも需要拡大が見込まれています。日本で使われているクエン酸は、ほぼ全量が中国からの輸入品です。

図2:クエン酸CIF価格の推移
(出所:財務省貿易統計の統計品別表)
2021年以降、クエン酸価格の高騰が起こりました。原料トウモロコシ相場の上昇や、海上輸送費の高騰のほか、中国元の対ドル為替レート上昇などが大きく影響しました。さらに、中国の厳しい環境保護推進への政策転換もありました。これらから、中国の国内クエン酸メーカーの生産調整が見込まれ、価格高騰につながったものと見られます。加えて、新型コロナウイルス感染症(COVID-19:COrona VIrus Disease 2019)のロックダウンによる他国への供給の減少も価格高騰の要因となりました。
日本国内のクエン酸国内需要量は6万トン強です。クエン酸および、クエン酸塩類を合わせると中国輸入品で9割以上を占めています。ソーダ灰と同様、今後の中国の状況が大きく影響されるものと思われます。
体制が異なる国々の関与する動向に今後より注視が必要
本連載「高騰する化学品、その推移と要因」は今回で最後になります。2022年に連載した「化学薬品の供給不安、その見方・向き合い方」と同様、アジア地域の化学品市場における中国の影響の大きさが改めて認識されます。そうした中で、ロシアのウクライナ侵攻が勃発し、終焉を見ません。政治体制が異なる国々の関与する動向に対し、いままでにも増して注視していく必要性を実感させられます。
本連載が、皆さまのお役に少しでも立てばと思っております。ご意見などありましたら、どうぞお寄せください。
「高騰する化学品、その推移と要因」のご愛読ありがとうございました。Chematelsは化学関連93品目の市況情報をお伝えしています。合わせてご覧ください。
猪股 勲(Isao Inomata)/ SCE・Net
東京大学工業化学修士課程修了。三菱ケミカル(株)で、石油化学関連の技術開発・事業開発、企画業務に従事。その後、日本バイオプラスチック協会に奉職。石油化学全般、バイオプラスチック、プラスチック廃棄物管理、気候変動などの環境問題に広く精通。2015年よりSCE・Net所属。ITIコンサルタント事務所チーフコンサルタント。
