エタノール―他品目と同一視できない価格変動【高騰する化学品、その推移と要因 第5回】

2023/07/19
Image

連載の目次

Chematelsの連載「高騰する化学品、その推移と要因」。今回は工業用に幅広く使われているエタノールを取り上げます。

2021年以降、価格高騰が続く

エタノールは、エチルアルコールとも、また単にアルコールともよばれます。製造法には、植物の糖を原料として発酵により製造する発酵法と、石油や天然ガスから得られるエチレンを原料として化学的に製造する合成法があります。近年はほぼ合成法で製造されています。つまり、製造されるエタノールのほとんどは植物由来なのでバイオエタノールであるといえます。

図1にあるエタノールの輸入価格推移を見ると、長期にわたり1リットル当たり60~70円台で安定していました。ところが、2021年に入ると急騰を続け、2022年後半には同100円を超える高い水準となり、現在もそれが続いています。

Image

図1:エタノールCIF価格の推移。CIF(Cost Insurance and Freight)は運賃保険料込み条件のこと。グラフのデータは「財務省貿易統計」の統計品別表に記載されている「エチルアルコール(変性させてないものでアルコール分が80%以上のものに限る。)-工業用アルコールの製造の用に供するもの)」の輸入の各月の金額を第二数量で除して1,000円を乗じて算出したもの
⁠(出所:財務省貿易統計の統計品別表)

日本はエタノール主要生産国ブラジルに依存

日本にとって最大のエタノール輸入元は、サトウキビ由来のバイオエタノールを生産しているブラジルです。輸入量のうち圧倒的な比率を同国に依存しています。ブラジルのバイオエタノール市況が直接輸入価格に反映していると考えられます。

日本では、「エネルギー供給構造高度化法」の告示に基づき、バイオエタノールをガソリンに対して約1%混合することが義務付けられています。政策的補助制度にも支えられ、消費量はほぼガソリン需要見合いで推移しています。

バイオエタノール混合率は世界平均で8%

世界的には、1970~1990年代までブラジルが中心となりバイオエタノール生産を牽引してきました。一方、2000年以降、米国がガソリンへのバイオエタノール混合を積極化します。2000年の時点では生産地域比率でブラジル63%、米国36%となっていましたが、2018年に米国が56%となり第2位のブラジル28%を大きく引き離し、いまに至ります。ここ数年は、先進国におけるバイオエタノールの混合比率やその取り組みに大きな変化はなく、安定した市況が続いていました。

バイオ燃料の消費は、地域ごとの道路交通全体の消費エネルギーとガソリンへの混合率によって左右されます。世界平均でのガソリンへのエタノール混合率は8%です。うち、ブラジルでは現在、27%エタノール含有ガソリンと純エタノールの2種類が供給されており、全体の混合率は50%以上となっています。消費量で最大の米国では、ほぼすべてのガソリンがE10(エタノール10%混合)になっています。

今後のバイオエタノールの消費傾向は、バイオディーゼル原料の脂肪酸メチルエステルや、水素化植物油なども含めた、バイオ燃料全体の動向により大きく変わってくるものと思われます。

価格変動は多様な要因、バイオ燃料動向に影響

Image

図2:海外のエタノール精製工場

2022年後半からのバイオエタノールの価格上昇の原因は多く挙げられます。2021年に始まった中国の環境維持対策の強化による肥料原料の高騰・供給不安、ブラジルでの農作物の不作予測、ロシアのウクライナ侵攻をきっかけにした運輸経費の増加などに加え、中国のバイオエタノール使用拡大の動きも要因になっているものと思われます。気候変動問題に対する各国政府の政治課題と大きく関連していることから、一般の市況品と同列に考えることはできません。

最後に、エタノールの市況データは、日本のバイオ燃料の動向を把握するための有効なデータとなります。バイオ燃料の動向は、次世代の燃料として注目されているので、エタノールの市況を継続して注視することをお勧めします。

第6回は、最終回として、「ソーダ灰」を中心に解説します。Chematelsは化学関連93品目の市況情報をお伝えしています。合わせてご覧ください。

猪股 勲(Isao Inomata)/ SCE・Net

東京大学工業化学修士課程修了。三菱ケミカル(株)で、石油化学関連の技術開発・事業開発、企画業務に従事。その後、日本バイオプラスチック協会に奉職。石油化学全般、バイオプラスチック、プラスチック廃棄物管理、気候変動などの環境問題に広く精通。2015年よりSCE・Net所属。ITIコンサルタント事務所チーフコンサルタント。