炭酸リチウム―需給とも鍵は中国、EV拡販の影響大【高騰する化学品、その推移と要因 第4回】

2023/07/11
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連載の目次

本連載で扱う項目

今回は、電動自動車(EV:Electric Vehicle)関連で注目される「炭酸リチウム」についてお話しします。炭酸リチウムは酸化リチウムとともにEVにおける充電池の基材に使われます。世界的なEV販売台数の急増により、世界のリチウム消費量はここ2年間で倍増し、供給が追い付かない状況が続いています。

リチウム消費総額2020年から3年で10倍増、今後も拡大へ

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図1:炭酸リチウムCIF価格の推移。CIF(Cost Insurance and Freight)は運賃保険料込み条件のこと
⁠(出所:財務省貿易統計の統計品別表)

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図2:酸化リチウムおよび水酸化リチウムCIF価格の推移
⁠(出所:財務省貿易統計の統計品別表)

リチウム関連商品として、炭酸リチウムと酸化リチウム(酸化リチウムおよび水酸化リチウム)の価格推移のグラフを示しました。両品目ともほぼ同様の推移となっています。

金融情報サービス大手ブルームバーグの集計によるリチウム消費の総額は、現物ベースで2020年の30億ドルから2022年には約350億ドルまで急拡大しました。現在、チリや中国、オーストラリアの採掘業者が膨大な量の新規供給を開始する計画を進めており、2023年の生産量は大幅に増加すると予想されています。世界の自動車メーカーのEV拡大のペースによっては、供給不足が続くことが懸念されます。

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図3:リチウムイオン電池に充電中のEV

リチウム資源の埋蔵量についてはチリが約4割、オーストラリアが約2割、中国とアルゼンチンがそれぞれ1割弱を占めています。生産量についてはオーストラリアが約5割、チリが約2割であり、中国とアルゼンチンを加えると4カ国で9割を超えます。

資源埋蔵地も生産地も遍在しており、レアメタルのように中国依存度が極端に高いというわけではありません。一見、調達リスクは低いように見えます。しかしながら、そうではありません。

高い中国依存度、自国内では政策でEV急拡大

リチウム資源の採掘には、大別するとオーストラリアの鉱石系と南米の塩湖系があります。鉱石のほうは主にオーストラリアで採掘され、リチウム含有率は6%程度ですので、本来ならば現地精製が有利です。しかしながら、精製過程で硫酸ナトリウムや残渣といった廃棄物が大量発生することから、環境規制の緩い中国に運んでから炭酸リチウムに精製するしくみができあがっています。炭酸リチウムで見ると中国依存度は5~6割となっています。

Chematesの2022年の連載「化学薬品の供給不安、その見方・向き合い方」の第4回で詳しく触れたように、中国は環境規制強化への急激な政策転換を行いました。これが2022年のリチウム価格上昇の大きな要因にもなっていると思われます。

輸入通関統計によれば、日本へのリチウムの輸入は、炭酸リチウムと酸化リチウムでほぼ半々となっています。炭酸リチウムの輸入については、チリからが56%、アルゼンチンからが20%と南米系で大半を占めます。一方、酸化リチウムおよび水酸化リチウムの輸入は80%以上が中国からであり、中国のコスト競争力の強さがうかがえます。

中国のバッテリーEV(BEV:Battery Electric Vehicle)の販売台数は2022年に500万台を超えたとされ、自動車販売台数全体に占める比率は約2割です。中国は世界的に最も普及が進んでいるといえます。その背景には、販売台数の一定割合を、バッテリーEVをはじめとする「新エネルギー車」(NEV:New Energy Vehicle)にすることを義務付ける「NEV規制」の実施があります。先進国に対抗して自動車産業国としての競争力を持つための政策を進めており、リチウム資源の確保もその一環として政策的に進められていると思われます。

海外産原料を国内加工、日本企業にも自主開発の動き

こうした状況を踏まえ、日本の自動車関連業界もEVの拡大計画に合わせてリチウム資源の自主開発を始めています。例えば豊田通商はアルゼンチンのオラロス塩湖のかん水から粗原料としての炭酸リチウムを年間1万7500トン生産するプロジェクトを2014年から行っていますが、2022年にはこれを日本に持ち込み水酸化リチウムに加工して1万トンを生産するための工場を福島県内に立ち上げています。

EV1台当たり70キロワット時の電池を積むとすると、100万台のEVに必要なリチウムは7万トン。1000万台なら70万トンとなります。東洋経済オンラインの記事によると、リチウム生産量は2020年時点で30~40万トンといわれています。今後のEVの普及速度により需給は大きく影響を受ける状況です。

2022年後半から高騰したリチウム輸入価格は、2023年に入っても高騰が続いており、今後の動向はいままでにも増して注目されるところです。

第5回は、バイオ燃料として注目される「エタノール」について解説します。Chematelsは化学関連93品目の市況情報をお伝えしています。合わせてご覧ください。

猪股 勲(Isao Inomata)/ SCE・Net

東京大学工業化学修士課程修了。三菱ケミカル(株)で、石油化学関連の技術開発・事業開発、企画業務に従事。その後、日本バイオプラスチック協会に奉職。石油化学全般、バイオプラスチック、プラスチック廃棄物管理、気候変動などの環境問題に広く精通。2015年よりSCE・Net所属。ITIコンサルタント事務所チーフコンサルタント。