「高値」の要因は戦争だけでない【高騰する化学品、その推移と要因 第1回】
2023/06/08
連載の目次
本連載で扱う項目
- 第1回 概要の説明
- 第2回 液化天然ガス(LNG)
- 第3回 パーム油
- 第4回 炭酸リチウム
- 第5回 エタノール
- 第6回 ソーダ灰
経済産業省の輸入通関統計から、輸入価格に大きな変動のある化学品が分かります。Chematelsの本連載「高騰する化学品、その推移と要因」では、それらの化学品や化学品原燃料をめぐる状況とその要因を解説していきます。回ごとに、温暖化ガス排出の比較的少ない発電用燃料として注目されている液化天然ガス(LNG:Liquefied Natural Gas)を皮切りに、パーム油、炭酸リチウム、エタノール、ソーダ灰・クエン酸について取り上げていきます。第1回となる今回は、これらの化学品・原燃料の価格高騰に共通する要因と個別の要因があることを見ておきます。
長期化するウクライナ戦争、世界のパワーバランスが変容
2022年以降の世界状況に大きなインパクトを与えたのは、何といっても、同年2月24日に始まったロシアによるウクライナ侵攻でしょう。2014年に実行したクリミア併合の次の展開として、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が始めた侵略戦争です。ところが、ロシア側の思惑とは大きく異なる状況となりました。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領の率いるウクライナの頑強な抵抗と米国などが加盟する北大西洋条約機構(NATO:North Atlantic Treaty Organization)の強力な支援により、2023年6月現在も戦争は継続中です。ロシアが核戦力の使用までちらつかせる中、ウクライナが反攻に転じる気配もあります。
一方で、中国が台湾をはじめとするアジア海域地域での覇権拡大を画策する動きもあります。世界のパワーバランスが大きく変わる可能性を感じさせる事態に陥っています。
品目ごとの価格変動要因も市況に大きく関与
今回、取り上げる品目も、当然こうした大きな世界状況の変化に影響を受けます。いずれも、2022年秋からの輸入通関データの大幅な変動が見られる点が特徴的です。ウクライナ侵攻の影響が、実際のビジネスに表れてきた時期と一致します。
しかしながら、その影響の度合いと状況の推移は、各品目それぞれが抱える基本的なビジネス背景や、変化の大きさに支配されています。それら個別の要素が今後の動向にも大きく関わっていくものと思われます。
取り上げる品目に着目すると、LNGは、ウクライナ侵攻による影響が直接的に価格変動の大きな要因となったといえます。一方、パーム油とエタノールにはさらに、気候変動問題対策を含めた世界的な環境配慮の流れが大きな要因として加わっています。

図1:液化天然ガス(LNG)CIF価格の推移。CIF(Cost Insurance and Freight)は運賃保険料込み条件のこと
(出所:財務省貿易統計の統計品別表、以下も)

図2:パーム油CIF価格の推移

図3:エタノールCIF価格の推移
また、炭酸リチウムは、電動自動車の推進にかける日本の自動車業界の動向と資源安全保障の問題を受けています。一方、ソーダ灰の価格変動には、中国の環境政策・経済状況の変化が強く関わっています。

図4:炭酸リチウムCIF価格の推移

図5:ソーダ灰CIF価格の推移
市況推移は…継続的な状況把握がカギ
ロシアによるウクライナ侵略が、具体的にどのような決着を見るかは、いまだに予断を許さない状況です。いずれにせよ、ウクライナ侵攻以前とはまったく異なる国家間のパワーバランスの中で世界が動いていくことになるのではないかと思っています。
そうした中で、関連する化学品市況それぞれもさまざまな影響を受けながら推移していくことは必定です。継続的な状況把握が今後のビジネスの重要なカギになると思っています。Chematelsの本連載「高騰する化学品、その推移と要因」で、皆さんと一緒に観察を続けていければと思っています。
第2回のテーマは「液化天然ガス(LNG)」の予定です。Chematelsは化学関連93品目の市況情報をお伝えてしています。合わせてご覧ください。
猪股 勲(Isao Inomata)/ SCE・Net
東京大学工業化学修士課程修了。三菱ケミカル(株)で、石油化学関連の技術開発・事業開発、企画業務に従事。その後、日本バイオプラスチック協会に奉職。石油化学全般、バイオプラスチック、プラスチック廃棄物管理、気候変動などの環境問題に広く精通。2015年よりSCE・Net所属。ITIコンサルタント事務所チーフコンサルタント。
