パーム油―利用国に対抗する生産国の構図も【高騰する化学品、その推移と要因 第3回】
2023/06/29連載の目次
本連載で扱う項目
- 第1回 概要の説明
- 第2回 液化天然ガス(LNG)
- 第3回 パーム油
- 第4回 炭酸リチウム
- 第5回 エタノール
- 第6回 ソーダ灰
アブラヤシから採れる「パーム油」は、世界の植物油生産の3割程度を占め、油種別では最も広く利用されている植物油です。チョコレートやアイスクリーム、マーガリン、即席めん、ポテトチップス、業務用揚げ油など食品関連から、せっけん、洗剤、口紅、化粧品まで、広い用途に使用されています。
ウクライナ侵攻、油糧相場は敏感に反応

図1:パーム油CIF価格の推移。CIF(Cost Insurance and Freight)は運賃保険料込み条件のこと
(出所:財務省貿易統計の統計品別表)
2022年の日本の植物油の供給量は、合計261万トン。うち輸入品は97万9000トンですが、中でもパーム油は65%の63万6000トンを占め、重要な輸入油糧資源となっています。

表1:日本の油種別植物油供給量(2022年)
(出所:農林水産省「油糧生産実績調査」、財務省「貿易統計」)
2022年後半、パーム油の輸入価格が急激に上昇しました。その背景的要因は、同年2月24日に始まったロシアのウクライナ侵攻を起点とする世界的な油脂全般の需給逼迫(ひっぱく)です。ウクライナは、ひまわり油では世界全体の4割近い輸出量のシェアを持っています。油糧植物の菜種についても、カナダ、オーストラリアに次ぐ輸出大国であり、相場は敏感に反応しました。
加えて、2021年にあったブラジル産の大豆の生産量減少と、中国における大豆の国内需要重視への転換も、この動きに拍車をかけました。
インドネシアがパーム油禁輸を突然発表
これらの需給が逼迫する油脂から、パーム油への需要シフトが進みゆく中で、2022年4月、最大のパーム油輸出国インドネシアが、インフレ抑制と国内供給価格の安定化を理由に、突然の輸出禁止を発表したのです。輸出禁止の期間は短かったものの、これがパーム油市場での大幅な価格上昇につながったものと思われます。
2020年から2021年にかけての植物油の生産量は世界全体で2億1094万トンです。このうち、パーム油が7595万トン、また大豆油が5946万トンで、この二つの油種が世界の植物油市況を主導しています。
パーム油生産は、1位のインドネシア55%と、2位のマレーシア25%で、約8割を占めています。日本への輸入は、伝統的にマレーシアからが主体でしたが、近年、インドネシアの急激な生産拡大により、インドネシアからの輸入比率が増えています。
認証めぐり欧州とアジア諸国で対立
インドネシアのパーム油の急激な生産拡大は食品関連にとどまらず、さまざまな影響を及ぼし、話題になっています。インドネシアにおけるアブラヤシプランテーション区域の急激な拡大は、アマゾン川流域と同様、熱帯雨林の急激な伐採につながっており、森林を含む自然生息地の損失が地球環境に大きな脅威を与えているという議論が強まっています。現地のパーム畑で働く住民の労働条件の問題や、強制移住などの人権問題も指摘され、パーム油調達をめぐって環境面や人権面を中心に多くの課題が取り沙汰されています。
さらに、世界的には食品大手企業が環境対応などで批判を浴びたことから、経営リスク軽減のため、パーム油の利用への適切な対応を求める動きが本格化しました。グローバル展開する欧米企業などではパーム油生産者に対し、NPO「持続可能なパーム油のための円卓会議」(RSPO:Roundtable on Sustainable Palm Oil)による第三者認証「RSPO認証」の取得を義務化しました。この事例に見られるように、パーム油の欧州への輸入を抑制する動きが広まっています。
一方、こうした欧州主導のパーム油の持続可能調達推進の認証方式に対抗するのがマレーシアやインドネシアです。森林伐採の防止、生物多様性の減少の阻止、さらに地元の人権保護といった目標のもと、マレーシア政府が「マレーシア持続可能なパーム油」(MSPO:Malaysian Sustainable Palm Oil)という認証制度を独自に立ち上げました。インドネシア政府も「インドネシア持続可能なパーム油」(ISPO:Indonesia Sustainable Palm Oil)という認証制度を実施しています。世界各国でこうしたせめぎ合いが見られます。
今後も世界動向の影響を受けながら市況推移する見通し
2022年4月のインドネシアのパーム油輸出禁止の目的は、国内の食用油の安定供給が主だったものでしたが、パーム油はバイオ燃料としても重要です。
インドネシアでは、バイオディーゼル燃料として以前からパーム油由来の脂肪酸メチルなどを30%軽油に混ぜて販売していました。そして2023年2月、そのブレンド比率を30%から35%に引き上げる政策「B35」の開始を発表しました。これにより、燃料用に使われるパーム油量は前年比で2割増える見通しといわれており、今後の市況に与える影響は大きいと思われます。
さらに、パーム油生産時に大量に副産されるパーム椰子殻(PKS:Palm Kernel Shell)については、2021年のインドネシアの年間生産量1100万トンのうち、350万トンが輸出されています。その最大の輸出先は日本であり、日本のPKS輸入量は2015年の約46万トンから2021年には約252万トンへ大幅に増加しています。PKSは、日本の一般木質系バイオマス発電の主要原料であり、日本の環境政策にも大きく関与していることも付け加えておきます。
Chematelsの市況データでもわかるように、パーム油の輸入価格は2022年7月にピークを迎えた後、落ち着き始め、2023年3月には、ロシアのウクライナ侵攻前の水準にまで戻っています。
今後の価格動向についても興味深いところですが、インドネシアの生産拡大による供給増加が続いた2015年から2020年頃のような安定した価格状況に戻る事はないと思われます。石油と同様、あるいはそれ以上に、資源・食物の安全保障、さらには環境問題とも関連して世界動向に強く影響を受けながら推移していくことでしょう。
第4回は、電動自動車関連で注目される「リチウム」についてお話しします。Chematelsは化学関連93品目の市況情報をお伝えてしています。併せてご覧ください。
猪股 勲(Isao Inomata)/ SCE・Net
東京大学工業化学修士課程修了。三菱ケミカル(株)で、石油化学関連の技術開発・事業開発、企画業務に従事。その後、日本バイオプラスチック協会に奉職。石油化学全般、バイオプラスチック、プラスチック廃棄物管理、気候変動などの環境問題に広く精通。2015年よりSCE・Net所属。ITIコンサルタント事務所チーフコンサルタント。
