トウモロコシなどをバイオ繊維に―各社「ポリ乳酸繊維」【注目製品で捉える繊維の第4世代 第5回】
2022/10/13
連載の目次
- 第1回 東レ・ユニクロ「ヒートテック」
- 第2回 東レ「hitoe」
- 第3回 東洋紡「COCOMI」
- 第4回 ピエクレックス「ピエクレックス」
- 第5回 各社「ポリ乳酸繊維」
- 第6回 東レなど「バイオベースPET繊維」
- 第7回 スパイバー「ブリュード・プロテイン」
(タイトルは変更となる場合があります)
Chematelsの連載「注目製品で捉える繊維の第4世代」をお届けしています。従来の石油資源由来ではなく、再生可能資源由来のバイオ繊維が注目されています。今回は、前回の第4回でも題材にした「ポリ乳酸」の繊維について掘り下げます。
環境保全意識から主要バイオプラとして注目集める
ポリ乳酸はもともと、その生体適合性や生分解性という性質から、手術用縫合糸や組織再生用の足場材料・支持材料といった医療用の素材として注目された材料です。
その後、2000年代初頭に再生可能資源(バイオマス)から作るバイオプラスチックスとして、工業的に大量生産されるようになりました。地球温暖化への対処、また循環型持続可能社会の構築という社会的要請の大きな高まりの中で、バイオプラスチックスの主要素材として急速に注目を浴び、広範囲な開発が推進されてきたのです。

図1:トウモロコシ。可食部だけでなく非可食部もポリ乳酸の原料となりうる
ポリ乳酸の製造は、トウモロコシなど植物原料中のでんぷんの糖化・発酵により乳酸を作り、これを重合することで行われます。重合方法としては、乳酸を環化してラクチドとし、開環重合させる方法が工業分野では一般的です。これは、ラクチドを精密蒸留することにより、主原料素材であるL-ラクチドの純度を上げて重合させていく技術があるためです。この技術が、製品としてのプラスチックの機能・性質を左右する大きな要因となります。
繊維分野でもメーカーが製品開発
ポリ乳酸は、原料が植物由来のため、カーボンニュートラルであることが大きな特徴です。加えて、廃棄時(EOL:End Of life)においても、焼却時の燃焼熱が低いことや、土中に埋めると自然に微生物が分解する生分解性であることも特徴です。これらが注目され、フィルムやシートなどとして、パッケージング用途を中心に多くの分野で使用されています。

図2:ポリ乳酸を含む物質循環システム。ユニチカ「テラマック」の例
(画像提供:ユニチカ)
繊維分野でも、ポリ乳酸の大規模生産開始当初から、有望な用途として注目され、化学繊維メーカー各社が、開発を進めてきました。ユニチカの「テラマック」や、東レの「エコディアPLA」などです。
耐熱性向上が大きな課題
しかし、ポリ乳酸では、固いガラス状態から軟らかいゴム状態に変化する温度を指すガラス転移温度が60℃以下で、従来の代表的な樹脂であるポリエチレンテレフタレート(PET:PolyEthylene Terephthalate)の約70℃と比較して10℃以上低いため、アイロンの使用が難しいという課題があります。汎用の被服製品用としてこれは大きな制限となるため、大量使用されていないのが現状です。
ガラス転移温度の性質は、ポリ乳酸の化学構造に固有のもので改良は難しいといえます。そのため、風合いや染色性などの特徴を生かした、一部のデザイン製品での使用はあるものの、大きな市場の拡大は難しい状況にあると思います。
耐熱性向上のための特別な手法として、光学異性体であるポリ-L-乳酸(PLLA:Poly-L-Lactic Acid)とポリ-D-乳酸(PDLA:Poly-D-Lactic Acid)の立体複合品であるステレオコンプレックス型ポリ乳酸の導入検討も精力的に行われてきました。しかし、コスト面から汎用用途への展開は難しく、第4回で取り上げた「ピエクレックス」のような特殊な効果が発揮できる一部用途を除き、広く使用されてはいません。
ポリ乳酸全体の国内需要は年5000トン前後で推移

図3:ポリ乳酸輸入数量の推移
(出所:輸入通関統計を元に筆者作成)
ポリ乳酸全体でみても、日本の需要は全量輸入品によることから、輸入通関統計により動向が把握できますが、上記のグラフに示すように、年間5000トン前後で推移しています。コスト的に、既存プラスチック製品に対して割高な状態でもあり、汎用化は進んでいないのが現状です。
次回は、東レなどの「バイオベースPET繊維」を取り上げる予定です。
猪股 勲(Isao Inomata)/ SCE・Net
東京大学工業化学修士課程修了。三菱ケミカル(株)で、石油化学関連の技術開発・事業開発、企画業務に従事。その後、日本バイオプラスチック協会に奉職。石油化学全般、バイオプラスチック、プラスチック廃棄物管理、気候変動などの環境問題に広く精通。2015年よりSCE・Net所属。ITIコンサルタント事務所チーフコンサルタント。
