スマートウェア時代の導電素材―東洋紡「COCOMI」【注目製品で捉える繊維の第4世代 第3回】
2022/09/29
連載の目次
- 第1回 東レ・ユニクロ「ヒートテック」
- 第2回 東レ「hitoe」
- 第3回 東洋紡「COCOMI」
- 第4回 ピエクレックス「ピエクレックス」
- 第5回 各社「ポリ乳酸繊維」
- 第6回 東レなど「バイオベースPET繊維」
- 第7回 スパイバー「ブリュード・プロテイン」
(タイトルは変更となる場合があります)
今回は、東洋紡が「スマート衣料」向けに使うフィルム状導電素材「COCOMI(心美)」を取り上げ、その特性を見ていきます。COCOMIを着用することで、心拍数・呼吸・筋肉活動量の計測データを取得することができます。このため、COCOMIは健康やスポーツの分野での使用のほか、競走馬の管理といったユニークな用途もあります。繊維というよりはフィルムに該当しますが、衣料素材として特徴的な製品であるため取り上げます。
導電性、かつ高い伸縮性を実現

図1:東洋紡が開発したフォルム状導電素材「COCOMI」の製品例。心拍センサを装着している例(写真提供:東洋紡)
COCOMIは、電気を流す特殊なシートを2枚の絶縁シートで挟んだ3層構造をしています。厚さは約0.3mmで、衣服に貼っても着用者が違和感を覚えることはありません。また、身体の動きに合わせて伸びたり縮んだりする高い伸縮性を有しています。

図2:COCOMIの構造。中心の色付きの部分が電気を流す特殊なシートになっている
(画像提供:東洋紡)
ストレッチャブル導電性ペーストを応用
COCOMIにおける特殊な導電シートのコア技術は、同社が開発した「ストレッチャブル導電性ペースト」を応用したものです。
導電性ペーストは、樹脂にフィラーと呼ばれる金属粒子を混合した、電気を通す材料です。これを回路の形に印刷すると回路の厚みを最小限に抑えた電子基板にすることができます。印刷により配線をつくる技術は、電子デバイスの製造を印刷でおこなう技術を意味する「プリンテッド・エレクトロニクス」の一部といえます。
実は、この導電性ペーストは、皆さんがよくご存じのタッチパネルにも用いられる技術なのです。画面を指やペンでタッチするだけで、さまざまな操作ができる便利なタッチパネルは、銀行やコンビニエンスストアにある現金自動預払機、駅の券売機やコピー機などさまざまな機器に用いられており、いまや私たちの生活になくてはならないものになっています。これらは透明タッチパネルと呼ばれており、導電性ペーストの回路が組み込まれています。透明タッチパネルを指やタッチペンで押すと、その部位の電圧や静電容量に変化が生じ、その変化を読み取ることで、押した位置を感知することができます。
東洋紡は、従来の導電性ペーストでは持たせることが困難だった伸縮性を高め、印刷した配線を2倍の長さまで伸ばしても通電するストレッチャブル導電性ペーストを開発しました。この開発には、同社が開発した、汎用の有機溶剤に溶解する高分子ポリエステル樹脂「バイロン」の技術が用いられています。
スマートウェア開発を「フィルム」で
このようにして開発されたストレッチャブル導電性ペーストを、熱可塑性ポリウレタンエラストマー(TPU:Thermoplastic PolyUrethane elastomer)基材などにスクリーン印刷することで、伸縮、屈曲や、捻転しても電流を通すことができる特殊導電シートができます。ここで、「エラストマー」というのは、ゴム弾性を有する工業用材料の総称であり、 「elastic」(弾力のある)と「polymer」(重合体)を組み合わせた造語です。
この導電シートに電極・配線を形成して、表裏から絶縁シートで張り合わせることで厚みが約0.3mmの薄いフィルムができあがります。このフィルムがCOCOMIです。

図3:COCOMIの配線パターンのサンプル。ストレッチャブル導電性ペーストを熱可塑性ポリウレタンエラストマー(TPU)基材などに印刷することで導電シートにし、表裏から絶縁シートを張り合わせて、厚み約0.3mmのフィルムにしている
(写真提供:東洋紡)
このような構造のため、COCOMIのフィルムは大きな伸縮性を有しており、運動時の体の曲げ伸ばしがあるときでも、導電性を保つことができます。また、電極と配線が一体化しており接続部や段差がないため、自然な着心地を実現できます。
こうして、COCOMIの薄いフィルムを衣服に圧着することによって、どのような衣類にも導電性を付与することができるようになるのです。
競合各社が「電気を通す繊維」によるスマートウェア開発を進める一方で、東洋紡は「電気を通すフィルム」によるスマートウェアを開発したといえます。

図4:COCOMIと心拍センサと組み合わせての生体情報(心拍数)の計測
(写真提供:東洋紡)
多様な応用先に期待
COCOMIは2016年夏、アニコール(横浜市)が商品化した競走馬の心拍数測定用腹帯カバーに採用されました。用途の広さを感じさせます。
また、COCOMIを用いたスマートウェアで眠気を検知できるシステムを、ユニオンツール(東京都品川区)と共同開発したことも発表されています。
今後もさらに、介護、医療、スポーツ分野などへの応用が望めそうです。
次回は、ピエクレックスの「ピエクレックス」を取り上げる予定です。
永嶋 良一(Ryoichi Nagashima)/ SCE・Net
1955年生まれ。京都大学大学院化学工学科修了。神戸大学大学院応用化学科で工学博士取得。上席化学工学技士。帝人(株)でプラント設計・新規技術開発、Samsungグループで技術顧問に従事。2021年よりSCE・Net会員。著書は「心理学で職場の人間関係の罠から逃れる方法」(幻冬舎)他。
