導電性高分子をナノ繊維に含侵―東レ「hitoe」【注目製品で捉える繊維の第4世代 第2回】
2022/09/15
連載の目次
- 第1回 東レ・ユニクロ「ヒートテック」
- 第2回 東レ「hitoe」
- 第3回 東洋紡「COCOMI」
- 第4回 ピエクレックス「ピエクレックス」
- 第5回 各社「ポリ乳酸繊維」
- 第6回 東レなど「バイオベースPET繊維」
- 第7回 スパイバー「ブリュード・プロテイン」
(タイトルは変更となる場合があります)
今回から紹介する予定の3製品は、いずれも、本来は比較的電気を通しにくい化学繊維に電気を通すことを指す導電性を付け加えたものです。衣服を着たとき、衣服を通して電気的信号を計測・伝達することで、さまざまな機能を可能にするウェアラブル端末に関連した素材といえます。測定技術と、膨大な情報を的確に解析する先端技術を複合することにより可能になる素材であり、今後大きな発展が期待できる分野です。その挑戦を見てみます。
導電性を備えた機能素材
東レの「hitoe」は、導電性高分子をナノファイバーニットに含侵した機能素材です。服を着たとき導電性の衣服が人体に密着することで、心拍数など生体信号の計測が可能になります。例えば、「hitoe」をシート状電極として心臓付近の数か所配置した衣服を着用すれば、心拍数等を計測し専用のトランスミッターでスマートホンなどの端末に送信することができます※。
※心拍数計測に用いる「hitoe」は医療機器ではありません。

図1:「hitoe」の製品例。hitoe作業者みまもり用シャツ(左)とhitoe使用ベルト(右)
(写真提供:東レ)
「hitoe」はナノファイバーを用いた非常にユニークな素材です。では、さっそくその特徴を見ていきましょう。
繊維の径はナノメートルレベル
ナノファイバーは、日本化学繊維協会(化繊協会)によると、「直径が1nm(ナノメーター)から100nm、長さが直径の100倍以上の繊維状物質」と定義されています。
下の左図にあるように1mmの1,000分の1が1μm、さらに1μmの1,000分の1が1nmになります。

図2:ナノ~ミリの領域とナノファイバー
導電性高分子のPEDOT-PSSを含侵
「hitoe」はポリエステルナノファイバーの繊維の間に、図のような構造式を持つPEDOT-PSSという導電性高分子を含侵した構造をとります。

図3:PEDOT-PSSの構造式
PEDOT-PSSは、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(4-スチレンスルホン酸)と呼ばれる高分子物質です。コロイド粒子からなる導電性高分子で、耐熱性や化学的安定性に優れることから、帯電防止剤や固体電解コンデンサ、有機 EL のホール注入層などに広く使用されています。
「hitoe」は、この導電性高分子をナノファイバーの繊維層に含侵したものです。ナノファイバーの繊維層はポリエステルナノファイバーの丸編をベースとしており、柔らかく伸縮性や通気性にも優れています。また、金属繊維を採用していませんので、肌に直接触れても金属アレルギーの心配がありません。高導電性を備えながら一般のテキスタイル同様の柔らかさを持つ繊維として量産化に至っている機能性繊維は「hitoe」だけといわれています。
ナノファイバーだからこその導電性
導電性高分子のPEDOT-PSSを含侵して、繊維に導電性を付与するのであれば、普通のポリエステル繊維でもよさそうに思えます。ポリエステルのナノファイバーが使用されている理由は次の通りです。
下図左を見てください。通常のポリエステル繊維の径は約15,000nm(15μm)であるため、繊維の生地に導電性高分子を含侵しても、繊維と繊維の隙間が大きく、着用や洗濯によって導電性高分子が剥がれ落ちてしまいます。
一方、「hitoe」の場合を下図右に示します。ナノファイバーの繊維径が細いために、導電性高分子がナノファイバーとナノファイバーの小さな隙間にしっかり入り込んで固着され、導電性高分子が剥がれ落ちにくくなります。さらに、右図のように導電性高分子を皮膚により密着させることができることから、「hitoe」をT シャツなどの衣料として用いた場合、肌に密着した面の電極から生体信号を安定的にとらえることができます。

図4:普通の繊維とナノファイバーの比較
(出所:東レ「hitoe」サイト情報を参考に編集部作成)
これらが、ナノファイバーが使用される理由なのです。
「hitoe」は柔軟で通気性のある電極素材となるため、着用者に負担をかけることなく、日常生活での生体情報を常時モニタリングすることができます。さまざまな分野で使われており、今後もさらなる応用が期待されます。
次回は、東洋紡「COCOMI」を取り上げる予定です。
永嶋 良一(Ryoichi Nagashima)/ SCE・Net
1955年生まれ。京都大学大学院化学工学科修了。神戸大学大学院応用化学科で工学博士取得。上席化学工学技士。帝人(株)でプラント設計・新規技術開発、Samsungグループで技術顧問に従事。2021年よりSCE・Net会員。著書は「心理学で職場の人間関係の罠から逃れる方法」(幻冬舎)他。
