傑作いまも改良を重ねる―東レ・ユニクロ「ヒートテック」【注目製品で捉える繊維の第4世代 第1回】
2022/09/08
連載の目次
- 第1回 東レ・ユニクロ「ヒートテック」
- 第2回 東レ「hitoe」
- 第3回 東洋紡「COCOMI」
- 第4回 ピエクレックス「ピエクレックス」
- 第5回 各社「ポリ乳酸繊維」
- 第6回 東レなど「バイオベースPET繊維」
- 第7回 スパイバー「ブリュード・プロテイン」
(タイトルは変更となる場合があります)
1935年のナイロンの発明に始まった合成繊維の時代は、天然繊維をお手本に、人々の生活の快適性を求めて、さまざまな合成繊維素材が工業化されるという展開を見せました。それらの素材に合わせて紡糸、糸加工、撚糸、製織、染色技術などの加工技術が開発されていき、間もなく100年が経過しようとしています。
今回、紹介する「ヒートテック」は、こうした繊維関連技術の集大成といえる製品開発をしたことと、市場消費者から望まれるさまざまな機能要請を採り入れたことで、ビジネスとしても大きな成功につながった好例です。
体からの水分を利用し、発熱・保温を実現
ヒートテックはご承知のように、東レとユニクロ(ファーストリテイリング)が戦略的な協力体制を組むことにより実現したプロジェクトの成果です。繊維素材メーカーの技術に、市場で消費者が望んでいる快適機能をうまく適合させた、理想的な開発のモデル事例といえるでしょう。

図1:ヒートテック
(写真提供:ユニクロ)
ヒートテックは、レーヨン、アクリル、ポリエステル、ポリウレタンの4種類の繊維を複雑な構造で編み込むことにより、吸湿発熱・保温・吸汗速乾・ストレッチ性などの複合的な快適性を備えることを実現しています。
ヒートテックの最も特徴的な機能は、吸湿発熱・保温の機能といえるでしょう。発熱のしくみは、体から発散される汗などの水分を利用したものです。水分が体温により蒸発し、その水分子が肌とヒートテック生地の間を激しく動き回ります。その水分子を吸湿性に優れたレーヨン繊維が吸着することにより、それでも動こうとする水分子のエネルギーが熱エネルギーに変換され発熱します。

図2:ヒートテックにおける発熱・保温の概念図。身体から放出されるナノメートルレベルの水分子(左)の動きを極細繊維(右)が捉え、水分子を吸着。水分子の動きを熱エネルギーに変換し、保温する
(画像提供:ユニクロ)
発熱により暖められた空気は、髪の毛の10分の1という極細のマイクロアクリル繊維の隙間(エアポケット)に閉じ込められます。これにより保温性が確保できるというわけです。
さらに、極細の「カチオン可染型ポリエステル」という特殊ポリエステル繊維により、優れたドライ性能、つまり吸汗速乾性と、良好な発色性を実現しています。加えて、洗濯を繰り返ししても型崩れしにくくなっています。体にぴったりフィットするストレッチ性は、ポリウレタン繊維の使用により高められています。
発売後も機能改良を積み重ねる
ヒートテックの基本構造は、発売時に決定され、いまでも変わっていないといいますが、発売後もさまざまな機能改良がなされてきました。
例えば、2006年のヒートテック現行モデル第一弾では生地断面の厚みが約700μmでしたが、2017年のモデルでは約520μmとなり、一定基準の保温性をクリアしたまま、薄く、さらに心地よい生地に進化しています。
また、着心地のよさを追求した2013年発売「エクストラウォーム(極暖)」や 2016年発売「ウルトラウォーム(超極暖)」の開発、マイクロアクリルの採用による柔らかさ約30%の向上、それにアルガンオイルの配合など、数々の改良成果が発表されています。
ウェブ記事によると東レとユニクロの共同開発は2003年、ユニクロからの、デニムの下に着られる、薄くて暖かい素材の開発をという要望からが始まり、2006年に前記4種類の繊維を組み合わせたヒートテックが誕生しました。両社の戦略的パートナーシップが締結され、その後、一連の緊密な開発体制が継続されました。
開発の経緯などについては、多くの発表がされているので割愛しますが、技術開発の成果を、次々に製品化に結び付け、2010年代の事業のグローバル化も含め拡大につなげた実績は称賛に値するものだと思います。
直近でも、2017年のヒートテック毛布販売や、2018年のレッグウエア拡充など、新分野の商品への展開が続いています。開発成果のさらなる拡大・発展が期待されるところです。
次回は、東レ「hitoe」を取り上げる予定です。
猪股 勲(Isao Inomata)/ SCE・Net
東京大学工業化学修士課程修了。三菱ケミカル(株)で、石油化学関連の技術開発・事業開発、企画業務に従事。その後、日本バイオプラスチック協会に奉職。石油化学全般、バイオプラスチック、プラスチック廃棄物管理、気候変動などの環境問題に広く精通。2015年よりSCE・Net所属。ITIコンサルタント事務所チーフコンサルタント。
