ポリ乳酸の圧電効果で抗菌繊維を実現―ピエクレックス「ピエクレックス」【注目製品で捉える繊維の第4世代 第4回】
2022/10/06
連載の目次
- 第1回 東レ・ユニクロ「ヒートテック」
- 第2回 東レ「hitoe」
- 第3回 東洋紡「COCOMI」
- 第4回 ピエクレックス「ピエクレックス」
- 第5回 各社「ポリ乳酸繊維」
- 第6回 東レなど「バイオベースPET繊維」
- 第7回 スパイバー「ブリュード・プロテイン」
(タイトルは変更となる場合があります)
2020年4月に村田製作所と帝人フロンティアが合弁でピエクレックスを設立し、電気の力で抗菌性能を発揮する繊維「ピエクレックス」の開発、製造に乗り出しました。
この繊維は原理的には、大きく「ポリ乳酸の圧電効果」と「不可逆エレクトロポレーション」という二つの最新技術により構成されています。

図1:ピエクレックスの製品例
(写真提供:デサントジャパン)
ポリ乳酸の圧電効果を利用
圧電効果とは、水晶や特定のセラミックなどの固体に圧力を加えるとひずみが生じ、そのひずみよって電圧が発生する現象です。
固体結晶内ではプラスとマイナスの電荷を持った分子が格子状に配置されていますが、固体に圧力が加わると分子の位置がずれ、結晶の一方の端がプラスの電気を帯び、もう一方の端がマイナスの電気を帯びる「電気分極」という現象が起こります。これにより電圧が発生します。この現象をポリ乳酸で見てみましょう。
ポリ乳酸(PLA:Poly-Lactic Acid)は植物由来ポリマーで、生分解性を持つため環境配慮素材としてさまざまな分野で活用されています。このポリ乳酸には圧電効果が高いという特徴があります。
ポリ乳酸を構成する乳酸モノマーはキラリティ (対掌性) を有しています。キラリティとは、3次元の図形や物体、あるいは現象が、それ自身の鏡像と重ね合わさることのない性質をいいます。つまり乳酸モノマーは、分子構造同士が重ね合わせることない鏡像異性体をとっています。
このような乳酸モノマーの異性体を、「L体」「D体」と呼びます。L体の乳酸モノマーが重合したものを「L型ポリ乳酸 」(PLLA:Poly-L-Lactic Acid) 、またD体の乳酸モノマーが重合したものを「D型ポリ乳酸」(PDLA:Poly-D-Lactic Acid) と呼びます。前者は左巻きらせん、後者は右巻きらせん構造の高分子となります。このらせん構造がポリ乳酸の大きな特徴です。

図2:ポリ乳酸の立体構造
このポリ乳酸を延伸して、分子が一定の向きに並ぶよう分子配向することで、圧電効果を発現させることができます。
圧電効果は分子内にあるC=Oなどの永久双極子を発生する分子群が、外部からの電場の影響を受けて、らせん構造の中でわずかにその位置を変えることにより発現します(右図)。

図3:ポリ乳酸の構造式
このため、ポリ乳酸の繊維でできた衣類を身に着けて動くと、繊維に力がかかり、圧電効果によって繊維にプラスとマイナスの電位が生じます。その値は数ボルト程度で、最大でも10V程度です。例えば、+5Vと?5Vの電位が発生した場合、その空間(電界)には10Vの電位差(電圧)が生じていることになります。
不可逆エレクトロポレーションで抗菌
繊維の上に菌が付着していた場合、前述の圧電効果によって、菌も1Vに満たない程度ながら帯電し、電界に応じて菌が縮んだり伸びたりします。菌が物理的にゆがむことになります。そして、ある閾値(いきち)以上になると、菌の細胞膜が破れてしまいます。普通は膜が破れても再生するのですが、閾値を超えると破れて再生しないという現象が起こります。この現象を起こす技術が、不可逆エレクトロポレーションです。

図4:抗菌メカニズム
(画像提供:ピエクレックス)
不可逆的エレクトロポレーションでは、電界を利用して細胞膜に永久的かつ致死的なナノサイズの細孔を形成し、細胞のホメオスタシスを破壊します。ホメオスタシスとは、恒常性とも呼ばれ、生物が個体またはシステムとしての秩序を安定した状態に保つ働きをいいます。このホメオスタシスの破壊により細胞膜は再生せず、菌が不活性化するのです。菌の不活化のために必要な電界は1μm当たり1Vといわれています。通常の日常生活で発生する静電気が100~200Vですので、人間にダメージをあたえることはありません。

表1:生地での抗菌性試験結果。ピエクレックス社の自社法による測定。2.0以上で抗菌効果
(出所:ピエクレックス公表資料より編集部作成)
余談ですが、不可逆エレクトロポレーションは医療分野でナノナイフとして腫瘍切除などに応用することも研究されています。
広い用途への展開に期待
ピエクレックスは、「ポリ乳酸の圧電効果」と「不可逆エレクトロポレーション」という二つの最新技術により繊維に抗菌性を付与するものです。一般の薬剤などを使って抗菌性を付与する製品と違って、薬剤不使用であることが大きな特徴です。
ピエクレックスはその性質上、微弱な電気しか取り出すことができませんが、それでもミクロ・ナノの世界では充分に大きな電気を取り出すことができます。今後はアパレル関連だけではなく、産業資材やエネルギー用途などに広く展開が可能といわれており、エネルギーハーベスト(環境発電)やヒューマンマシンインターフェース(HMI:Human-Machine Interface)などへの適用が考えられます。
次回は、各社のポリ乳酸繊維を取り上げる予定です。
永嶋 良一(Ryoichi Nagashima)/ SCE・Net
1955年生まれ。京都大学大学院化学工学科修了。神戸大学大学院応用化学科で工学博士取得。上席化学工学技士。帝人(株)でプラント設計・新規技術開発、Samsungグループで技術顧問に従事。2021年よりSCE・Net会員。著書は「心理学で職場の人間関係の罠から逃れる方法」(幻冬舎)他。
