アジアのクラッカー再編…日本だけでなく韓国も実行目前、中国は生産能力維持【石油コンサルがずばり解説】

2026/04/02

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Chematelsの「石油コンサルがずばり解説」をお届けします。前回の記事「『合理化』進む韓国・中国エチレン装置、減産・生産集約へ」では、韓国・中国におけるナフサクラッカー合理化の方向性を整理しました。一方、日本では、以前の記事「『停止計画』相次ぐ国内エチレン装置、実行なら生産能力は現状の7割程に」で予想していましたが、すでに停止・統廃合計画が具体化し、実質能力は年間約650万トンから450万トン前後へ縮小する見通しです。国内需要に照らせば一定の合理性を持つ再構築といえるでしょう。しかし、エチレンは広域流通商品であり、日本単独の再編だけではアジア全体の需給構造は変わりません。市況を左右するのは、域内でどれだけ能力が恒久的に消えるかです。そこで今回の記事では、韓国と中国の動向を整理し、合理化が「実行段階」に入ったのかを検証します。

再編へ動き出したが、純減はなお流動的 ― 韓国

韓国のエチレン能力は、韓国化学工業協会(KCIA :Korea Chemical Industry Association)統計ベースで約1300万トン規模とされます。設備は麗水、大山、蔚山の三大コンビナートに集中し、LG化学、ロッテケミカル、麗川(ヨチョン)NCC、ハンファ系などが中核を担います。輸出依存度が高く、市況変動の影響を受けやすい構造です。

2025年以降、韓国政府主導で総能力の20〜25%減、すなわち約270万〜370万トン減を目安とする再編枠組みが示されました。複数企業が再編案を提出したと報じられ、政策面での後押しも打ち出されています。

もっとも焦点は「正味でどれだけ減るか」です。大山地区では統合が議論される一方、エスオイルによるシャヒーン・プロジェクトなど大型新設計画も控えています。老朽設備を停止しても高効率設備が稼働すれば、総能力は横ばいにとどまる可能性があります。

クラッカーはエチレン専用装置ではなく、プロピレンやブタジエン、芳香族などの副生品供給源でもあります。1基でも停止すれば誘導品装置にも影響し、コンビナート全体のバランス調整が必要になります。単純な数量削減の議論では済みません。一方でクラッカーマージンをめぐる状況は依然として厳しく、ナフサ処理1トン当たり概ね90〜120ドル程度が損益分岐とされるなか、それを下回る局面が続いています(図1)。今後も、同様の状況が続けば恒久停止が現実味を帯びます。

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図1:クラッカーマージンは損益分岐を下回る水準

計画値の約270万〜370万トン減がそのまま純減になるとは限りません。実行値は下振れする可能性もあります。すでに大山地区ではロッテケミカルとHD現代ケミカルが分解炉の運営統合を検討しており、その後ロッテケミカルの年産110万トン規模のエチレン設備を停止する案が取り沙汰されています。また、麗水では、麗川NCC が運転休止中の年産47万トン規模のエチレン設備の閉鎖を検討していると報じられています。

2026年中にどれだけ具体的な停止事例が出るか。ここが最初の試金石となるでしょう。

「量の縮小」より「競争力の強化」に重心 ― 中国

中国のエチレン生産能力は6000万トンを超え、世界最大水準にあります。浙江石化や恒力石化といった統合型コンプレックスが稼働し、国内生産は急増しました。基礎化学品の自給率向上と、輸出余力を持つ構造への転換が進んでいます。

一方、政府は付加価値向上やエネルギー効率改善を掲げ、老朽設備の淘汰を進める方針を示しています。ただし、総能力を何百万トン削減する、といった明確な数値目標は打ち出されていません。小規模設備が退出しても、高効率設備が稼働する。結果として総能力は維持される……これが現在の基本的構図です。

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図2:中国のエチレン生産設備
⁠(出所:経済産業省2026年2月公表「素材産業の国際競争力強化に向けた産業政策」資料内データを参考にChematels編集部作成)

中国ではまた、石炭化学由来原料との競争も続いています。原料価格や政策環境次第ではナフサクラッカーの採算が圧迫されますが、それは稼働率低下という形で現れることが多く、能力廃棄に直結するとは限りません。国内需要の伸びが鈍化するなか、ポリエチレンやポリプロピレンの輸出は増加傾向にあります。域内需給が緩む局面では、中国の輸出が価格の下押し要因となる構図が続きます。

中国の再編は、「量の縮小」よりも「競争力の強化」に重心が置かれています。短期的に大規模な純減が起こる可能性は限定的と整理できます。

「アジアで500万トン減」現実となればナフサや副製品の市場にも影響

仮に日本で約200万トン、韓国で300万トン前後が純減すれば、アジア全体で約500万トン規模の供給調整となります。これは域内能力の数%に相当し、クラッカーマージン改善要因となり得る水準です。

同時に、ナフサ需要にも影響が及びます。クラッカーの稼働停止が進めば域内ナフサ需要は抑制され、ナフサ価格の水準にも波及する可能性があります。具体的には原油との値差を指すクラックスプレッドが縮小し、ナフサ価格は低位となることが想定されます。

さらに、副生品バランスの調整も重要です。クラッカー停止はエチレンだけでなく、プロピレンやブタジエン、芳香族の市場にも影響します。域内で能力再配置が進めば、これら製品の貿易フローも変化するでしょう。

時間軸でみれば、2026年は再編計画の具体化と初期停止の有無が焦点といえます。2027年以降に純減効果が需給へ反映される局面が想定されます。

問われるのは「実行に移るか」

合理化の方向性は共有されています。しかし、市況を変えるのは減産ではなく、物理的な能力廃棄です。日本・韓国・中国で本格的な停止が進めば、長期停滞からの転換点が見えてくる可能性があります。進まなければ、過剰供給の構造は当面維持されるでしょう。

最終的な判断材料は、「計画が実行に移るか」に尽きます。2026〜2027年は、その帰趨を見極める重要な局面となりそうです。

柳本 浩希(やなぎもとひろき)

1985年生まれ。大学卒業後、総合化学メーカーに就職し、石化コンビナートの現場、ナフサの調達、合成樹脂の営業を経験。その後、ナフサ取引の仲介や情報誌の編集責任を務め、2026年5月に炭化水素リサーチ株式会社を創業(https://hc-r.co.jp/)。ナフサと石油化学業界必携のNaphtha Portalを立ち上げる。