トランプ氏のロシア制裁、強化でも維持でもナフサ価格高騰のリスクに 【石油コンサルがずばり解説】

2025/09/30

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今回は、米国ドナルド・トランプ大統領の動向に注目が集まっている「ロシア制裁」がアジアのナフサ相場にもたらす影響について整理してみたいと思います。新たな制裁が発動されるかは不確実性が高いながら、仮に制裁が強まり、ロシアからアジアへの輸出が減少すれば、アジアの需給構造に大きな変動をもたらす可能性はあります。なお、Chematelsの姉妹サイトPlabaseの記事「ナフサや石油化学への影響は? 緊迫する中東とロシアの地政学(後編)」で、ロシアのウクライナからの製油所攻撃による影響を地政学の観点も交えて解説していますで、そちらもぜひご覧ください。

中国のロシアナフサ輸入依存度は高まっている

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図1:ロシアの大型タンカー

まず、ロシアのナフサ供給規模を確認しておきます。世界全体のナフサ貿易のなかで、ロシアは最大の供給国ではないものの、アジア市場に限れば一定の存在感を持ちます。原油を精製する過程で得られる副産物としてのナフサは、石油化学産業の基礎原料として不可欠であり、調達先が限られる分、その供給に少しでも変動が生じれば市場価格に跳ね返ります。

特に注目すべきは、ロシアから中国および台湾へのナフサの輸入構造です。図2は、中国のナフサ輸入全体に占めるロシア依存度の推移を示したものです。

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図2:中国のナフサ輸入に占めるロシア依存度の推移

このように、中国は近年ロシアからのナフサの輸入量を急速に増やし、依存度は3割近くとなっています。もしロシアから中国へのナフサの供給が滞ると、中国は代替策として中東や西アジアのナフサを取り込むしかなく、アジア全体のナフサ需給が一気に引き締まるリスクがあります。

台湾についても同様に、輸入の一定割合をロシアに頼っていると見られます。同じく影響を受けやすい構造にあります。

では、ロシアの供給が減った場合、他地域で補えるのかというと、答えは容易ではありません。

ロシア以外のナフサ供給国による埋めあわせの保証はない

まずインドは、ロシア原油を大量に輸入して国内で精製していますが、そこで生じるナフサを輸出に回す余力はほとんどありません。インド国内でも石油化学製品の需要が増加しているため、むしろナフサは自国消費に優先的に回される傾向にあります。

次に、石油輸出国機構(OPEC:Organization of the Petroleum Exporting Countries)各国については、原油増産の余地はあるとされるものの、ナフサは精製の副産物であるため、原油を増産したからといって短期的に大量のナフサをアジア市場に回せるとは限りません。輸送面の制約もあり、短期的には需給ギャップを埋めきれない可能性が高いと考えられます。

最新の報告がこの不安を裏付けています。ブルームバーグの2025年7月14日の報道によると、国際エネルギー機関(IEA:International Energy Agency)は同月の月報で、ロシアの石油製品輸出が「極めて低水準」にとどまり、生産能力の維持そのものに疑問が出ていると指摘しています。つまり、制裁の有無にかかわらず、ロシアの供給能力にはすでに限界が見えはじめており、この状況はアジア市場にとって恒常的なリスク要因になりつつあるわけです。

制裁強化か維持か…どちらのシナリオにもナフサ高騰のリスクあり

こうした状況を踏まえると、今後のナフサ価格のシナリオは大きく二つに分かれます。

まず、ロシアへの制裁が本格化した場合、アジア産ナフサの供給が減少し、中国・台湾を中心に他の供給先へのシフトが発生します。需給は急速に引き締まり、原油と共に価格に強い上昇圧力がかかるでしょう。原油価格上昇と同時に、原油とナフサとの値差をさすクラックスプレッドも拡大することでナフサの付加価値は高まり、アジア相場は600ドル台へと上昇することも想定されます。

一方で、新たな制裁が発動されない場合、供給は一応維持されますが、投資家や実需家の心理には「いつ途絶してもおかしくない」という不安が残ります。そのため、市場はリスクプレミアムを織り込み、価格は高止まりしやすい展開となるでしょう。

どちらのシナリオも価格が大きく下落して需給が緩和する可能性は低く、むしろリスク要因としてのプレッシャーが続くことが見込まれます。ナフサはその都度の現物契約に基づいたスポットカーゴでの取引比率が高く、突発的な需給変動に敏感に反応します。特に中国のように輸入規模が大きな国で調達先が切り替われば、価格指標そのものに強い影響を与えます。なお直近の貿易統計では、中国がアジアにおいて韓国に次ぐ第二位の輸入国となっています。

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図3:為替相場もナフサ価格の変動要因となる

また、為替相場との掛け合わせも忘れてはなりません。仮にナフサ価格が上昇し、同時に円高が進行すれば、国産ナフサ価格に与えるインパクトは相殺されます。しかし、ロシア制裁強化に伴う経済減速懸念から相対的に安全資産であるドルに買いが強まり、円安局面と重なれば、為替1円の変動が輸入価格をトン当たり数百円単位で押し上げる効果を持ちます。制裁リスクは、価格と為替の両面から複合的に波及する可能性があるのです。

「制裁」で、供給構造の歪みが即座にアジア市場に反映されうる

中国のロシア依存度はすでに3割に迫り、台湾を含めアジアの調達構造においてロシアは重要な位置を占めています。制裁が発動されれば需給逼迫を通じてナフサ価格は急上昇するでしょうし、発動されなくても市場にはリスクが残り続けます。さらに、IEAの指摘が示すように、ロシアの供給能力自体がすでに揺らいでおり、アジア市場にとっては構造的な不安要因が強まっています。

トランプ大統領の「制裁」は、「供給構造の歪みが即座にアジア市場の価格形成に反映されるリスク」として捉えるべきテーマです。今後もトランプ政権の対ロシア政策は市場における最大級の不確実要因であり、需給バランスを読むうえで欠かせない指標となるでしょう。

※読者の方からのご指摘を受け、記事の表現の一部を訂正しました。編集作業が原因で正確性に欠く表現があったことをおわびします。(2025年10月10日追記)

参考文献

  1. UN Comtrade Database Trade Data
    https://comtradeplus.un.org/TradeFlow
  2. ブルームバーグ 2025年7月14日付記事「ロシアの原油・石油製品輸出が伸び悩み、生産能力維持に疑念-IEA」
    https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2025-07-14/SZ86ACDWX2PS00

柳本 浩希(やなぎもとひろき)

1985年生まれ。大学卒業後、総合化学メーカーに就職し、石化コンビナートの現場、ナフサの調達、合成樹脂の営業を経験。その後、ナフサ取引の仲介や情報誌の編集責任を務め、2026年5月に炭化水素リサーチ株式会社を創業(https://hc-r.co.jp/)。ナフサと石油化学業界必携のNaphtha Portalを立ち上げる。