トランプ新政権の市場影響を分析! ナフサ価格下押し、国内石化に恩恵も【石油コンサルがずばり解説】

2025/01/08

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Chematelsの前回の記事「過去に学んで未来の市場危機に備える」では、原油相場がテクニカル上の価格下落傾向に入る可能性について、これまでのマーケットの値動きから予想しました。足元では図1のように原油相場が下落し、予想の通り価格下落傾向に入っている状況です。足元の下落はテクニカル分析でも予想することができましたが、同時に米国大統領選においてドナルド・トランプ氏が再選したことも相場を下押しする材料となりました。今回の記事では大統領選に勝利したトランプ次期大統領が米国のあらゆる政策の舵を握ることにより、どのような変化が日本の石油化学産業に出てくるのか、ナフサ価格と石油化学製品需要という二つの視点から検討したいと思います。

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図1:原油相場の推移。WTIは、West Texas Intermediateの略称

米オイル・ガス増産と中東など地政学的リスク減でナフサ価格下落の可能性

ナフサ価格への影響という意味では、米国のシェールオイル増産と中東やロシアの地政学的リスク緩和という二つの大きな材料から、トランプ政権下で価格が下落する可能性があります。

トランプ氏はその公約「2024 共和党プラットフォーム 米国を再び偉大なものに」にも掲げた通り、米国をエネルギー大国にすると述べています。テキサス州を中心としたシェールガスの採掘を活発化させるため、過去に実施したように連邦政府所有の土地をエネルギー企業に貸与したり、金利の優遇を実施したりといった施策を執り行い、シェールオイル・ガスの生産を最大化させることが見込まれます。

現在、石油の世界需給はサウジアラビアによる献身的な減産によってなんとかバランスを保っている状況です。その一方で、2025年には米国を中心とした、石油輸出国機構(OPEC:Organization of Petroleum Exporting Countries)加盟国にもロシアなどの非加盟10カ国にも属さない「非OPECプラス」の国々が増産していくことで需給が供給過多に転じることが大統領選以前より指摘されていました。ここにトランプ氏再選が決定し、さらに米国の石油生産量が増加する機運が高まっている状況です。そのため、原油相場はシェールオイルの新規掘削装置の採算分岐点、つまり新たな油井を掘削するのに必要なコストである「1バレル60ドル」近辺まで下落していく可能性があります。

そして、仮にサウジアラビアが低価格で推移する原油相場に対してしびれを切らして、ライバルである米国のシェールプレーヤーを駆逐するために大幅な増産に踏み出すと、過去にあったような「1バレル30〜40ドル台」という安値となる可能性もあります。

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図2:シェールガスの採掘場

加えて、トランプ氏は公約で中東やウクライナにおける戦争について第三次世界大戦へと発展することを避けるとともに、平和を取り戻すとしており、これまで原油相場を下支えてきた地政学的リスクが後退する点も、下値を後押すかたちになりそうです。

原油だけでなく、ナフサの需給という観点からも、軽質な留分の多いシェールオイルが増産されるわけですから、米国のナフサ生産量が増加することで、アジア域内のナフサ需給も緩和方向に向かうことも想定されます。このように、トランプ氏の再選はナフサ価格を下押す材料となりそうです。

日本の国産ナフサ価格もキロ7万円台の高値から脱する見込み

日本の国産ナフサ価格についても、アジアのナフサ相場が下落すれば、当然、足元の「1キロリットル7万円台」という高値から下方修正されていくことが見込まれます。

ただし、ドル円の為替についてはかなり不透明な状況です。トランプ氏はインフレを終結させるとしていますが、財政は拡張路線で金融政策は緩和継続となれば、貨幣流通量は低下するどころか増加し、物価は上昇圧力を受けつづけることになります。加えて、移民規制の導入、そして主要貿易国との関税障壁設置となれば、インフレが当面続くことは避けられません。そうなると、中央銀行としてもある程度高い金利を維持せざるを得ませんから、日米金利差は拡大したままとなることが見込まれます。ドル円は150円程度の高値が中央値となる見方もありますが、トランプ氏がインフレ終結に向けどのようなカードを切ってくるのかによって、シナリオは変わってきそうです。

いずれにしても、ナフサ価格が下落すればそれに伴って東アジアのナフサベースの石化製品のコスト競争力は改善します。これまでエタンといったガスベースの製品の圧倒的な競争力にひれ伏してきた東アジアの石油化学メーカーにとって、これは朗報となることでしょう。

米中貿易戦争再燃のおそれも、日本の石化需要に恩恵の面あり

石油化学製品の需要はトランプ氏の政策でどのような影響を受けそうでしょうか。

中国や日本など対米貿易黒字の国々に対して、トランプ氏は今後、自国内産業保護を目的に関税を付加していく可能性があります。日本にはまだ交渉の余地がある状況ですが、中国はジョー・バイデン政権時と比較して強硬姿勢で臨まれることが見込まれますので、過去にあったような貿易戦争のような関税の掛けあいが起こる可能性が高いといえます。

過去にトランプ氏が貿易戦争を仕掛けた際は、米国が中国の石油化学製品に高い関税を掛け、中国も米国のエネルギー製品に高い関税を掛けたことで、両国の貿易量は減少しました。仮に同様の事態が今後発生した場合、東アジアの国々としては中国から米国への輸出が減ることで、中国向けに卸していた部品などの需要まで減少してしまうことになります。経済活動が低迷しかねず、この状況は基本的に石油化学製品需要に対してもマイナス要因です。

しかし、日本や韓国については、これまで米国に輸出していた中国メーカーブランドによる生産(OEM:Original Equipment Manufacturing)を受けるかたちで製品を生産し、米国に輸出するといった仮需が生まれる可能性があります。具体的には、フィルムやシート、容器などの川下の石油化学製品でこうした動きが見られるでしょう。また、ナフサや液化石油ガス(LPG:Liquefied Petroleum Gas)などのエネルギー製品については米国のサプライヤーは関税分ディスカウントする必要のある中国を避けることで、地理的に最も近い日本に積極的な輸出を図る可能性があります。これは日本の石油化学メーカーが従来よりも安価に原料を調達できる機会を増やすことになるでしょう。

このように、貿易戦争が始まっても石油化学需要にはマイナスとなる面もありますが、それほど米国からのプレッシャーを受けないような東アジアの国々では恩恵も同時に受けるかたちとなるでしょう。

以上、トランプ氏の大統領返り咲きにより石油化学分野にどのような影響が出てきそうかを見てきました。就任式は1月20日となりますが、就任直後からさまざまな波乱を呼ぶことが想像に容易く、しばらくは変動の激しいトランプ相場が続きそうです。

柳本 浩希(やなぎもとひろき)

1985年生まれ。大学卒業後、総合化学メーカーに就職し、石化コンビナートの現場、ナフサの調達、合成樹脂の営業を経験。その後、ナフサ取引の仲介や情報誌の編集責任を務め、2026年5月に炭化水素リサーチ株式会社を創業(https://hc-r.co.jp/)。ナフサと石油化学業界必携のNaphtha Portalを立ち上げる。