過去に学んで未来の市場危機に備える【石油コンサルがずばり解説】
2024/10/10今回は、2024年8月2日と5日に見られた世界的な金融不安を端緒とする、原油・ナフサ相場の下落に着目し、今後も発生する可能性のあるマーケットの危機と、その対処方法について考察していきたいと思います。過去の価格変動のチャートから今後の相場を予測する「テクニカル分析」にも触れながら、原油・ナフサ相場の動きを探っていきます。
8月5日、日経平均株価が過去最大の下落
8月に起きた世界的な金融不安とその前後の状況をおさらいします。
日銀が量的緩和の縮小と段階的な利上げを7月31日に発表した後、植田和男総裁が会見において「利上げがそのまま日本経済に悪影響を及ぼすとは想定していない」と強気な発言をしたこともあり、一気に円高が進行。8月上旬には一時1ドル141円台まで円は買い戻されました。これを受け、企業業績悪化への懸念が高まりました。
また、米国時間8月2日に発表された米国の雇用統計において、失業率が4.3%へと拡大したほか雇用者数も減少し、市場の想定よりも悪化したことが明らかになると、米国のリセッション入りが意識されました。景況感の悪化を食い止めるためには、最も早くて9月と見込まれている米ドルの利下げ開始では遅いとの見方が優勢となり、株式相場は大幅に下落。この流れは週明けの日本時間まで続き、8月5日の月曜日は日経平均が一日として最大の下落幅をつける事態に陥りました。
複雑な要因のナフサ相場、今後は中・米の景気減速が影響する可能性も
この株式相場の大混乱に連動するように、原油やナフサ相場も大きく下落(図1)。ナフサ相場は一時650ドル台の安値を付けました。

図1:2024年8月初旬の株式相場とナフサ相場
(筆者作成)
この下落の要因をめぐって、日銀総裁を一方的に非難する声もありましたが、事態はより複雑です。先進国の中で最も低位の金利となっている円を元本に外貨に換えてさまざまな投資を行う円ドルのキャリートレードを解消して円を買い戻すような取引が円高に拍車をかけたほか、米国の景況指数の悪化に対する過度な反応があったようです。
しかし、この要因がなんであれ、今後も今回と同じような相場の急落場面が発生してもおかしくない状況です。8月初旬のケースでは直後に相場が反発しましたが、原油価格の戻りは鈍ったままです。
世界経済にとって脅威となってくるのは、中国の不動産バブル崩壊に伴う経済の減速や、高金利が続いた米国経済における伸長鈍化といった部分です。中国経済への懸念は今年に始まった話ではありませんが、米国においては高金利が長引いたことや、物価高による副作用、具体的には企業収益の減少、個人の購買意欲減退、ローン焦げ付きが顕在化しうることから、今後、経済活動が減速する場面が出てくることも否定できない状況です。
テクニカル分析で見えてくる、2025年春にかけての原油価格下落
一方、原油相場では、シェールオイルの増産を背景に、2025年のファンダメンタルズや需給環境はやや供給過多の状況となることが見込まれています。そのため、株安などをきっかけに石油需要の伸長鈍化が意識されれば、一気に原油が売られる可能性は高いといえるでしょう。
特に2024年11月の米大統領選でドナルド・トランプ氏が返り咲けば、米国内の石油企業に対する税制優遇や補助金、連邦政府所有の土地の貸与などを再開すると見られ、シェールオイルの増産幅はさらに拡大することが想定されます。そうなれば、石油輸出国機構(OPEC:Organization of Petroleum Exporting Countries)はさらに減産を強いられることになりますので、米国のシェールオイルを市場から追い払うべく一転して増産に踏み切るような事態も否定はできません。その場合、シェール革命後やコロナショック後にあったようにサウジアラビアが大幅な増産を実施する可能性があります。
こうしたファンダメンタルズや需給の状況を捉えること以外に、「テクニカル分析」をすることで、今後のマーケット動向を予測することも可能です。テクニカル分析とは、過去の値動きから将来の値動きを分析することを指し、この分析をもとに多くのトレーダーは相場の流れを解析しています。
図2として示したグラフを見ながら、少しテクニカル分析を加えたいと思います。

図2:底値が上がり、上値が下がる局面
(筆者作成)
ご覧いただくと、2020年までに二度ほど、相場のトレンドの中で「底値が上がっていく一方、上値が下がっていく局面があります(①と②)。相場の可動域がだんだん狭まっているタイミングといえるかと思いますが、このような状況はそうあることではありません。というのも通常、相場は上昇、下降、またはボックス圏とよばれる一定価格帯内での推移のどれかになることが多く、このように値動きの活動範囲、つまり閾値を狭めていくケースは、2020年まででは①の2011年後半から2013年にかけてと、②の2018年から2019年にかけてしかないのです。この分析を施すことで、今後、2025年の春にかけて原油が大きく売られる可能性が浮かび上がります(③)。
相場の急落局面では「在庫を絞る」行動を
このように、足元は株式相場と同様ないしはそれ以上に、原油相場において弱材料が多い局面と言えそうです。相場の先行きは誰にもわかりませんのであくまで推論にしかすぎませんが、とはいえ急落局面に対して準備をしておくことに越したことはなさそうです。
急落局面で最も効果を発揮するのは「在庫を絞る」という点に尽きるかと思います。急落局面では仕入れ価格も下落しますが、同時に需要が鈍化することで高い原価の在庫が残ってしまう傾向にあります。在庫評価損を可能な限り最小化するには、単に相場の下落を横目で見ているだけではなく、需要そのものも減少するという懸念を持ち合わせながら、在庫数量を同時に調整していくことが、有効な対応策といえるでしょう。
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柳本 浩希(やなぎもとひろき)
1985年生まれ。大学卒業後、総合化学メーカーに就職し、石化コンビナートの現場、ナフサの調達、合成樹脂の営業を経験。その後、ナフサ取引の仲介や情報誌の編集責任を務め、2026年5月に炭化水素リサーチ株式会社を創業(https://hc-r.co.jp/)。ナフサと石油化学業界必携のNaphtha Portalを立ち上げる。
