トランプ復権も国産ナフサ高止まり、価格の鍵は米国と相互利益あるサウジに 【石油コンサルがずばり解説】
2025/03/27Chematelsで2025年1月にお届けした前回の記事「トランプ新政権の市場影響を分析!ナフサ価格下押し、国内石化に恩恵も」では、トランプ大統領就任後の先物相場について、原油・ナフサ相場が米国のシェールオイル増産方針を背景に下落していく一方、ドル円の為替は日米金利差を背景に円安圧力が残っていることをお伝えしました。
今回は、2025年1月にトランプ大統領が就任してから2ヵ月強が経過したいま、前回の見立てが正しかったのかどうか検証します。その上で、これまで抽象的な予想にとどまっていたトランプ政権下での米国の外交政策が具体化したなかで、国産ナフサ価格の今後の動きにどのように影響していくのか、検討していきたいと思います。
原油相場はむしろ値上がりの展開に
まず、前回の記事では原油価格について「下落」を見通していましたが、実際は以下のグラフに示した通り、あまり値下がりせず、70ドルから80ドルのボックス圏にて推移していることが分かります(図1)。大統領就任前、トランプ氏は原油増産の戦略を明確にし、「高値の原油相場は実質的にロシアを支援しているようなもの」と、石油相場に対してもっと安値であるべきといった姿勢を明確にしていました。

図1:原油相場の推移
しかし、2025年1月、バイデン政権がその末期において、ロシアからの海上輸出に貢献していた「影の船団」と呼ばれるタンカー所有者や企業に制裁を加えると、最大で世界の石油需要の2%に相当する日量200万バレルものロシアからの石油輸出が滞る可能性が意識され、マーケットは買い支えられました。
トランプ氏は大統領就任後この政策を維持するとともに、新たにイランに対して経済分野などでの強力な制裁を準備していると発表。原油相場は下がるどころかむしろ値上がりする格好となりました。
露・ウ停戦に向けたトランプ氏の「サウジ巻き込み」を深読み

図2:サウジアラビアのラス・タヌラ製油所。トランプ政権の石油をめぐる外交戦略に同国は巻き込まれようとしている
トランプ大統領によるこのような外交姿勢は、石油相場を引き上げにつながるという点で、それまでの下落の予想をもたらす政策と矛盾するようにも映ります。政策姿勢を転換させた真相はわかりません。
しかし、一つの仮説として、米国にとって大きな出費となっているウクライナ支援を一刻も早く止めるために必要な、ロシア・ウクライナ間の停戦を急いでいることが背景的理由に挙げられると思います。それは具体的には次のようなものです。
当初は支援の打ち切りをちらつかせることで、ウクライナに米国向けの鉱物資源の権益を差し出させるなど、ウクライナを懐柔させられると考えていたトランプ大統領は、蓋を開けてみるとそうならず、おそらく戦略の転換を求められたと想定されます。とはいえ、ロシアと直接交渉をしても利害関係が一致しないことから、うまく行くとは思えません。そこでひらめいたのが、石油相場を安定させる点でロシアと一蓮托生の関係にあるサウジアラビアを“てこ”とし、ロシアをサウジアラビアで交渉の席に付かせるという考え方です。
ここで肝となるのが、サウジアラビアとライバル関係にあるイランに対する制裁を米国が実施するという点です。イランは米国から制裁を課されることで石油の生産を減らす可能性があり、そうなればサウジアラビアとしては米国が石油、つまりシェールオイルを増産したところで世界の石油需給は大きく供給過多になる心配がなくなり、相場は保たれると見込めます。米国はサウジアラビアに対して、この対イラン制裁をちらつかせることで、サウジアラビアからロシアに対して停戦圧力をかけることを企図しているのではないでしょうか。
この点で、もしロシアが非協力的となり停戦合意がなされなければ、米国は対イラン制裁を加えないまま石油増産をすることになり、結果として原油相場の下落を招きます。その場合、サウジアラビアは過去あったような単独での増産に踏み切る可能性もあります。そうなると、困るのは外貨収入のほとんどを石油で賄うロシアであり、その意味でこの三国は実は相互に依存し合っていることになります。
そうであるからこそ、トランプ大統領は石油相場の下落をカードに、ロシアと交渉することは棚上げして、サウジアラビアというロシアにとって間接的に国益の核心を担う国を介することで、停戦合意に至る最短ルートを辿るべく方針を転換させたのではないでしょうか。なお、トランプ氏は2025年1月の大統領就任直後、サウジアラビアに石油増産を要請したものの、断られています。

図3:タンカーの往来が激しいホルムズ海峡
以上のように述べた仮説が「真」であり、一部報道で停戦交渉の一つの目途とされている4月20日のイースターまでに停戦合意が結実されれば、ウクライナ戦争という石油のリスクプレミアムを担っていた要素がなくなったとしても、対イラン制裁およびホルムズ海峡の情勢悪化というリスクが再浮上することで原油相場は支えられるでしょう。単に米国の増産と、ウクライナ停戦を想定した前回の記事からシナリオが大きく変わっていることがわかります。仮にそうなれば、足元で堅調に推移している原油相場は、大幅に下落することはないと見込まれます。
円安は続く見通しながら、トランプ氏のFBI関与次第でドル安に転じる可能性も
国産ナフサ価格を構成する要素としてもう一つ重要なのは、ドル円の為替レートです。石油相場と同様に為替相場もトランプ大統領の政権運営によって大きな影響を受けています。前回の記事でインフレが継続する可能性を指摘しましたが、足元では新たな関税の設定が取り沙汰されており、その可能性は高まっています。そのため、米ドルは政策金利を引き下げることが難しい状況であり、日米金利差を背景に円安ドル高の状況が続く見通しです。こちらの要素については前回の記事からシナリオの変更はありません。
ただし、一つ挙げるとすれば、引き続きトランプ大統領が高金利に対する不満を抱いているという点があります。独立機関となっている連邦準備制度理事会(FRB:Federal Reserve Bank)の政策決定にまで大統領の意向が反映させるようにするような法案の成立や大統領令の発動があれば、一方的にドルの金利が引き下げることが可能となることから、ドル安に転じる形になりえます。同時に米国内のインフレも加速し、混乱をきたすことでしょう。そのような可能性もあることを付言しておきます。
相場堅調と円安が続けば、国産ナフサは高値での推移が予想される
今回の話を総合しますと、原油・ナフサ相場が堅調に推移する点や為替相場が相対的な円安の状況が続くことで、国産ナフサ価格は7万円台の高値張り付きの状況が2025年上期にわたり続くことが予想されます。
今後も相場の値動きについては、大きな変化があり次第、このChematelsの記事で分析していきたいと思います。
柳本 浩希(やなぎもとひろき)
1985年生まれ。大学卒業後、総合化学メーカーに就職し、石化コンビナートの現場、ナフサの調達、合成樹脂の営業を経験。その後、ナフサ取引の仲介や情報誌の編集責任を務め、2026年5月に炭化水素リサーチ株式会社を創業(https://hc-r.co.jp/)。ナフサと石油化学業界必携のNaphtha Portalを立ち上げる。
