水質事故防止へ体制づくりや排水基準の把握をー水質汚濁防止法【製造業必見! これだけは知っておきたい環境法令 第5回】
2024/10/08製造業者をはじめとする皆さんに、廃棄物処理などの環境施策を実施してきた元技術系公務員がお届けしている「製造業必見!これだけは知っておきたい環境法令」。第5回のテーマは「水質汚濁防止法」です。工場排水が発生したり、有害物質を扱ったりする企業にとっては、知らないでは済まされない重要な法律です。ここでは規制対象となる特定施設の該当例や排水基準などの基本的なポイントを分かりやすく解説します。
目次
本連載で扱う項目
- 第1回 廃棄物処理法
- 第2回 プラスチック資源循環法
- 第3回 省エネ法
- 第4回 地球温暖化対策法
- 第5回 水質汚濁防止法
- 第6回 大気汚染防止法
- 第7回 土壌汚染対策法
水質汚濁防止法を守るために求められる企業の体制づくりとリスク管理
水質汚濁防止法*1は、工場や事業場から排出される汚水や廃液による、河川や海、地下水などの汚染を防止することを目的とした法律です。この法律を確実に守るためには、専門知識や経験が求められ、工場によっては「公害防止管理者*2」という国家資格者の配置が義務付けられています。
もし工場排水の汚染状態が基準を超えた場合、直ちに罰則が適用されることがあり、一度の違反で企業に深刻なダメージを与えるリスクも存在します。実際に、水質事故を起こし、報道で大きく取り上げられることも少なくありません。
事故の原因が「法律の理解不足」の場合もあり、日頃から、担当者個人だけではなく、組織全体で法令遵守の体制を構築しておくことが重要です。
多くの規制がかかる「特定施設」の設置
水質汚濁防止法の規制対象は、多くの場合「特定施設*3」を設置している事業者です。特定施設とは、汚水や廃液を排出する施設のうち、政令で定めたものを指します。政令の別表に、一から七十四までの項目別に施設の種類が掲げられ、項目によってはさらにイ、ロ、ハ…と細かく施設が分類されています。
一例を挙げると、二十四という項目では、まず「化学肥料製造業の用に供する施設」が掲げられ、さらに「イ ろ過施設」「ロ 分離施設」「ハ 水洗式破砕施設」「ニ 廃ガス洗浄施設」「ホ 湿式集じん施設」と分類されています。
特定施設の設置者には、各種届出義務(図1)を含むさまざまな規制が適用されるため、自社工場の特定施設の設置状況を常に把握しておくことが重要です。

図1:特定施設の設置等の届出書(様式第1)の表紙
(出所:e-GOV法令検索「水質汚濁防止法施行規則」より抜粋)
「排出水」に対し、排水基準が適用される
水質汚濁防止法の排水基準*4の規制は、「排出水」に対して適用されます。排出水とは、特定施設を設置する工場および事業場を指す「特定事業場」から、河川・湖沼・海域などの「公共用水域」に排出される水をいいます。留意点として、特定事業場から公共用水域に流れる水であれば、特定施設からの排水に限らず、トイレなどの雑排水や雨水なども排出水に含まれます。
また、排水基準の項目は、カドミウムなどの「有害物質」と、水素イオン濃度(pH)などの「生活環境項目」に大別されます。項目ごとに基準値が規定されていますが、別途、自治体*5の条例などによって「上乗せ基準」が定められており、法令より厳しい基準値が適用されていることが一般的です。
また、排出水には測定義務とその結果の記録や保存が義務付けられています。
有害物質を扱う施設には「構造基準等」や「定期点検」の義務も
有害物質*6を扱う場合、特定施設の有無に関係なく規制が適用されます。具体的には、特定施設で有害物質を使用、製造、または処理する「有害物質使用特定施設」や、有害物質を貯蔵する「有害物質貯蔵指定施設」を設置する場合、届出義務に加えて、「構造基準等」や「定期点検」の義務*7も課されます。これらの義務は、有害物質が地下に浸透するのを防ぐための措置であり、施設本体だけでなく、付帯する配管や排水溝、床面及び周囲にも適用されます(図2)。

構造などに関する基準の適用範囲イメージ
(出所:環境省「平成26年度 地下水汚染未然防止のための構造と点検管理に関する講習会テキスト」より抜粋)
忘れてはならない「事故時の措置」と「指定物質」
特定事業場で施設の破損などにより、排水基準に適合しないおそれのある水が河川や地下水に流出した場合、「事故時の措置*8」として届出義務が発生します。この措置は、特定事業場に限らず、油の貯蔵などをする「貯油施設等」や、「指定物質*9」などを使用する「指定施設」を設置する事業場にも適用されます。特定施設の設置や有害物質の扱いがない場合でも、忘れないようにしなければなりません。
次回は「大気汚染防止法」を取り上げる予定です。
※ 本記事に記載した内容は、厳密さよりも分かりやすさを重視して情報提供することを目的としたものです。実際の水質汚濁防止法の運用については、法令の原文を十分確認し、行政への問い合わせなどにより対応してください。また、法改正などにより、記事掲載内容から制度が変更されている場合がありますので、環境省のホームページなどで最新情報をご確認ください。
【脚注】
注釈
*1: 水質汚濁防止法
・水質汚濁防止法の関連法令の原文は以下のリンクをご参照ください。
・水質汚濁防止法
・水質汚濁防止法施行令(政令)
・水質汚濁防止法施行規則(省令)
・水質汚濁防止法の施行について(通知)
*2: 公害防止管理者
・公害防止管理者は「特定工場における公害防止組織の整備に関する法律」により定められています。詳細は以下をご覧ください。
・特定工場における公害防止組織の整備に関する法律
・特定工場における公害防止組織の整備に関する法律の施行について(通知)
・一般社団法人産業環境管理協会
*3: 特定施設
・水質汚濁防止法第2条第2項、政令の第1条別表第一などに規定されています。
*4:排水基準
・水質汚濁防止法第3条、排水基準を定める省令などに規定されています。環境省サイトにも掲載されています。
*5:自治体
・特定事業場のある都道府県のホームページなどで条例をご確認ください。自治体によっては、別途、条例で特定施設や対象物質を規定するケースがあります。こうして都道府県および市町村が条例で定める基準を「横出し基準」といいます。
*6:有害物質
・水質汚濁防止法第2条第2項第1号、政令の第2条などに規定されています。
*7:「構造基準等」や「定期点検」の義務
・水質汚濁防止法第12条の4、省令第8条の2から第8条の7、第9条の2の2、第9条の2の3などに規定されています。環境省サイトにマニュアルなどが掲載されています。
*8:事故時の措置
・水質汚濁防止法第14条の2に規定されています。詳細は環境省サイトをご覧ください。
*9:指定物質
・指定物質とは、「公共用水域に多量に排出されることにより人の健康若しくは生 活環境に係る被害を生ずるおそれがある物質として政令で定めるもの」として、 水質汚濁防止法第2条第4項、政令第3条の3などに規定されています。詳細は環境省サイトをご覧ください。
和地慎太郎(わちしんたろう)
ライター(元技術系公務員)。東北大学大学院応用化学修了後、大手製造業で電子材料などの製造開発に従事。その後、地方公務員の化学技術職として、製造業者など多数の企業に対し、廃棄物処理など環境分野での施策を実施。環境省認定制度脱炭素アドバイザー、公害防止管理者、廃棄物処理施設技術管理者の各資格を保有。ビジネス系webメディアや製造業者のwebサイトなどで主に執筆。新著に『ビジネス教養として知っておくべきカーボンニュートラル』(ソシム)がある。
