ゼロカーボン電力「原発」を受け入れるかが未来への論点【実現できる? カーボンニュートラル 第6回】
2024/07/30目次
本連載で扱う項目
- 第1回 エネルギー問題はいつも複雑
- 第2回 二酸化炭素の排出量を減らす
- 第3回 二酸化炭素の回収と貯留
- 第4回 自然エネルギーの現状
- 第5回 カーボン循環の構想
- 第6回 原子力発電を受け入れるかどうか
カーボンニュートラルについて考えるとき、重大な決断を迫られるのが「原子力発電を受け入れるのか」という問題です。運転中はほぼ二酸化炭素(CO2)を排出せず、大きな電力を安定して供給できるエネルギー発生装置は、現在のところ核分裂による原子力発電しかありません。しかし、福島第一原子力発電所事故の記憶が残る日本では、まだ反発も強いようです。ここでは情報をできるだけ客観的に伝えるように努めますので、判断は、皆さんにおまかせします。
環境対策への取り組みが進む産業部門

図1:部門別の二酸化炭素排出量の推移
(出所:環境省、国立環境研究所「2022年度の温室効果ガス排出・吸収量(概要)」より引用)
最初に、日本における部門別の二酸化炭素排出量の推移を見てください(図1)。最も多いのは産業部門で、2位グループの運輸部門、業務その他部門、家庭部門の2倍近くになることから「工場のせいで温暖化が進んでいるんだ」と憤る人がいるかもしれませんが、それは誤った考え方です。
製造業は私たちの生活を支えているだけでなく、国内外の経済に大きく貢献しているのですから、ひとごとでは済まされません。しかも、1990年度の数字と比べると二酸化炭素の排出量は約3割も下がっており、環境対策に力を入れてきたことが分かるのです。それに対して、家庭部門は近年、減少しているとはいえ、1990年度比較では増えているのですから、「工場が悪い!」と叫ぶ前に、もう少し自分たちの生活を見直してみるべきだと思います。
全体的に見ると、自動車などの運輸部門や発電などのエネルギー転換部門は着実に下がってきており、これは自動車メーカーや電機メーカー、電力会社といった関連企業の努力が実ったからで、この点はきちんと評価してほしいですね。一方、商業やサービス業などの業務その他部門では対策が後手に回っている感じで、「優等生の二次産業、劣等生の三次産業」という対比が明確になってきています。
2030年度CO2削減目標へ、伸び悩む再生エネ

図2:総合エネルギー統計における電源構成の推移。事業用発電および自家用発電を含む国内全体の発電施設が対象
(出所:環境省、国立環境研究所「2022年度の温室効果ガス排出・吸収量(概要)」より引用。元データは資源エネルギー庁「エネルギー需給実績、2030年度におけるエネルギー需給の見通し(関連資料)」)
次に、電源種別の発電電力量の推移を見てみましょう(図2)。東日本大震災以前の2010年度、原子力発電のシェアは約25%ありました。原子力発電、それに当時は主に水力発電で占められていた再生可能エネルギーを合計した約35%が「運転中は二酸化炭素をほぼ出さない」電力、つまりゼロカーボン電力になります。震災後、ほとんどの原子力発電所が運転停止となり、多少、復活してきた2022年でもシェアは約5.5%です。太陽光や風力発電を加えた再生可能エネルギーを合わせても約27%であり、2010年度に比べて大きく低下しているのです。
日本政府は、2015年に採択されたパリ協定*1に基づき、2030年に温室効果ガスの排出量を2013年度比で46%減少させるという目標を掲げています。このグラフの2030年度の数字は、まさにそのための期待値なのですが、再生可能エネルギーのシェアをここまで増やせるかといえば、かなり厳しいといわざるをえません。なぜなら、太陽光や風力発電の導入ブームが始まった2014年度以降は順調な伸びを示しているものの、ここ最近は頭打ちという感じがしないではないからです。正直いって、エネルギーにある程度、詳しい人であれば「3割行けば御の字」と思っているのではないでしょうか。
そうなった場合、原子力発電のシェアを30%程度まで上げないと目標は達成できません。さらにその先、理想的なカーボンニュートラル社会の実現を目指していくなら、エネルギーの多くを原発に頼る方法が最も簡単で確実なのです。カーボンゼロ電力が大量かつ安定的に供給されれば*2、工場などの産業分野では化石燃料から電力へのエネルギー転換が積極的に行われるでしょうし、電気自動車(EV:Electric Vehicle)の普及も促進されます。そういう意味でも、電源構成比の問題は非常に重要なのです。
もちろん、エネルギー政策は国民の総意に基づいて決定されるべきなので、ここで提示した資料以外も題材に、活発な議論が行わればいいと思っています。
クリーンエネルギーの主役候補、水素とアンモニアで二分
最後に、2030年度の電源構成比で、わずか1%であるものの、ようやく現れた水素とアンモニアについて解説しておきます。水素エネルギーは、燃料電池自動車(FCV:Fuel Cell Vehicle)で使うときのように電力として活用する事例が知られていますが、水素を燃焼させても水しか排出されないため、エンジンを駆動させて動力、つまり運動エネルギーを得る方法も研究されています。以前の連載「次世代自動車の最前線」の第5回「ちょっと変わった次世代自動車」で紹介したマツダの水素ロータリーエンジン車もその一つです。最近ではトヨタ自動車が液体水素を燃料にしたレシプロエンジンの開発に成功しており、燃料電池以外でも利用範囲が広がりそうです。
アンモニアを燃料に使う構想も日本が先行して進めています。アンモニア(NH3)は窒素(N)と水素(H)で構成される化合物ですが、酸素(O2)があるところで加熱すれば燃焼し、熱エネルギーを得られるのです。しかも、排出されるのは水(H2O)と窒素(N2)だけで、二酸化炭素(CO2)は出ません。天然ガスの主成分であるメタンとの燃焼の違いを化学式で示します。
アンモニア燃焼の一例
4NH3 + 3O2 → 2N2 + 6H2O
メタン(天然ガス)の燃焼
CH4 + 2O2 → CO2 + 2H2O
アンモニアの燃焼でも有害な窒素酸化物(NOx)が発生する場合がありますが、もともと、アンモニアは次のような反応を利用してNOxを取り除くのに利用されていたくらいですから、同じ処理をすることで排気をクリーンにできるはずです。
NOx + NH3 → N2 + H2O
アンモニアは刺激臭のある毒性の劇物ですが、化学肥料の原料として100年以上前から工業的に利用されているためハンドリングの技術は完成されていますし、大量生産も可能です。製法としては、天然ガス由来のメタンに高温の水蒸気を反応させて水素だけ取り出す水蒸気改質法を行い、次にその水素と窒素を高温高圧下で合成させるハーバー・ボッシュ法を行うのが一般的で、その過程では二酸化炭素が発生するものの、純度が高い形で回収できるため、効率的に処理することができます。

図3:水素とアンモニアの製造・利用フローの一例
(筆者作成)
水素とアンモニアの製造・利用フローの一例を図にしてみました(図3)。これを見ると、実はどちらも同じような工程を経ており、兄弟とか親戚のような関係であることが分かると思います。つまり、「水素をそのまま利用するか、一手間かけてアンモニアにするか」といった違いしかないのです。それなら、水素エネルギーのほうが手っ取り早い気がしますが、水素は液体でも気体状態でも温度管理などに高度な技術が欠かせません。この点、密閉さえきちんとしておけば常温常圧でも液体として安定しているアンモニアのほうが輸送や貯留は簡単です*3。
もっとも、技術は常に進歩していくものなので、将来、水素とアンモニアのどちらがエネルギーとしての主役になるのかよく分かりません。このため、エネルギープラントに実績のある国内大手重工業会社3社でも、川崎重工業は水素、IHIはアンモニア、三菱重工業は両方という形で注力の対象が分かれているほどです。カーボンニュートラルへの切り札になるかもしれない新エネルギーだけに、今後の動向に注目が集まっています。
「実現できる? カーボンニュートラル」は今回で終了です。お読みいただきありがとうございました。
【脚注】
*1:パリ協定
国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)が開催されたフランスのパリで2015年12月12日に採択された、気候変動抑制に関する多国間の国際的な協定。それに基づきすべての国に温室効果ガスの排出削減目標を「国が決定する貢献」(NDC:Nationally Determined Contribution)として5年ごとに提出・更新する義務が生じた。
*2:大量かつ安定的に供給されれば
太陽光と風力発電は規模の拡大に限界がある上、供給される電力が不安定で品質的にも劣るため、工場などの電源にはあまり向きません。この点でも、電圧や電流、周波数などにブレがない電力を24時間365日安定して供給してくれる原子力発電は有利です。
*3:アンモニアのほうが輸送や貯留は簡単
輸送や貯留のしやすさから、アンモニアを火力発電の燃料にしようという試みも進められています。もしかすると、「自動車などの小さな機器は水素」「発電所などの大きな施設はアンモニア」と、すみ分けが進むかもしれません。
石川 憲二(いしかわけんじ)
ジャーナリスト、作家、編集者 1958年東京生まれ。東京理科大学理学部卒業。30年以上にわたって企業や研究機関を取材し、技術やビジネスに関する解説記事を書き続けている。扱ってきた領域は、電気・電子、機械、自動車、航空・宇宙、船舶、材料、化学、コンピュータ、通信、システム、ロボット、エネルギー、生産技術、知的財産、経営、人事、マネジメントなど。
