ちょっと変わった次世代自動車【次世代自動車の最前線 第5回】
2021/02/15
さまざまな次世代自動車が開発されているなか、マイナーながら技術的に興味深い研究も行われてきました。今回はそのいくつかを解説する「箸休め」的な記事です。
第4回はこちら:自動運転車が起こす交通革命
■地域交通に有効な圧縮空気車
ペットボトルロケットは知っていますよね。1.5リットルほどの「タンク」に空気を圧縮して詰め込んだだけで、水平方向なら1キロメートル近く飛び、最高時速は250キロメートルを超えるそうですから、かなりパワフルです。そんな圧縮空気の持つエネルギーを活かし、自動車を走らそうというアイデアがあります。実は「エアエンジンカー」という子供向けのおもちゃは市販されており、それを大型化して人が乗れるようにするわけです。
冗談のような話ですが、実用化を期待する理由はいくつかあります。まず、燃焼を伴わず高温にならないので、エンジンはプラスチック製でも大丈夫です。また、エアタンクとエンジンさえあれば動くので、複雑な仕組みは必要ありません。もちろん、有害なガスも出さず、環境にやさしい乗りものです。なお、圧縮空気は、一般的にはモーターで動かすコンプレッサーでつくるので、圧縮空気車は電気自動車の変種といってもいいでしょう。

図1 圧縮空気車(エアエンジン)の仕組み
圧縮空気車の航続距離を延ばすには軽量で高圧に耐えるエアタンクが必要ですが、燃料電池車用の水素タンク開発で培われた技術を活かせば、それほど難しくはありません。現状でも1回の給気で200キロメートルほど走れるそうですから、近距離用ならそれでも十分です。
駆動系がシンプルな圧縮空気車であっても、既存の自動車と同じ性能を追求したら、頑丈なボディや高度な制御システムが必要になり、「簡単・軽量」という長所を活かせなくなってしまうかもしれません。その点、離島や山村など特定のエリアだけで移動に使う簡易自動車として開発すれば、需要はかなりありそうです。さらに、地域内の地熱や風力を利用した電力でコンプレッサーを動かせば、エネルギーの地産地消が実現します。そういう意味では、もっと応援していきたい次世代自動車ですね。
■水素インフラを活かしたエンジン車
一方、燃料電池車の普及に向けては、水素ステーションの設置が進んでいます。せっかくなら、そのようなインフラをもっと活用できないでしょうか。
水素は空気(酸素)と混ぜれば燃焼させることができます。従って、ガソリンと同じように水素でエンジンを動かすことが考えられています。その場合、排出するのは水だけ(*1)ですから、かなりクリーンな燃料といえます。
ただし、水素はガソリンに比べると12倍着火しやすいそうで、燃焼のタイミングが難しいレシプロエンジン(*2)の燃料には向きません。そこで注目されたのが、ロータリーエンジンでした。難しい説明は省きますが、ロータリーエンジンは構造上、ガソリンより水素を燃料にして動かすほうが向いていると断言する専門家までいます。

図2 マツダの水素ロータリーエンジン車「RX-8 HYDROGEN RE」。ヌマジ交通ミュージアム(広島市交通科学館)にて
この分野で世界トップの技術力を誇るマツダは1989年から研究を続け、2006年には水素ロータリーエンジンを搭載したRX-8のリース販売を実現しました。その段階では水素インフラが整備されていなかったことから開発の継続は断念したものの、水素社会を目指す動きが活発になってきた現在、新たな動きが始まるかもしれません。
■キャパシタで市内バスをEV化
電気自動車は普及が進んでいますが、航続距離を延ばすには、大きなバッテリーを搭載しなければなりません。また、どんなに高性能の電池が開発されたとしても、充電にはそれなりの時間がかかります。こうした欠点を解消する車として期待されているのがキャパシタ電気自動車です。

図3 キャパシタ(コンデンサ)の仕組みとバスなどへの応用
キャパシタはコンデンサとも呼ばれます。回路を見ると、一部がわずかな距離をあけて分断されています。ここに電荷をかけると、向かい合った電極の間に電気が蓄えられるのです(テレビの実験番組でアルミホイルを巻いたコップに静電気を貯めるのと同じ仕組みです)。
電力を化学エネルギーに変換する電池と違い、電気そのものが蓄えられているので、充電も放電も非常に高速に行えます。劣化もほとんどしません。しかしその一方で、蓄えられる電力は電池に比べたらわずかです。折り畳み式にして電極の面積を広げれば容量は増えるものの、それでも1回の充電で自動車が走行できる距離は、せいぜい数キロメートルでしょう。
しかし、そうした悪条件が問題にならない交通機関であれば、勝機はあります。たとえば市内を走る路線バスであれば、停留所に非接触式の給電装置を路面に埋め込むことで「ちょこちょこ充電」が可能です。同じく路面電車も、キャパシタ方式なら架線は必要ないため、線路を敷設するだけで開業でき、導入しやすくなります。将来的には交差点で信号待ちする間に充電できる装置や、走行中に道路から無線で充電できるシステムの開発も期待されています。そうなるとキャパシタ電気自動車への期待はぐっと高まってくるはずです。
*1:排出するのは水だけ
燃焼させた場合、空気中の窒素と酸素が高温で反応し、窒素酸化物(NOx)が発生します。このため、除去装置を付けるか、酸素だけを取り込む必要があります。
*2:レシプロエンジン
最も一般的なエンジン(原動機)で、ピストンを往復運動(reciprocating action)させることにより回転運動の力学的エネルギーを取り出す。
石川 憲二(いしかわけんじ)
ジャーナリスト、作家、編集者 1958年東京生まれ。東京理科大学理学部卒業。30年以上にわたって企業や研究機関を取材し、技術やビジネスに関する解説記事を書き続けている。扱ってきた領域は、電気・電子、機械、自動車、航空・宇宙、船舶、材料、化学、コンピュータ、通信、システム、ロボット、エネルギー、生産技術、知的財産、経営、人事、マネジメントなど。
