ハイブリッド車は日本のハイテクの塊【次世代自動車の最前線 第2回】
2020/08/18
次世代自動車について取り上げる本連載。今回は、ハイブリッド車の技術について紹介いたします。
第1回はこちら:電気自動車の可能性と限界
■HVの販売台数はEVの7倍!?
ガソリン車に続く次世代自動車として、最も成功しているのはハイブリッド車(HV)です。1997年にトヨタ自動車が世界初の量産HV「プリウス」を発売して以来、日本のメーカーを中心に次々と新製品が発表され、2020年4月には累計販売台数が1500万台を突破しました。
なお、HVは日本国内でしか売れない特殊な自動車だと勘違いしている人がいますが、そんなことはありません。2019年の総販売台数約260万台のうちの約140万台は国外市場向けであり、その価値は世界的にも認められているのです。
一方、電気自動車(EV)の年間販売台数は約180万台まで伸びており、それだけを見れば、かなり迫ってきているように感じます。しかし、そのうち6割以上は、国家戦略の一部としてEVの普及を進めてきた中国におけるもので、消費者の自由な意思による結果とはいえません。従って、その分を差し引くと、現状ではHVとEVの市場競争力には7倍近い開きがあるのです。
■HV開発はマイナスからのスタート

図1 ハイブリッド車の構造
そんなおなじみのHVですが、ガソリン車に比べて、なぜ、燃費がよくなるのか(同じ排気量だと2〜3割は向上します)、分かっているという人は、案外少ないようです。最初にHVの構造図を示します(図1)。
上半分がガソリン車やディーゼル車など、いわゆる「エンジンだけで走る」一般的な自動車のものです。さらにそこへEVと同じパワーユニットを載せるのですから、普通に考えたら、「重くて燃費の悪いクルマ」ができあがるだけです。つまり、HVの開発はマイナスからのスタートになりました。
ここでもう1つ、エンジン性能曲線のグラフを見てください(図2)。

図2 エンジン性能曲線(例)
これは一般的なガソリンエンジンのもので、回転数によって大きく性能が変わります。燃費についていえば1分間に3000回転あたりがベスト。加速力につながるトルクは3000〜5000回転でもっとも高くなります。従って、この回転数をキープしていれば最も効率がよくなるのですが、なかなかそうはいきません。トランスミッションで加減速しても運転中は頻繁にアクセルやブレーキを操作し、回転数を調整しなければならないからです。
実に困難な課題ですが、日本のメーカーだけが真剣に取り組み、「モーターを併用することでエンジンの回転数を最適にコントロールする技術」を完成させました。特にトヨタ自動車が実現させた「スプリット方式(*1)」は特殊なギアと高度な制御システムによってエンジンとモーターの動力を調整しながら組み合わせるという魔法のようなクルマであり、この分野を完全にリードしています。
■HVが強い会社はEVにも強い
技術に詳しくない人は「HVはEVへの繋ぎであり、そこに執着する日本のメーカーは世界の趨勢に乗り遅れている」と批判します。しかし本当にそうなのでしょうか?
もう一度、図1のHVの構造図を見てください。言うまでもなく下半分はEVと同じです。つまり、HVを市販していくには高度なエンジン制御技術に加えてEVに必要な技術も開発していかなければならないのです。
日本の自動車メーカーは四半世紀近くにわたりHVを市場に送り込み、実績を重ねてきました。言い換えれば、「ほぼEV」を累計で1500万台も完成させ、多様なユーザーに利用してもらうという実地試験を続けてきたことになります。それによって得たノウハウは、HVを開発できなかった海外メーカーにはありません。
次世代車の未来を読み解くとき、市場や政策の動向だけでなく、技術の筋といったものも重要になってきます。そういう意味では、多様なテクノロジーを組み合わせないと作れないHVこそが歴史上のメルクマール(指標)だったのです。
次回は、燃料電池車をテーマとして取り上げます。第3回もぜひお付き合いください。
*1 スプリット方式
ほとんどのHVはエンジンとモーターのどちらかが優先される方式だが、トヨタだけは状況に応じて両者のメリットを最大限に発揮させる方式を採用している。詳しく知りたい人は「トヨタ・ハイブリッド・システム(THS)」で検索を。動力分割機構である遊星歯車の図は、技術好きならほれぼれしてしまうはず。
石川 憲二(いしかわけんじ)
ジャーナリスト、作家、編集者 1958年東京生まれ。東京理科大学理学部卒業。30年以上にわたって企業や研究機関を取材し、技術やビジネスに関する解説記事を書き続けている。扱ってきた領域は、電気・電子、機械、自動車、航空・宇宙、船舶、材料、化学、コンピュータ、通信、システム、ロボット、エネルギー、生産技術、知的財産、経営、人事、マネジメントなど。
