自動運転車が起こす交通革命【次世代自動車の最前線 第4回】
2020/12/21

ハイブリッド車や電気自動車、燃料電池車といった新しい動力で走るのが次世代自動車なら、ドライバーを必要としない自動運転車は次々世代自動車といえます。普及すると、自動車だけでなく交通体系そのものを大きく変えるかもしれません。
第3回はこちら:燃料電池車は自家用より商用
■2050年ごろには完全自動運転車が実現か?

図1 運転自動化へのステップ
最初に自動運転車の開発ステップを整理しておきましょう。図1は米国運輸省道路交通安全局による定義で、日本でもこれに基づき政策立案などが行われています。補足しておきますと、レベル0は運転者が全て操作する一般的なクルマ、レベル1はそれに自動ブレーキやクルーズコントロール(オートクルーズ)などの安全運転支援システムが加わったものです。レベル2になると、加速や操舵、制動のいくつかをシステムに任せることができます。レベル3以上は機能的には全ての運転操作をシステムで行うことが可能ですが、実証を重ねながら、運行可能な領域を拡大していくイメージです。
それでは、レベル5の完全自動運転車がいつ実現するのかというと、人工知能(AI)の開発動向などから予想すると、2050年あたりが1つの山になるのではないかと筆者は考えています。というのは、AIの能力が完全に人類の頭脳を上回る転換期を「シンギュラリティ(技術的特異点)」と呼び、予測では2045年ぐらいに来るのではないかといわれているからです。さらに自動運転車用のハードウェアやソフトウェアの開発期間を加えると、そんなところではないかと思います。
自動運転システムで重要なのは道路の認識です。走行可能な場所を特定できれば、後は目的地までのルート設定機能と、事故を防止する安全機能を完成させることで、運転を機械まかせにすることができます。
自動運転システム開発が開始された当初はセンサーなどの性能が低かったので、道路そのものを正しく認識することができませんでした。このため、路面の下や側面にガイドとなるアンテナなどを設置する方式が考えられたのです。その後、カメラと画像解析技術の進歩により、路上に描かれた白線などから道路を認識することができるようになり、さらに最近では周囲の景色を分析することでも道路の位置をかなり正確に判断できるほどになりました。
ただしこの段階では「機械の目」は、まだ「人間の目」には勝てません。すぐれたドライバーのように「道なき荒野」を走破できなければ、林道などに入ることができないからです。しかし、この問題もすぐに解決されるでしょう。機械の可能性は無限なので、可視光線用のカメラに加えて赤外線カメラや電波レーダーなども装備すれば、人が運転するよりはるかに安全なクルマになります。草で隠れた障害物や、飛び出す前の歩行者なども発見できるでしょう。そのときいよいよ、完全自動運転車は現実のものとなるのです。
■自動車は個性を失い標準化する

図2 完全自動運転車の世界(イメージ)
図2は完全自動運転車の世界のイメージです。完全自動運転車が走るようになると、世の中の風景は一変すると思います。というのも、事故を起こす確率は限りなくゼロに近いのですから、乗っている人を守る強固な車体は必要ありません。それこそ、プラスチック製の薄いボディでもいいのです。さらにシートベルトやエアバッグがいらないどころか、畳敷きにして寝転んでいてもかまいません(そもそも運転席がありませんが)。
もし事故が起きるとすれば、不安定な「人が運転するクルマ」がぶつかってきたときだけですから、公道では自動運転車以外は通行禁止になる可能性があります。自家用新幹線を勝手に走らせるのが許されないのと同様に、自動運転車は鉄道に準じた扱いになるのです。
事故防止の技術が高くなれば、「人の運転能力」を基準にした制限速度も意味がなくなり、幹線道路であれば今の高速道路並みのスピードで移動できるかもしれません。そうなると、「人が運転するクルマ」が併走するのが不可能であり、そういう意味でも自動運転車以外通行禁止のエリアは拡大していきます。
利用のしかたも現在の自動車とは大きく変わります。スマートフォン(スマホ)などの端末で乗車を申し込み、自動的に配車されるクルマに乗り込めば、後は目的地まで勝手に運んでくれるのです。降りた後は、近くの駐車場(待機所)に向かい次の出動を待ちます。つまり、感覚としては自動車というよりも、ちょっと複雑なエレベーターというイメージになると思います。
その結果、私たちはクルマへの関心を一気に失うでしょう(*1)。読者の皆さんの中には、普段乗っているはずのエレベーターのメーカーやデザインをよく把握していないという方も多いと思いますが、自動運転車もそんな、「運んでくれれば何でもいい」という存在になるのではないでしょうか。そんなクルマが、道路の上で列を作りながら規則的に走って行く。人が運転するよりも車間距離は短く、速度も上げられるので、人がまるでベルトコンベアで運ばれる荷物のようになり、なんだかつまらない風景ですね(笑)。
もちろん、これはかなり過激な予測であり、自動運転車の普及が限定的なものに終わる可能性もないわけではありません。それも含め、この分野の未来から目が離せないのです。
次回は、ちょっと変わった次世代車を紹介します。次回もぜひお付き合い下さい。
*1:「クルマへの関心を一気に失うでしょう」の件:自動車ファンのためのメディアやイベント(レースなど)も大きく変質していくと思われ、20世紀に花開いた「自動車文化」が消滅するかもしれません。
石川 憲二(いしかわけんじ)
ジャーナリスト、作家、編集者 1958年東京生まれ。東京理科大学理学部卒業。30年以上にわたって企業や研究機関を取材し、技術やビジネスに関する解説記事を書き続けている。扱ってきた領域は、電気・電子、機械、自動車、航空・宇宙、船舶、材料、化学、コンピュータ、通信、システム、ロボット、エネルギー、生産技術、知的財産、経営、人事、マネジメントなど。
