蓄電池の進歩はウサギかカメか? リチウムイオン電池の課題と全固体電池への期待【次世代自動車の最前線 番外編】
2020/10/19

次世代自動車について考えるこのシリーズ、第1回の電気自動車(EV)について取り上げた記事で、そのキーテクノロジーとなる蓄電池(二次電池)の性能向上が簡単ではないということを書いたところ、編集部から「もう少し詳しく教えてほしい」とのリクエストがありました。そこで今回は番外編として、蓄電池について掘り下げてみたいと思います。
■電子とイオンでは競走にならない
まず、現在はEVの電源として一般的となったリチウムイオン電池(*1)の構造について解説します。リチウムイオン電池は液体電解質の中をリチウムイオンが移動することで充電と放電を行います(図1)。

図1 リチウムイオン二次電池の構造
ここで問題になるのが、電流、つまり「電子の動きとリチウムイオンとの速度差」です。電子が電気回路を通過する速度は光速に近く、放電中であれば負極から正極に一瞬で到着します。これに対して、リチウムイオンは電解質の「海」を通って負極側から正極側に向かわなければなりません。このため、負極側に貯めていた電子を使い切れば放電は出来なくなります。また、完全に充電するまでには多くのリチウムイオンを正極側から送り出す時間が必要になるのです。
電解質の中で正極側と負極側を分離しているのがセパレータです。これがなければ電池内部に電流が流れてショートしてしまいます。そこで、リチウムイオンだけが通りやすいように直径20~100nm(*2)の穴を均質に開けたポリエチレンフィルムなどが使われるのです。原子が最外殻の電子を失って陽イオンになると大きさは半分程度になるので、こんな小さな穴でも余裕で通れますが(リチウムのイオン半径は0.059nm)、それでもセパレータの品質次第ではそこが通行の障害になるはずで、このあたりも電池の性能に大きく関わってきます。
なお、トラブルが起きて電池が発熱した場合、セパレータフィルム(*3)が溶けることで、穴が塞がり、内部ショートによる事故を防ぎます。こんなところにも「知られざる技術」が生かされているのは、面白いですね。
■150年以上前の技術が通用する世界
ここで時代をさかのぼり、蓄電池の技術進歩の歴史について考えてみましょう。図2に主要な蓄電池についての比較をまとめます。

図2 主要な蓄電池の比較
実用的な蓄電池として最初の発明は鉛蓄電池で、「鉛の電極+希硫酸」というシンプルな構造から安価に製造できることもあり、広く普及しました。今でも自動車用のバッテリーや無停電電源装置(UPS)として使われており、150年以上前のテクノロジーがいまだに現役だというのは驚きです。
過去、あのトーマス・エジソンを含む多くの発明家が鉛電池の代替品を開発しようと挑戦してきましたが、皆、挫折しています。そして1990年代にニッケル・水素電池とリチウムイオン電池が実用化されるまで、価格なども含めた総合的な性能面で上回ることはできませんでした。それを見ても、蓄電池の技術革新が簡単には進まないことが分かるでしょう。
EVの走行距離(航続距離)を飛躍的に伸ばすには蓄電池を小型化・大容量化するしかありませんが、それは内部のエネルギー密度を高めることになり、事故のリスクを上昇させます。従って「理論的には超高性能」といった電池が実験室レベルで発明されたとしても、安全性の担保やコストダウンを実現して商品化されるまでには20~30年はかかるはずで、EVがガソリン車に完全勝利する日は、まだまだ先なのです。
■全固体電池は革命を起こせるのか?
リチウムイオン電池は画期的な高性能蓄電池として、EVの性能を大きく向上させることに貢献しました。しかし、前述したような「電子とリチウムイオンの速度差問題」に加え、電解液に可燃性の有機溶媒が使われることから、設計上の不備や無理な利用によっては発熱し、最悪、爆発の危険性があります。
そんな欠点を一気に解消してくれるかもしれないのが、現在、開発が進められている全固体電池です。従来、液体だった電解液を固体電解質にしたもので、爆発はもちろん、劣化や液漏れといった心配がなくなり、安全性の向上と長寿命化につながります。また、固体電解質の中に設けられた通路をリチウムイオンが移動するので、充電時間も数分以内に収まるとか。エネルギー密度(容量)や耐用サイクルもリチウムイオン電池を大きく上回るとされており、なんだか夢のような話です。
筆者は「うまい話には乗らない」タイプなので、全固体電池の話が出るたびに「ホントに実現できるの?」と疑っていたのですが、最近、トヨタ自動車(トヨタ)がかなり本気で開発を進めており、「2025年ごろにはEVに搭載されるのでは」といった情報も出てきました。「石橋をたたいても渡らない」といわれるほど堅実なメーカーであるトヨタが、ここまで入れ込むにはそれなりに勝算があるはず。5年後なのか10年後なのか30年後なのかは分かりませんが、もしかするとEVが大きく進歩するのかもしれません(それでも筆者は、ガソリン車は生き残ると思っています)。
次回は再び通常編に戻り、自動運転車について解説します。
*1:リチウムイオン電池
リチウムイオンを利用した電池にはボタン型の一次電池(放電のみの使い捨て電池)もあるため、正確にはリチウムイオン二次電池としなければいけないのですが、慣例的には、一次電池をリチウム電池、二次電池をリチウムイオン電池と呼ぶことが多いので、ここではそれに従います。
*2:nm
ナノメートル(nanometre)を表し、1nmは1mmの100万分の1。
*3:セパレータフィルム
詳しく知りたい人はこちらの資料をお読みください。
The TRC News・2017年5月号LIB特集号『リチウムイオン2次電池用セパレータ開発動向』(東レリサーチセンター)
石川 憲二(いしかわけんじ)
ジャーナリスト、作家、編集者 1958年東京生まれ。東京理科大学理学部卒業。30年以上にわたって企業や研究機関を取材し、技術やビジネスに関する解説記事を書き続けている。扱ってきた領域は、電気・電子、機械、自動車、航空・宇宙、船舶、材料、化学、コンピュータ、通信、システム、ロボット、エネルギー、生産技術、知的財産、経営、人事、マネジメントなど。
