火力のCO2削減「石炭にデメリット、天然ガスにメリット」は単純すぎる【実現できる? カーボンニュートラル 第2回】

2024/05/30
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目次

本連載で扱う項目

  • 第1回 エネルギー問題はいつも複雑
  • 第2回 二酸化炭素の排出量を減らす
  • 第3回 二酸化炭素の回収と貯留
  • 第4回 自然エネルギーの現状
  • 第5回 カーボン循環の構想
  • 第6回 原子力発電を受け入れるかどうか

カーボンニュートラルを目指す上で、石油・天然ガス・石炭の扱いが最大の課題であることは、この連載の第1回「エネルギー問題はいつも複雑」で説明しました。しかし、これら化石燃料について、私たちはどれだけ知っているでしょうか。石炭火力発電は本当に環境に悪いのか。その実態について考えてみましょう。

「石炭は悪で、天然ガスは善」という見方はあるが…

日本の一次エネルギーにおいて石油・天然ガス・石炭の化石燃料が8割以上を占めることは、エネルギーバランス・フローを見れば明らかです。従って、カーボンニュートラルを実現していくにはこれらの比率を大幅に下げるか、あるいは、「化石燃料を使ってもできるだけ二酸化炭素を放出させない」方法を考えて実行するしかありません。

環境問題への関心が高くなっている現在、「天然ガスはクリーンエネルギー」といった主張をよく聞きます。たしかに、同じ熱量を発生させた場合の燃焼生成物が、石炭や石油に比べて飛躍的に少ないのは事実です。

天然ガスの二酸化炭素発生量が石炭や石油に比べて少ないのは、燃焼までの「手間」が少ないからです。天然ガスの成分のうち約9割を占めるのはメタン(CH4)であり、火を着けるとすぐに下記のような化学反応が始まり、熱を発生します。

CH4 + 2O2 → CO2 + 2H2O

これに対して、石炭や石油の場合は熱分解により揮発分、つまりガスや、チャーと呼ばれる炭素質物質が発生することで、ようやく「燃焼・発熱」という段階に移りますから、この行程に必要なエネルギーの分、発熱量が少なくなるのです。その結果、二酸化炭素の排出量も多くなってしまいます。

窒素酸化物(NOx)は高温燃焼中に空気中の窒素(N)と酸素(O)が結びついて生成され、硫黄酸化物(SOx)は燃料に含まれる硫黄分(S)と酸素(O)の反応によって生まれます。どちらも酸性雨や光化学スモッグの原因になりますが、天然ガスでは燃焼温度が比較的、低いことから空気中の窒素との反応が少ないのに加え、成分にほとんど硫黄を含まないことから、NOxやSOxはほぼ発生しません。

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図1:化石燃料の燃焼生成物発生量比較。単位発熱量当たり。石炭を100とした場合
⁠(出所:INPEX「天然ガス 見て・知って館」データを参考に編集部作成)

こういう説明をすると、「いますぐ天然ガスに変えるべき」と主張したくなりますが、ちょっと待ってください。エネルギー問題はそんなに単純ではないのです。

日本の石炭火力発電は「優等生」

次のグラフを見てください。これは主要国の石炭火力発電に関して熱効率推移を調べたものですが、日本の成績がずば抜けて高い*1ことが分かるでしょう。「環境先進国」を標榜するヨーロッパ諸国に比べても5ポイントくらい上ですし、世界の発電電力量で約4割を占める中国・インドとは10ポイント近い差を付けています。ちなみに、この両国に米国を加えた発電電力量世界トップ3の石炭火力発電所に日本のすぐれた技術を導入すれば、削減できるCO2の量は約11.6億トンになり、これは現在の世界のCO2排出量の約4%に相当するそうです。

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図2:各国の石炭火力発電の熱効率推移
⁠(出所:Ecofys「International comparison of fossil power efficiency and
CO2 intensity - Update 2018」、電源開発「もっと知ってほしい石炭火力発電 世界最高水準の発電効率」の各データを基に編集部作成)

日本はエネルギー資源のほとんどを輸入に頼っていることから、1970年代以降、政府主導で省エネルギー技術の開発が積極的に行われました「。欧米と比べても30年以上のアドバンテージがあり、その成果がこんな数字に表れているのです。ちなみに、そのとき太陽光発電の研究も多くの企業で活発に行われたため、太陽電池の基本技術はすべて日本製だといっても過言ではありません。

NOxとSOxについても、日本の石炭火力発電所には、敷地面積の半分を占めるほどの脱硝・脱硫プラントが併設されており、欧米先進国と比べても排出量は非常に少ないのです。残念なことに、途上国ではこれら環境プラントの設置が義務付けられていないケースが多く、同じ火力発電といっても同列には語れません。

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図3:石炭火力発電におけるNOx・SOx排出量の国際比較
⁠(出所:電源開発「もっと知ってほしい石炭火力発電 日本の石炭火力発電所はクリーン」を参考に編集部作成。排出量はOECD. Stat Extract、発電量はIEA Monthly Electricity Statisticsによる)

つまり、化石燃料の中でも環境に悪いと思われている石炭であっても、技術革新によって効率的でクリーンなエネルギーにすることは可能なわけで、そのような努力の成果をまったく知らずに「石炭火力発電をすぐに廃止して天然ガスに切り替えろ」と叫ぶのは、正しい環境対策とはいえません。もちろん、最終的にカーボンニュートラルを目指すためには化石燃料の使用を減らしていく必要がありますが、「化石燃料を効率よく利用しながら、省エネや二酸化炭素の回収・固定の技術を確立していく」という手順を踏むほうが合理的に環境保全を進められるのではないでしょうか。

エネルギー政策の最小単位は30年

もう一つ、天然ガスに関して多くの人が誤解していることがあります。石炭や石油に比べて環境負荷が低いのは事実なので、徐々にシェアを上げていきたいのですが、「じゃあ、明日から」とはいきません。

考えてみて下さい。石炭は箱を浮かべたような、バルクキャリアとも呼ばれるバラ積み船で安価かつ大量に輸送でき、火災にさえ注意すれば地面に山積みして貯蔵することも可能です。石油は専用の油槽船や備蓄設備が必要なものの、それほど厳しい管理が求められるわけはありません*3。

これらと比べると天然ガスは非常にやっかいな燃料です。産出したらすぐにマイナス162℃以下で液化し、その温度を保ったまま運搬できる液化天然ガス(LNG:Liquefied Natural Gas)運搬船で輸送します。特殊な構造をもつLNG船の建造には2年以上、船団を揃えるには5〜10年はかかるので、「天然ガスの輸入を増やそう」と決めても、成果が出るのはその先です。さらに、備蓄や保管、利用に関しても厳重な温度や圧力の管理が欠かせず、それを怠れば大事故になるだけでなく、主成分のメタンは空気中に漏れただけでも二酸化炭素の30倍近い温室効果を発揮してしまうのですから、高度な管理ノウハウが求められます。

とにかく、天然ガスを利用するためには大規模な専用設備を用意しなければならず、供給側も需要側も多額な初期投資を行わなければなりません。このため、売買契約は15〜20年間と長期にわたるのが一般的であり、石油に比べると取引の自由度はかなり低くなります。このため、20年以上のエネルギービジョンを構築できない政治的に不安定な国では導入できませんし、そもそも、設備投資のための費用を捻出できない*4でしょう。

実は天然ガスに限らず、エネルギーに関する政策は最短でも30年以上先の社会を考えながら立案していくのが普通で、場合によっては50年後や100年後の未来も視野に入れます。現在、稼働している発電所も、そういった計画に基づいて建設されたものなので、「原発は怖いからすぐに廃止しよう」と主張してもなかなか聞き入れられないのは、そのためです(「30年後に原発を全廃しよう」といった話であれば、一応、議論の対象にはなります)。

カーボンニュートラルに関しても「30年後にはそれなりの成果を上げたい」といった議論をすべきなのであって、早急に成果を求めるのは本質から外れていることを知ってください。

次回のテーマは「二酸化炭素の回収と貯留」の予定です。

【脚注】

*1:日本の成績がずば抜けて高い

石炭をそのまま燃やすのではなく、ミルで粉砕してからボイラー内に噴射することで、燃焼効率を高めます。微粉炭燃焼の技術は100年前からあるものの、日本では0.1mmレベルにまで細かくするので、ガス燃料に近い燃焼特性を実現しているのです。さらにボイラー内が高温であるほど発電効率が上がるので限界まで燃焼温度を高くします。さらに、日本は究極の石炭火力と呼ばれる石炭ガス化複合発電(IGCC:Integrated coal Gasification Combined Cycle)などの最先端技術に常に挑戦しており、この分野の最先進国なのですから、「中国がこうだから日本も」といった主張は完全に的外れです。

*2:省エネルギー技術の開発が積極的に行われました

詳しく知りたい人は、「サンシャイン計画」「ムーンライト計画」「ニューサンシャイン計画」などで検索してみてください。

*3:それほど厳しい管理が求められるわけはありません

密閉できるタンクがあれば常温でも保管できます。石油からつくる灯油に至っては、家庭で保管できるほど扱いやすい燃料です。

*4:設備投資のための費用を捻出できない

つまり、天然ガスは資金力のある国でしか利用できませんし、もちろん、内戦を含む戦争リスクの高い国でも無理です。ちなみに、新エネルギーとして注目される水素も輸送や保管における温度管理が難しく、導入の障壁はもっと高くなります。

石川 憲二(いしかわけんじ)

ジャーナリスト、作家、編集者 1958年東京生まれ。東京理科大学理学部卒業。30年以上にわたって企業や研究機関を取材し、技術やビジネスに関する解説記事を書き続けている。扱ってきた領域は、電気・電子、機械、自動車、航空・宇宙、船舶、材料、化学、コンピュータ、通信、システム、ロボット、エネルギー、生産技術、知的財産、経営、人事、マネジメントなど。

公式サイト http://www.ne.jp/asahi/happy/golucky/