期待ほど「スマートに」とは行かない太陽光・風力発電【実現できる? カーボンニュートラル 第4回】

2024/06/27
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目次

本連載で扱う項目

前回の第3回「課題もあるCCSを代替?P2C によるカーボンリサイクル」で紹介した、カーボンリサイクルと呼ばれる二酸化炭素の資源化では、太陽光や風力など再生可能エネルギーの有効活用が前提になっていました。ただし、充分な量のエネルギーを「自然まかせの発電」だけで得るのは簡単ではありません。今回は、カーボンニュートラルの実現において大きな役割を果たさなければならない再生可能エネルギー(自然エネルギー)を取り巻く環境について、少し考えてみましょう。

再生可能エネルギーへの過信は禁物

2011年3月に起きた東日本大震災と、それに伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故の直後は、原発への不安や反発から再生可能エネルギーへの期待が著しく高まりました。心情的には分からないではないものの、そこから「自然エネルギーですべての需要を賄えるはずだ」「太陽光と風力発電こそがエネルギーの中核を担う」といった根拠のない過信につながり、挙げ句の果てに政治や社会に影響を及ぼしてしまったのは、中長期的なエネルギー政策を進める上でマイナスだったと思います。

私事になりますが、たまたま、震災の前年に『自然エネルギーの可能性と限界 風力・太陽光発電の実力と現実解』という本をオーム社から上梓していました。まだ、広く知られていなかった再生可能エネルギーの実力を科学・技術的に分析した一般向けの書籍は少なかったせいか、原発事故後はかなり多くの方に読んでいただけたようです。そして、その中で説明したのは、再生可能エネルギー、中でも太陽光と風力は発電規模の拡大に限界がある上に、供給される電力があまりに不安定であることから、エネルギー供給の主役にはなれないという現実でした。

誤解しないでほしいのですが、私は「太陽光発電と風力発電は不要だ」と主張しているわけではありません。「発電中は二酸化炭素を出さない*1」という強みはカーボンニュートラル実現への切り札の一つなのですから、発電方式としての特性をしっかり理解した上で上手に活用すべきなのです。

それでは、具体的にはどうしたらいいのか、電源構成の全体像を見ながら考えてみましょう。

「居場所」見出しづらい太陽光と風力

電力の供給源である電源は、発電方法や電力量などによって大きく三つに分類されます(図1)。

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図1:電源(発電方式)の分類
⁠(筆者作成)

中核をなすのが「ベースロード電源」で、「大規模・安定供給・低コスト」という3条件を満たしていなければなりません。現状では大型石炭火力と原子力、水力発電が代表的ですが、日本が多くの資源を持つ地熱発電にも今後は期待したいところです。ベースロード電源はメンテナンス期間を除けば24時間365日の連続運転を原則としており、効率優先のため出力調整はあまり行われません。最近では石炭火力を減らしていく傾向から、液化天然ガス(LNG:Liquefied Natural Gas)による火力発電をベースロード電源に組み込む動きもあるようです。

「ミドル電源」は、ベースロード電源に比べると、若干コスト高にはなるものの、電力需要の増減に合わせた出力調整や「停止→再稼働」の繰り返しがしやすい設計になっているのが特徴です。現在ではLNG火力発電がその役目を担うことが多く、他にも石油火力や中小規模の石炭火力発電などが使われるケースもあります。

「ピーク電源」は、ミドル電源をフル稼働しても電力が足りないときの臨時電源であり、余剰電力を大量に貯めておける揚水式水力を中心に、石油火力の運用や停止中の発電所の再稼働といったさまざま方法で対応しているようです。

電力需要というのは、人々が活動を始める早朝から上昇しはじめ、昼休みに少し下がった後、夕方にかけてピークを迎えます(図2)。最小値とピーク値のあいだには1.5〜2倍の開きがありますから、ベースロード電源だけで賄おうとすると深夜に大量の余剰電力が生じてしまうのです。このため、特性の異なる3タイプの電源をうまく使い分けることで、電力需要の増減に対応する方法が最も合理的だと考えられてきました。

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図2:電力需要に対応した電源構成
⁠(筆者作成)

ところが、このような電源構成だと「水力と地熱発電以外の再生可能エネルギーを組み込むのが難しい」という問題が生じます。特に期待の高い太陽光と風力については、電源としての規模があまり大きくない上に、電力供給が不安定で出力調整に不向きという点から、ベースロード電源としてはもちろん、ミドル電源やピーク電源としても使えないのです。

そこで生まれたのが「スマートグリッド」という考え方でした。ちょっと複雑なのですが、簡単に説明すると、

「IT時代なんだから電力供給システムにもっと大胆にコンピュータや通信技術を導入し、供給側と需要側の両方から自由に、きめ細かく制御できるようにすれば、電力流通を最適化できる上に、大型の電源だけに頼らなくてもいいのではないか」

といった内容になります。

発想としてはインターネットに似ています。旧来のようなセンター集中方式ではなく、複数のコントローラーによる分散処理をすることで情報流通の最適化や機能拡張が進むという発想で、事実、インターネットは大成功を遂げました。このため、「ベースロード電源中心の古典的な電力供給システムがいつまでも居座っているせいで太陽光や風力のような新しい発電の普及が進まない。次世代電力網であるスマートグリッド*3に早く移行すべきだ」と主張する人が増えていったのです。さて、皆さんはどう思われますか。

電力網はインターネットと事情が違うもの

ここからは持論になります。一応、電力関係の技術動向なども知った上で個人的な見解を述べさせていただくなら、スマートグリッドの全面的な導入はあまりお勧めしません。なぜなら、インターネットが一時的に使えなくなっても生活は続けられますが、電力供給が少しでも絶たれたら暮らしていけないどころか、人命にも関わるからです。実際、スマートグリッドのようなシステムを先行して導入した事例では停電や電力不足が起きているほか、かえって電力料金が高くなるというケースもあって、必ずしも最適化には成功していません。情報通信とエネルギー供給はまったく別物なのですから、同列に考えるのは危険なのです。

スマートグリッド化はしていないものの、日本でも太陽光と風力の利用を促すために、電力の固定価格買取制度を設けて、広域の電力系統への接続を推進してきました。それに伴い、電力料金に「再生可能エネルギー発電促進賦課金」が加えられたことから、実質的な値上げになったのです。この制度が始まった当初は、「環境のためならこのくらいの支出は仕方ない」と我慢していた人も多かったようですが、最近では不満の声を漏らすようになり、逆風が吹くもとになっているかもしれません。

これらのことを考えると、再生可能エネルギーをもっと活用していく上でスマートグリッドの導入や電力系統への接続は必ずしも得策ではないように感じます。もともと、既存の電源構成には組み込みにくい発電方式なのですから、何かもっと新しい利用方法を考えていくべきなのではないでしょうか。

特性に合わせた再生可能エネルギーの運用を

その答の一つが、前回の「課題もあるCCSを代替?P2C によるカーボンリサイクル」で紹介した二酸化炭素の資源化、つまりカーボンリサイクルです。太陽光や風力による電力を、燃料に転換して流通させるという仕組みは、電力系統に頼らないビジネスモデルとして非常に斬新といえるでしょう。この方法であれば発電所を設置する場所はどこでもいい*4のですから、人が住まない離島に太陽電池を敷き詰め、そこで生産した燃料をタンカーで消費地に運ぶことも可能です。

いきなり広域の電力系統に接続するのではなく、一定の地域や施設内などの限定した電力網の中だけで運用するという方法もあります。太陽光や風力から得られるエネルギーの量は自然環境によって大きく左右され、日本国内でも向いている場所と向いていない場所がはっきり分かれます。風力発電であれば、偏西風が安定して吹き込む「西に海が開けたところ」は有利ですが、それ以外の場所がどこでも発電に向いているわけではありません。従って、効率よく発電できる地域であれば、全国に向けて送電するよりも域内だけで利用する「地産地消電力網」にしたほうが無駄なくエネルギーを使えるのです。

一時期の熱狂的な ブームから醒め、社会は再生可能エネルギーについて少しずつ冷静に考えるようになってきました。そのような時期だからこそ、水力・地熱・太陽光・太陽熱・風力・海洋など多様なメニューの中からどれを選び、どう活用していけば少しでもカーボンニュートラルに近づけるのか検討し、正しい判断をしていければいいと考えています。

【脚注】

*1:発電中は二酸化炭素を出さない
再生可能エネルギーに分類される発電方式のうち、水力、地熱、太陽光、風力、海洋(波力、潮汐力など)によるものは二酸化炭素の発生源にはなりませんが、施設の建設や装置の製造・運搬・据付・メンテナンスに加え、機器の廃棄や施設廃止後のさまざまな処理作業の過程ではそれなりに温室効果ガスを生じさせます。従って、計画通りの発電ができなければかえって環境に悪い場合もあるのです。

*2:トータルコストが分かりにくい
太陽光発電を例に挙げるなら、「一度、設置すればあとはタダで電気が出てくる」といった夢のような話はなく、メンテナンスを怠れば稼働年数はかなり短くなりますし、廃棄後のコストはまったく計算されていません。つまり、損得勘定しにくいのです。個人的には、本来、自然の脅威から建物を守る屋根の上に精密な電子機器である太陽電池を設置したら、そこそこトラブルは起きると思っています。

*3:次世代電力網であるスマートグリッド
乱暴に例えるなら、「電車やバスのような公共交通機関による大量輸送よりも、個々人が自由に配車できる無人タクシーのような車両のほうが効率的では……」という発想に似ています。SF的な未来ならこっちが正解なのでしょうが、自動運転車が新幹線や飛行機の代わりになれるわけではないと思います。

*4:発電所を設置する場所はどこでもいい
送電距離が長くなると電力はどんどん減衰していってしまうので、もともと出力の小さい太陽光や風力の発電施設は消費地の近くに設置したほうが有利なのですが、大量の太陽電池を敷き詰めたり、大きな風車を建てる広い土地をそういう場所で見つけるのは大変です。

石川 憲二(いしかわけんじ)

ジャーナリスト、作家、編集者 1958年東京生まれ。東京理科大学理学部卒業。30年以上にわたって企業や研究機関を取材し、技術やビジネスに関する解説記事を書き続けている。扱ってきた領域は、電気・電子、機械、自動車、航空・宇宙、船舶、材料、化学、コンピュータ、通信、システム、ロボット、エネルギー、生産技術、知的財産、経営、人事、マネジメントなど。

公式サイト http://www.ne.jp/asahi/happy/golucky/