大気中に増えゆくCO2、排出減の取り組みは「損」にならない【実現できる? カーボンニュートラル 第5回】

2024/07/11
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目次

今回は、カーボンニュートラルを考える上で大前提となる地球規模の二酸化炭素循環と、国別の二酸化炭素排出量について解説していきたいと思います。持続可能性の高い社会の実現には多くの労力と時間がかかり、「SDGsウィーク」と呼ばれるような短期間のイベントで簡単にかなえられるものではないということを理解していただければ幸いです。

二酸化炭素循環のバランスが崩れている

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図1:二酸化炭素の循環
⁠(出所:NTT Beyond Our Planet「炭素循環とは? 温室効果ガスとの関連や窒素循環との違いも解説」/気候変動に関する政府間パネル(IPCC:Intergovernmental Panel on Climate
Change)「第6次評価報告書」を参考に編集部作成)

地球の大気中に放出される二酸化炭素のうち約60%は陸上で、約35%は海洋で発生します(図1)。もちろん、生物の生命活動によるものもここに含まれ、私たちが呼吸によって吐き出した二酸化炭素もその一部です。

これに対して、人間活動、つまり、化石燃料の大量消費やセメント生産*1などによるものは全体の5%程度だといわれています。この数字だけを見ると、「けっこう少ないな。これなら、ちょっとくらい増えても大丈夫なのでは……」と思うかもしれません。

しかし、それは完全に間違いです。

陸上や海洋は二酸化炭素の吸収においても大きな役割を果たします。植物などの光合成だけでなく、海水も二酸化炭素を溶け込ますことで巨大な回収・貯留装置となっているのです。産業革命が始まる18世紀半ばまでは、このような二酸化炭素循環がバランスよく行われていたため、問題はありませんでした。火山の噴火で大量の二酸化炭素が排出されたとしても、充分に吸収するだけの能力はあった*2のです。

ところが、さらに工業化が進み、現在のような状況になってしまうと、排出された二酸化炭素をすべて吸収することはできなくなり、統計によりますが、2%以上が大気中に残ってしまうようになったのです。これも「たかが数パーセント」では済みません。毎年のことなのですから、10年後、20年後にはどうなってしまうか分かるでしょう。だからこそ、対策が急務なのです。

単純計算で考えるなら、人間活動による二酸化炭素排出量を半分程度まで減らし、自然界の二酸化炭素吸収量を1%くらい高めることができれば、そこそこバランスは取れそうです。もちろん、地球という複雑系はそう簡単にコントロールできるものではありませんが、それでも、この連載でここまで紹介してきた排出量抑制回収・貯留への試みがいかに重要か分かっていただけると思います。

「緑化+エネルギー開発」で相乗効果を

自然界の二酸化炭素循環を頭に入れてカーボンニュートラルの実現を考えていくなら、排出量を下げるとともに吸収量も上げていける方法がベストです。そういう意味では「植林栽培+バイオマスエネルギーの利用」という組み合わせはもっと普及させていくべきではないでしょうか。

日本は昔から国土の緑化に熱心な国で、組織的な植林は室町時代に始まり、江戸時代になると幕府がその活動を強力に進めていきました。明治時代以降もこの動きは続くのですが、戦後になって安い木材が大量に輸入されるようになると、林業の衰退とともに昔ほど積極的には行われなくなってしまったのです。

これはどこの国でも同じで、森林が金を生み出す装置となっていれば積極的に木を植えるでしょうが、「伐採して農地や工業地にしたほうが儲かる」となれば減らされてしまいます。従って、木材の生産だけでなく廃材や間伐材などの木質燃料を使った発電を事業化していくなど、森林を中心にしたビジネスモデルを確立していけば、貴重な二酸化炭素吸収源を失わない*3だけでなく、木々を元気な状態に保っていくことができるのです。

環境対策はペナルティではない

人為的な二酸化炭素の排出量を減らしていくには、現状を正確に知らなければなりません。国際エネルギー機関(IEA:International Energy Agency)の調査結果を基に環境省が発表した国別の二酸化炭素排出量によると、最も多いのは中国で、全体の31.7%と約3分の1を占めています(図2)。2番目の米国は13.6%、3番目がインドの6.8%、4番目がロシアの5.0%と続くのですが、この3国を合わせても25.4%ですから、中国の突出ぶりが分かるでしょう。なお、欧州連合(EU:European Union)27カ国をまとめると7.7%となり、インドを上回ります。

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図2:世界のエネルギー起源CO2排出量
⁠(出所:環境省資料より引用)

日本は3.0%とその次に位置しているのですが、この数字の評価は人によって分かれると思います。経済規模を表す国内総生産(GDP:Gross Domestic Product)が世界全体に占める比率は約4.2%なので、それを考えれば、なかなかがんばっているといえるかもしれません。省エネルギー技術でトップクラスであることを考えれば、妥当な結果とも考えられます。

しかし、年間の二酸化炭素排出量を人口で割った「1人当たり」の数字になると日本は7.95トンとなり、世界平均の2倍弱という水準です(図3)。他の先進国と比べると、米国の13.76トンは別格として、EU各国の数値を上回っているのは少し問題かもしれません。ただし、ここの細かい分析については次回で行います。

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図3:主な国別1人あたりのエネルギー起源CO2排出量
⁠⁠(出所:環境省資料より引用)

国別の数値を見る限り、GDPの規模を考えても異常に二酸化炭素排出量の多い中国が抑制への努力を見せてくれれば大きく改善されるのですが、残念ながら、それにはあまり期待できなさそうです。というのも、2023年12月、こんな記事が新聞に載りました。

  中国のCO2濃度、公表の1.5〜3倍で増加
⁠  環境省が観測衛星で分析しCOP28で発表へ
⁠  (読売新聞 2023年12月8日付記事)

日本の温室効果ガス観測衛星「いぶき」が中国の約7万7000地点で二酸化炭素濃度の年間増加量を観測したところ、公表値を大きく上回っており、排出量を減らそうとしていないだけでなく、虚偽の報告をしている疑いまで生まれたのです。さらに悪いことに上位のインドとロシアも地球環境よりも自国の経済活動を優先する傾向にあるため、国際的な取り組みに素直に従うとは思えません。従って、二酸化炭素の濃度上昇を食い止めるには、日本とEUが中心になり、米国を説得しながら*4排出削減を推進していくしか方法はないのです。

ただし、これを「損な役回りを押しつけられた」と悲観するのは待ってください。二酸化炭素の排出を減らしていくさまざまな試みは環境技術全般の進歩につながり*5、住みやすい社会の実現に結びつきます。逆に、二酸化炭素を大量に出しつづける国は結果的に大気・水質・土壌のトリプル汚染を進行させ、持続的な経済成長にブレーキがかかる可能性が高いのです。

環境対策というのはペナルティではなく生活向上のための施策だと考えれば、もっと積極的に取り組んでいけるのではないでしょうか。

【脚注】

*1:セメントの生産
⁠セメントは主原料である石灰石を熱分解させて作られますが、このとき大量の二酸化炭素が発生します。日本ではセメント産業が排出する温室効果ガスが全体の4%ほどに及ぶくらいです。ちなみに、ビル・ゲイツ氏が2014年に「過去3年間で中国が消費したセメントはアメリカが20世紀に使った全セメント量より多い」という投稿をして話題になりましたが、当然、それだけの二酸化炭素も排出しているはずです。

*2:充分に吸収するだけの能力はあった
⁠大気中の二酸化炭素濃度が上がれば植物の光合成は活発になりますし、海水への吸収量も増えます(ただし、酸性になります)。

*3:貴重な二酸化炭素吸収源を失わない
⁠こうやって考えていくと、森林を伐採して太陽電池を敷き詰めるといった行為がどれだけおかしいかが分かると思います。

*4:アメリカを説得しながら
⁠大統領選の結果次第という側面があるので、こういう書き方にしました。

*5:環境技術全般の進歩につながり
⁠例えば、硫黄酸化物(SOx)や窒素酸化物(NOx)の発生量を減らそうとするため火力発電の燃焼効率を上げるといったように、環境技術はすべてつながりを持っています。

石川 憲二(いしかわけんじ)

ジャーナリスト、作家、編集者 1958年東京生まれ。東京理科大学理学部卒業。30年以上にわたって企業や研究機関を取材し、技術やビジネスに関する解説記事を書き続けている。扱ってきた領域は、電気・電子、機械、自動車、航空・宇宙、船舶、材料、化学、コンピュータ、通信、システム、ロボット、エネルギー、生産技術、知的財産、経営、人事、マネジメントなど。

公式サイト http://www.ne.jp/asahi/happy/golucky/