海洋汚染対策にも生分解性プラ、政府の推進始まる【バイオプラの現状と課題 第5回】
2024/02/08目次
本連載で扱う項目
- 第1回 サーキュラーエコノミーとプラスチック
- 第2回 世界の動向とバイオプラスチック
- 第3回 廃棄物管理と気候変動問題におけるバイオプラスチックの役割
- 第4回 プラスチックリサイクルとバイオプラスチック
- 第5回 海洋汚染問題とバイオプラスチック
- 第6回 ケミカルリサイクルによる新しいバイオプラスチックス
- 第7回 世界動向と今後の見通し
Chematelsの連載「バイオプラの現状と課題」は第5回。今回は、海洋汚染問題とバイオプラスチックをテーマに解説します。
「2050年、海洋プラ総量が海洋魚類全体量を超える」
プラスチック廃棄物海洋汚染に対する警鐘が強く打ち鳴らされ、世界的な政治課題として取り上げられています。
そのきっかけは2015年、科学誌『サイエンス』に掲載された、米国ジョージア大学工学部のジェナ・ジャムベック氏をはじめとする世界各国の研究者による論文「Plastics waste inputs from land to ocean(プラスチック廃棄物の陸地から海洋への流入)」です。ジャムベック氏らは、2010年の世界各国のごみ、人口密度、経済状況のデータをもとに、陸上から海洋域へのプラスチック廃棄物流入量を試算しました。その量は2010年時点で年間約800万トンであり、今後も年々蓄積されていくと指摘しています。
この報告後、英国の著名なサーキュラーエコノミー推進団体であるエレン・マッカーサー財団は2016年1月の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で、論文内容などに従えば、2050年にはプラスチック廃棄物の蓄積総量が、海洋域での魚介類全体の重量を上回るというセンセーショナルな発表をしました。こうして世界的な議論が加速していきました。

図1:プラスチック類の増加予想
(出所:世界経済フォーラム 2016年1月発表、エレン・マッカーサー財団など作成『The New Plastics Economy Rethinking the future of plastics』を参考に編集部作成)
その後、毎年開かれる主要7カ国主要会議(G7サミット)や、金融・世界経済に関する首脳会合(G20サミット)で、参加国がプラスチック廃棄物海洋汚染問題に関する多くの取り組みを議論しました。
そして2019年、日本が議長国となり開催されたG20大阪サミットで各国に共有された「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」で、参加国は2050 年までに海洋プラスチックごみによる新たな汚染をゼロとすることを目指す目標を設定し、具体的なアクションプランを決定しました。特に、プラスチック廃棄物の大量発生地域であるアジア地域に位置する日本は、国内のプラスチック廃棄物管理で蓄積した先進技術やシステムを隣接諸国に普及・促進させるための支援を重要課題とし、積極的な取り組み姿勢を見せています。
海洋への流出ゼロは実質的に困難
経済協力開発機構(OECD:Organisation for Economic Co-operation and Development)は2022年6月、『グローバル・プラスチックス・アウトルック』を発表し、2019年で610万トンのプラスチック廃棄物が水域環境に流出し、うち170万トンが海洋域に流れ込んでいると報告しました。さらに、3000万トンのプラスチック廃棄物が海洋域にて蓄積・漂流していると推定しています。
プラスチック廃棄物海洋汚染の問題の本質は、陸上で発生するプラスチック廃棄物の一部が、適切に処理されず最終的な到達域である海洋に蓄積してしまうことにあります。陸上で発生する大量のプラスチック廃棄物をいかに適切に処理するかがポイントです。
しかしながら、前回の第4回「リサイクルもバイオプラも『主流』への道遠し」で説明したように、プラスチック廃棄物を完全になくすことは実質的に困難です。そこで、海洋域での生分解性プラスチックの活用推進が注目されているのです。
マーク制度などで海洋生分解性プラ普及を促進
日本では、政府が2019年5月、「海洋生分解性プラスチック開発・導入普及ロードマップ」を策定しました。海洋生分解性の測定方法の確立や、国際標準化機構(ISO:International Organization for Standardization)規格の策定推進や、識別表示制度の構築などを推進するものです。これを受けて、2023年7月より、日本バイオプラスチック協会による「海洋生分解性プラ識別表示制度」が始まっています。

図2:海洋生分解性プラスチックのシンボルマーク。「海洋生分解性バイオマスプラ」は、バイオマスプラスチック度が25%以上の場合に可能な表示
(出典元・画像提供:日本バイオプラスチック協会)
海洋域での微生物の密度は陸上に比べて桁違いに低く、また微生物の種類も陸上と異なります。そのため、使用される生分解性プラスチックの種類は限定されます。とはいえ、漁網や釣り糸など、使用中の海洋域への流失が避けがたい用途で使われるプラスチックをめぐっては、こうした識別認証制度による生分解性プラスチックの利用促進が有効になると思います。
なお、海洋プラスチックごみの課題として、直径5ミリメートル以下の「マイクロプラスチック」が海洋および沿岸の生物と生態系に直接影響し、潜在的に人間の健康にも影響しうるとして強く取り上げられることが多くあります。しかしながら現在までのところ、その危険度の定量的な把握や検証は正確にはなされていません。今後の取り組みについては慎重な判断が望まれるところです。
猪股 勲(Isao Inomata)/ SCE・Net
東京大学工業化学修士課程修了。三菱ケミカル(株)で、石油化学関連の技術開発・事業開発、企画業務に従事。その後、日本バイオプラスチック協会に奉職。石油化学全般、バイオプラスチック、プラスチック廃棄物管理、気候変動などの環境問題に広く精通。2015年よりSCE・Net所属。ITIコンサルタント事務所チーフコンサルタント。
