人類誕生前「異質」の温暖化が起きていた【脱炭素社会への「本質」理解 第7回】
2022/12/08連載の目次
- 第1回 気候変動の要因は「疑う余地なし」の温暖化
- 第2回 環境科学の視点で懐疑論の主張をただす
- 第3回 地球丸ごとの理解で導ける温暖化の現状
- 第4回 2050年へ、カーボンニュートラル待ったなし
- 第5回 CO2原料化にヒートポンプ効率化、企業の対策
- 第6回 地球46億年史には「全球凍結」時代も
- 第7回 人類誕生前「異質」の温暖化が起きていた
(タイトルは変更となる場合があります)
Chematelsの連載「脱炭素社会への『本質』理解」もいよいよ最終回です。今回は、前回の第6回「地球46億年史には『全球凍結』時代も」に引き続き、地球の歴史という視点から気候変動を捉えてみます。
急激な温暖化、5500万年前にも
地球の気候が太陽に支配されていることは疑いありません。けれども、近年の急激な地球温暖化は、太陽活動の影響によるとはいえないという説が有力です。第2回「環境科学の視点で懐疑論の主張をただす」と第3回「地球丸ごとの理解で導ける温暖化の現状」でこれについて詳しく述べたのでご参照ください。
一方、急激な温暖化現象は、はるか過去の約5500万年前にも起きており、「暁新世-始新世温暖化極大」といわれています。この時期、平均気温は5~9℃上昇し、極地に氷はありませんでした。この温暖化の原因は、海底蓄積物や火山活動に伴う噴出ガスを起因とする二酸化炭素の温暖化効果とされます。やはり太陽活動が直接関与したとする説はないようです。
「暗い太陽」の下でも、なぜか水は存在しつづけた
太陽の光度は約42.5億年前には現在の約70%しかなく、地球表面に水を維持できる力はなかったという理論的推測があります。一方で、地球表面には約38億年前から継続的に水が存在し続けていたという地質学的・古生物学的証拠もあり、この二つは矛盾しています。これを「暗い太陽のパラドックス」といいます。
しかし、光度は低くても約14 億年前の地球大気中の二酸化炭素レベルは現在の大気に比べ10~200倍の値をとり、地球表面の温度を高く保つために有効な温室効果をもたらしていたという説があります。
太陽黒点の気候変動への影響は小さいという考え方が定着
太陽黒点と太陽活動はリンクしますが、太陽活動が気候変動に直接影響するかは確定していません。イタリアの天文学者ガリレオ・ガリレイ(1564-1642)らが観測を始めて以来、400年以上にわたり黒点の観測が続けられ、約11年周期で増減することが知られています。
黒点が増えると黒点周辺の温度が上昇し、太陽からの可視光の放射は増えます。しかし、放射の変化量はごくわずかであり、気候に大幅な影響を及ぼさないとされます。これが温暖化で太陽の影響を無視してもよいとする有力な根拠となっています。
実際、図1にあるように、黒点数と気温の変化のグラフは前半では連動しているものの、後半は反比例しているように見えます。
図1:太陽黒点数と気温偏差の関係
(出所:国立環境研究所地球環境センター「ココが知りたい温暖化」を参考に作成)
また、図2にあるように、大気の温度の変化は太陽黒点数の変化よりも、二酸化炭素濃度の変化と連動しているように見えます。
図2:太陽黒点数と二酸化炭素の気温との相関性
(出所:左図は国立天文台「太陽黒点相対数」/気象庁「世界の月平均気温偏差」、右図は気象庁「二酸化炭素濃度」/気象庁「世界の月平均気温偏差」を参考に筆者作成)
ミランコビッチサイクルが「氷期と間氷期の周期」を説明
地球の温度環境は氷河時代と無氷河時代に大きく分けられます。この二つのうち氷河時代には、氷河が拡大する寒冷な氷期と、氷期と氷期の間の温暖な間氷期があります。この氷河時代における氷期と間氷期のサイクルを説明するのが、ミランコビッチサイクルです。
セルビアの地球物理学者ミルティン・ミランコビッチ(1879-1958)は、太陽放射量の変化について、離心率と呼ばれる太陽と地球距離の変化、軌道傾斜角と呼ばれる自転軸の傾き、それに地軸の歳差運動の三つから、約10万年、約4万1000年、約2万2000年という三つの周期があることを導きました。そして、地球が受ける日射量が変化すると地球の気候変化に影響があるとする仮説を立てたのです。
氷河時代の氷期と間氷期の周期は、過去80万年間について有孔虫の酸素同位体比の周期性や氷床コアのデータから、約10万年であることが証明されています。このことからもミランコビッチの仮説は広く受け入れられています。
図3:ミランコビッチサイクルと気温周期。
(出所:国立環境研究所「ココが知りたい地球温暖化」を参考に作成)
ただし、ミランコビッチサイクルには弱点もあります。それは、短期間の温暖化の説明ができないことです。また、次の氷河期がいつ来ても不思議はないのですが、確実な予測をすることはできません。
スベンスマルクによる新説に要注目
デンマークの物理学者ヘンリク・スベンスマルク(1958-)が2019年3月、「気候変動における太陽の役割」という論文を公表し、注目されました。その内容は、太陽活動起因の磁場と銀河宇宙線が地球の雲の形成を誘起し、気候変動に重要な役割を果たしているというものです。スベンスマルクのこの仮説を少し詳しく説明すると次のようになります。
通常、銀河宇宙線は地球大気をイオン化します。その結果、雲の凝結核がつくられます。雲がつくられると、太陽光に対する反射能が増大し、地球の気温は低下します。
これに対し、太陽活動が増加すると、太陽表面の磁場が太陽風によって地球に多く運ばれ、地球近辺の磁場が強くなります。すると、雲をつくる役割の銀河宇宙線が地球にあまり届かなくなり、雲が少なくなって気温が上昇するというわけです。
スベンスマルクの論文には、低高度の雲量と宇宙線束には相関性があることがデータで示されています。
図4:低高度の雲量と宇宙線束の相関性
(出所:スベンスマルク「気候変動における太陽の役割」を参考に編集部作成)
スベンスマルクの仮説をめぐっては、神戸大学の研究チームがモンゴルのゴビ砂漠の堆積物を調査し、仮説の根拠を立証しています。今後も注目していく必要があるかもしれません。
連載「脱炭素社会への『本質』理解」は今回で終了です。ご愛読ありがとうございました。
鹿子島 達志(Tatsushi Kagoshima)/ SCE・Net
1949年生まれ。九州大学工学部卒。鐘淵化学工業(株)(現カネカ)他2社を経験。生産技術や調達部門にて多くの大型海外工場建設の責任者として従事。マレーシアにエンジ会社のMD(社長)として2年間駐在。化学工学会のコストエンジニアリング部会員で活動、SCE・Net会員。現在、生産技術コンサル業のイーグレテック代表。
