2050年へ、カーボンニュートラル待ったなし【脱炭素社会への「本質」理解 第4回】
2022/11/22
連載の目次
- 第1回 気候変動の要因は「疑う余地なし」の温暖化
- 第2回 環境科学の視点で懐疑論の主張をただす
- 第3回 地球丸ごとの理解で導ける温暖化の現状
- 第4回 2050年へ、カーボンニュートラル待ったなし
- 第5回 CO2原料化にヒートポンプ効率化、企業の対策
- 第6回 地球46億年史には「全球凍結」時代も
- 第7回 人類誕生前「異質」の温暖化が起きていた
(タイトルは変更となる場合があります)
気候変動に向き合う温暖化対応の政策に関連して、「脱炭素」「カーボンニュートラル」「カーボンフリー」などの用語が世の中にあふれています。第4回となるChematelsの連載「脱炭素社会への『本質』理解」では、知っておくべき主な政策を整理しておきたいと思います。
パリ協定を機に世界の潮流は「低炭素」から「脱炭素」へ
「脱炭素(だつたんそ)」とは、簡単にいうと「温室効果ガスの大気への排出量を実質ゼロにすること」です。2050年までに二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすることを目指して採択された「パリ協定」で掲げられた政策が「脱炭素」です。
従来の世界各国の主な政策は、「脱炭素」というより「低炭素」社会の実現に向けたものでした。取り組む国としては先進国が中心で開発途上国を含めず、また、どれだけの温室効果ガス排出量を減らすかでなく現状から何%減らすかを目標としたものでした。
これに対して、2015年にフランス・パリで開かれたCOP21で合意され、2016年に発効し国際的な協定が「パリ協定」です。世界の温室効果ガス排出量の約86%を占める159カ国が締結に参加し、大きく次の二つの目標を掲げました。
- 平均気温上昇を産業革命前に比べて2℃未満に保ち、1.5℃に抑える努力を追求する。
- 今世紀後半には、温室効果ガスの人為的な排出と吸収源による除去の均衡を達成し、温室効果ガスの発生を実質的にゼロにする。
パリ協定以降、各国は新たに排出ゼロ実現の脱炭素社会を目指して目標や政策を掲げました。日本政府も2021年11月に英国グラスゴーで開催された第26回気候変動枠組条約締約国会議(COP26:the 26th session of the Conference Of the Parties to the United Nations framework convention on climate change)の首脳級会合において、次の目標を宣言しています。
- 2030年までに2013年の温室効果ガスの排出量比で46%削減する
- 2050年までにカーボンニュートラルを実現し、脱炭素社会を創り上げる
「カーボンニュートラル」へ政府が戦略掲げる
「カーボンニュートラル」とは、二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素、フロンガスなどを含む温室効果ガスの総排出量から、森林などの自然などに吸収される量、また除去される量を差し引いて、全体として温室効果ガスの排出量を実質ゼロにするという考え方や取り組みをいいます。
脱炭素との違いはなんでしょう。脱炭素は「排出量をゼロにする」という意味合いがあるのに対し、カーボンニュートラルは「排出量と吸収量のバランスをとって差し引きゼロにする」という意味合いがあります。実質的には同じことを指しているといえます。
日本政府は2020年10月、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにすること、つまりカーボンニュートラルを目指すことを宣言しました。その目標達成のためには、温室効果ガスの排出量を削減することの他に、森林などの自然による吸収作用の保全および強化を行う必要があります。
経済産業省が2020年12月に策定したのが、「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」です。経済と環境の好循環につなげるための産業政策として、次の5つの主要政策ツールを打ち出しました。
- 予算:「グリーンイノベーション基金」の創設
- 税制:脱炭素化の効果が高い製品への投資を優遇
- 金融:ファンド創設など投資をうながす環境整備
- 規制改革・標準化:新技術が普及するよう規制緩和・強化を実施
- 国際連携:日本の先端技術で世界をリード
カーボンニュートラルの大きな課題の一つに「製造や輸送で少しでも化石燃料を使えば排出量の方が上回ってしまう」という点があります。例えば、二酸化炭素排出量が低い液化石油ガス(LPG:Liquefied Petroleum Gas)や排出量ゼロといわれる水素であっても、液化工程や輸送でたいてい化石燃料を使用しており排出量が生じています。この問題を指摘されることがあります。
「カーボンオフセット」という工夫、しかし課題も……
「カーボン」に、別の言葉がついて使われる熟語には、カーボンニュートラル以外にもさまざまあります。
「ゼロカーボン」は、その名の通り炭素の排出をゼロにすることです。「カーボンニュートラル」と同じ意味合いで使用されていることが多いようです。
「カーボンオフセット」は、他社が削減した温室効果ガスの量を「カーボンクレジット」として購入し、自社で排出した温室効果ガス分を埋め合わせするという考え方です。どうしても排出を避けることができない温室効果ガスも日常生活や経済活動においては存在します。カーボン・オフセットは、この対策として考えられたものです。
カーボンオフセットのメリットは、温室効果ガスの排出が増加傾向にある業務について、縮小すべきだった部門をそのまま推進することができることです。一方のデメリットは、オフセットという削減活動が、他社から購入するマイナス枠のため、実質的な温室効果ガスの削減に結びついていないことです。また、実質的でない排出削減の正当化に使われてしまうおそれもあります。

図1:カーボンオフセットの概念
(出所:国立環境研究所 温室効果ガスインベントリオフィス「日本の温室効果ガス排出量データ」/経済産業省「『カーボンニュートラル』って何ですか?(前編)」を参考に作成)
「カーボンフリー」とは、風力や太陽光発電などのような、温室効果ガスを排出しない自然エネルギーを使うことをいいます。
次回は第5回「CO2原料化にヒートポンプ効率化、企業の対策」の予定です。
鹿子島 達志(Tatsushi Kagoshima)/ SCE・Net
1949年生まれ。九州大学工学部卒。鐘淵化学工業(株)(現カネカ)他2社を経験。生産技術や調達部門にて多くの大型海外工場建設の責任者として従事。マレーシアにエンジ会社のMD(社長)として2年間駐在。化学工学会のコストエンジニアリング部会員で活動、SCE・Net会員。現在、生産技術コンサル業のイーグレテック代表。
