地球丸ごとの理解で導ける温暖化の現状【脱炭素社会への「本質」理解 第3回】

2022/11/17
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連載の目次

(タイトルは変更となる場合があります)

Chematelsの連載「脱炭素社会への『本質』理解」をお届けしています。地球環境の科学では地球を俯瞰した「丸ごとの把握」が重要です。この第3回では、温暖化をめぐる地球全体の状況を理解するために説明します。

地球の放射収支から温暖化の現状がわかる

太陽と地球は約1億5000万km 離れていますが、地球には太陽からの約0.4~1μmという比較的短い波長の入射吸収による熱獲得があり、一方、地球からは約4~30μmという比較的長い波長の上向き放射による熱損失があります。大気の温度はこの熱収支を満たす温度になります。

ここで、太陽光線を垂直に受け止める平らな円盤を想定し、同じ半径を持つ球との表面積の比を考えてみます。図1左もご覧ください。

平板面積は A=πr2、また、球の面積はA=4πr2ですから、太陽放射を直接に受ける熱流量Ωは、地球表面ではΩ/4となります。Ω=1372W/m2なので、地球に入射する太陽放射は理論値*1ではΩ/4=343W/m2であり、観測値*2もほぼ同じ341.3W/m2となっています。

このうち約30%の103W/m2 (観測値101.9)は地表面、雲、エアロゾル、空気中の分子によって反射されて宇宙へ戻り、残り70%が地球全体に吸収されます。そのため大気上端に入ってくる正味の太陽放射は240W/m2(観測値239.4W/m2)となります。そしてその大部分は地表面で吸収されます。

なお、観測結果から、外に出ていく地球放射は238.5 W/m2です。放射収支が0.9W/m2ほどの収入過剰となっていますが、温暖化が進んでいることとつじつまが合います。

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図1:地球が受ける太陽放射
⁠(出所:ジョン・ハート著、小沼通二・蛯名邦禎訳『環境問題の数理科学入門』(2012年、丸善出版刊)

図1右の斜め線上の左端の垂直な線分は、成層圏の温度とほぼ等温のプロファイルです。斜め線上のA点は、大気上端から地球外に出ていく長波放射を射出する層の平均高度を指し、ここの温度は-18℃です。温室効果ガス濃度の高まりに応答して、より高度の方に移行します。一方、B点は、地表面へ下向きの長波放射をする層の平均高度で、温室効果ガス濃度の上昇に応答して放射が吸収され低度の方に移行し、温度が上昇すると地表温度に達します。

ここで人為的な二酸化炭素の排出量の影響を見てみます。第2回「計算で懐疑論の主張をただす」で示した2020年の化石燃料の年間排出量が約335億トンであることから、廃熱の熱流量は0.087W/m2となります。自然の数字に比べかなり小さく見えますが、温度上昇計算値は0.265℃となります。実態は0.34℃です。

暖かい海ではビールのように「気」が抜ける

温暖化を語る場合、海の存在を忘れてはいけません。世界の平均気温には海水温が反映されています。

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図2:海洋の二酸化炭素(CO2)吸収メカニズム

二酸化炭素は海水中にも存在します。海洋全体に存在している二酸化炭素を含む溶存無機炭素のモル数は、大気中の約55倍です。大気と海洋表層の間ではガス濃度に差がなくても、世界の海洋で年間約90億トンの炭素が二酸化炭素としてガス交換されています。これは,大気中に存在し、5400年という半減期で放射壊変する炭素の放射性同位体14Cの海水濃度から計算できるものであり、比較的正確な推定値といいます。

海水と二酸化炭素の関係については、「気体(二酸化炭素)の液体(海水)に対する溶解度は気体の圧力に比例する」という「ヘンリーの法則」が成り立ちます。何らかの原因で大気中の二酸化炭素濃度(分圧)が上昇すれば海水への二酸化炭素の溶解度は大きくなり、大気中の二酸化炭素が海水に吸収されます。逆に、大気中の二酸化炭素濃度が低下すれば海水から大気中へ二酸化炭素が放出されて平衡状態が回復します。

海水における二酸化炭素の溶解度には温度との関係があり、水温が高い海域では1℃の海水温変化による二酸化炭素の溶解度の変動幅は小さくなります。つまり、暖められた海洋は、ぬるくなったビールと同様に、二酸化炭素を大気に放出します。海の「気」が抜けるにつれ、空気はさらに暖まり、それがまた海を暖めることにつながります。

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図3:世界平均気温と海水温

「負のフィードバック」が北極海の危機をもたらす

北極海では氷のないエリアが危機的といえるくらい拡大しています。1979年から42年間で、日本国土面積の約7倍に当たる280万km2の海氷域が消失しました。日射量に対する反射率を指すアルベドの悪化が要因とされています。以下で検証してみます。

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図4:北極海の海氷域面積の推移

雪や氷のアルベドは一般的に0.7~0.8です。これに対し、北極海の海氷域の融解熱量*3と加熱量*4から反射率は、(加熱量-融解熱量)/加熱量≒0.74となります。意外に悪くありません。

では、北極海の海氷域面積が減ってしまった原因は何でしょうか。実は、国立極地研究所が2017年までにこのメカニズムを解明していました。そのメカニズムは「海氷-海洋アルベドフィードバック」といいます。

海氷-海洋アルベドフィードバックは、日射に対する反射率を指すアルベドが黒い開水面では白い海氷表面より小さいため、海氷域で開水面が一旦広がると、開水面から吸収された日射による熱により海氷が融解され、さらに開水面を広げ海氷融解を加速するという現象のことです。融解初期に海氷の発散量、つまり海氷が広がる方向に動く割合が大きいと、このフィードバックが有効に働き、融解が進みます。

2000年代以降、多年氷などの厚く動きにくい海氷が減ることで発散量が増加し、フィードバックが働きやすくなったことが海氷激減の一因と考えられます。

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図5:海氷-海洋アルベドフィードバック

最初は小さな「傷口」でも負のフィードバックが生じると元の状態に戻れなくなることをこの事例は示しています。温暖化懐疑論者もこの点は謙虚に直視してほしいものです。

次回は、第4回「2050年へ、カーボンニュートラル待ったなし」の予定です。

【注釈】

*1:理論値
⁠計算から導き出される値。この記事での理論値は、『環境問題の数理科学入門』(ジョン・ハート著、小沼通二・蛯名邦禎訳、2012年、丸善出版刊)によるもの。

*2:観測値
⁠観測により得られる値。この記事ではの観測値は、『地球温暖化はなぜ起こるのか』(真鍋淑郎・アンソニー・J・ブロッコリー著、増田耕一・阿部彩子監訳、宮本寿代訳、2022年、講談社ブルーバックス刊)によるもの。

*3:融解熱量
⁠固体が融解して液体になるときに吸収する熱量。 氷の平均厚を1.5kmと仮定する。氷の比重を、純氷の比重σi0.917に混在する空気があることから0.83と仮定する。氷の比熱を2.10J/g・Kとし、氷の温度を-40℃とする。氷の融解熱は334.72J/gとなる。280万km<sup>2</sup>が溶けた1980~2021年の42年間の計算は次の通り。Qi=280×1010m2×1500m×830kg/m3×(2.10×(40K)+334.72)×103kg/g[J]=1.460×10<J。

*4:加熱量
⁠大気の加熱熱はQo=151W/m2×280万km2×42年(秒)=5.600×1024J。

鹿子島 達志(Tatsushi Kagoshima)/ SCE・Net

1949年生まれ。九州大学工学部卒。鐘淵化学工業(株)(現カネカ)他2社を経験。生産技術や調達部門にて多くの大型海外工場建設の責任者として従事。マレーシアにエンジ会社のMD(社長)として2年間駐在。化学工学会のコストエンジニアリング部会員で活動、SCE・Net会員。現在、生産技術コンサル業のイーグレテック代表。