CO2原料化にヒートポンプ効率化、企業の対策【脱炭素社会への「本質」理解 第5回】

2022/11/29
Image

連載の目次

(タイトルは変更となる場合があります)

Chematelsの連載「脱炭素社会への『本質』理解」をお届けしています。前回の第4回「2050年へ、カーボンニュートラル待ったなし」では、気候変動への取り組みについて「カーボンニュートラル」などの政策を説明しました。今回はさらに、具体的な企業などの活動事例を紹介します。

科学と整合した削減目標イニシアチブ(SBTi)参加企業、世界で3700社超に

まず、国際機関のイニシアチブに応じる企業の状況を紹介します。

「科学と整合した削減目標イニシアチブ」(SBTi: Science Based Target initiative)という、世界の平均気温の上昇を1.5度未満に抑えるため、企業に対して科学的な知見と整合した削減目標を設定するよう求めるイニシアチブがあります。2014年9月、四つの国際団体、すなわち世界資源研究所(WRI:World Resources Institute)、世界自然保護基金(WWF:World Wide Fund for nature)、かつてカーボン・ディスクロージャー・プロジェクト(Carbon Disclosure Project)を正式名称としていたCDP、そして国連グローバル・コンパクトが運営主体となり設立しました。5~10年先を目標年として、民間部門における野心的な気候変動対策を推進しています。

2022年10月現在、SBTiに参加している世界の企業は3776社となっています。日本でも2015年のソニーを最初に2022年10月現在で認定企業は277社、また2年以内に科学と整合した削減目標を設定すると表明している企業を指すコミット企業は61社となっています。SBTiをめぐる今後の動向に注目すべきです。

二酸化炭素で化学品をつくる「人工光合成」が化学産業を救うかもしれない

「2050年までにカーボンニュートラルを達成し、脱炭素社会の実現を目指す」という日本の長期目標を達成するための方法の一つとして、二酸化炭素を“使用する”ことで削減するという革新的技術の研究が進められています。中でも「人工光合成」は、化学産業において、二酸化炭素原料として活用しようとする技術として注目されます。

人工光合成は、光触媒や分離膜などの技術を用いながら、太陽光エネルギーによって水を分解し、生成された水素を、工場などから排出される二酸化炭素と合成触媒によって合成させて、プラスチックなど化学製品の原料になるアルケン(オレフィン)という有機化合物を生成するものです。植物の光合成に倣った技術といえます。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO:New Energy and Industrial Technology Development Organization)と東京大学、また三菱ケミカルや富士フイルムなどの企業が産学官連携で推進しています。

Image

図1:植物の光合成と人工光合成

人工光合成に特に大きな期待を寄せている産業が化学産業です。化学産業は製品出荷額約46兆円、従業者数約95万人の巨大産業である一方で大量の化石資源を消費しており、二酸化炭素の排出量は産業分野の約22%を占めています。人工光合成が実用化されれば、二酸化炭素を削減するとともに、生成されたアルケンを化学製品の原料にできることから、温暖化対策の促進や資源の枯渇リスク回避を期待することができます。

熱を低温から高温に移動させる「ヒートポンプ」の実力に注目

企業の取り組みとしてもう一つ、高効率なヒートポンプの開発を紹介します。

ヒートポンプとは、少ないエネルギーで低温の熱源から熱を集めて高温の熱源へ送り込む装置で、まさに「熱を移動させるポンプ」といえます。ヒートポンプの片側は冷却され、同時に反対側は必ず加熱されます。

原理的には二酸化炭素を排出せず、熱源には空気中の熱や工場の低温排熱、河川水や工場排水、地中熱といったこれまで利用価値のなかった熱エネルギーが利用されます。このことから、未利用エネルギーの活用という側面もヒートポンプにはあります。

ヒートポンプのしくみは、「気体は圧縮すると温度が上昇し、膨張すると温度が下がる」という性質を利用し、冷媒を圧縮させたり膨張させたりして温度の上昇・低下を生じさせ、これにより熱を移動させるというものです。使ったエネルギー以上の熱エネルギーを得ることができるため、エネルギーを有効に使えます。

国際エネルギー機関もヒートポンプ活用の重要性を示す

ヒートポンプは、省エネルギーとともに二酸化炭素排出量の削減も図れる技術であるため、温暖化対策にも貢献します。2021年5月、国際エネルギー機関(IEA:International Energy Agency)は、具体的な脱炭素の取組みに向けたロードマップを提言し、ヒートポンプ活用の重要性を示しました。

プロセスにおけるエネルギー消費量が多大な化学産業などの産業分野においては、プロセス加熱にボイラー蒸気を使用する場合が多く、二酸化炭素排出の主たる要因となっています。そのため、省エネ化、二酸化炭素削減化は喫緊の課題となっており、ヒートポンプは最適な要素技術の一つとして考えられています。

高効率なヒートポンプの開発で省エネと二酸化炭素排出削減を加速

ヒートポンプ業界大手の前川製作所は、NEDOの「未利用熱エネルギーの革新的活用技術研究開発」で、最高200℃の熱を供給する高温ヒートポンプの開発を目指しています。これは、工場の生産プロセスで廃棄されている80~100℃程度の未利用熱を回収し、160~200℃程度の高温熱媒をエネルギー消費効率(COP)*1 3.5以上で供給するヒートポンプシステムを実現しようとするもの。2030 年に原油換算で年間600万キロリットル以上の省エネを目指しています。これほどの高温ヒートポンプは、世界でも前例のないものです。

Image

図2:高温ヒートポンプの開発
⁠(出所:NEDO未利用熱エネルキ゛ーの革新的活用技術研究開発 産業用高効率高温ヒートポンプの開発「低GWP冷媒を用いた産業用高温ヒートポンプの開発」/画像提供:前川製作所)

同社は、上記のNEDOプロジェクトに実施者として取り組む他、国際的にもエネルギー消費効率の高いヒートポンプシステム開発のためのプロジェクトに取り組んでいます。

2021年2月に開催された自然冷媒国際会議「ATMOsphere Japan 2021」では、「脱炭素工場」を実現できるヒートポンプソリューションを発表しました。蒸発・蒸留・乾燥などの工程を有する化学、食品・飲料分野などのエネルギー多消費産業に対し、「冷温水同時取り出しヒートポンプ」を導入することで大幅に省エネを促進し、二酸化炭素の排出削減を達成しています。

Image

図3:冷温水同時取り出しヒートポンプのイメージ
⁠(画像提供:前川製作所)

食品工場では、乾燥工程におけるバーナー利用時の排熱、調理・殺菌時の排水、クーリングタワーが放出する熱など、20~50℃の熱が大量に放出されています。同社は二酸化炭素を冷媒とするヒートポンプを使用することにより、65~120℃の比較的高温の熱として活用し、工場内での「熱のクローズドサイクル」が実現できたとしています。

次回は、第6回「地球46億年史には『全球凍結』時代も」の予定です。

【注釈】

*1:エネルギー消費効率(COP:Coefficient Of Performance)
⁠投入エネルギーに対する出力エネルギーの比をいい、成績係数とも呼ばれます。

鹿子島 達志(Tatsushi Kagoshima)/ SCE・Net

1949年生まれ。九州大学工学部卒。鐘淵化学工業(株)(現カネカ)他2社を経験。生産技術や調達部門にて多くの大型海外工場建設の責任者として従事。マレーシアにエンジ会社のMD(社長)として2年間駐在。化学工学会のコストエンジニアリング部会員で活動、SCE・Net会員。現在、生産技術コンサル業のイーグレテック代表。